《じっくり解説》黙示文学とは?

黙示文学とは?

黙示文学…

1.黙示文学.<復> 黙示文学とは旧約聖書の後期預言者の後の時代に,預言とは別の形で,神の奥義,世の終り等について記されたユダヤ教文書とキリスト教文書を言う.「黙示」([ギリシャ語]アポカリュプシス)という語はヨハネの黙示録1:1の「イエス・キリストの黙示」に由来している.これは啓示あるいは開示を意味し,神の奥義・秘義をそのベールを取り除いて明らかにすることを意味している.<復> 内容的には,諸天と世界の秩序,自然現象,創造の秘義,天使の名とその働き,終りの日と終末論的事柄,さらには神の属性の秘義について述べている.<復> 黙示文学としての類型化は比較的新しく,19世紀に始まった.しかし,最近の見解では,「黙示」という類型は,「黙示思想」と「黙示的終末論」からは区別されるべきであると言われている.<復> 顕著な黙示文学としては,「エチオピヤ語エノク書」(Ⅰエノク),「スラブ語エノク書」(Ⅱエノク),「ヨベル書」,「Ⅱエスドラス」(Ⅳエズラ),「シリヤ語バルク黙示録」(Ⅱバルク),「ギリシヤ語バルク黙示録」(Ⅲバルク),「シビュラの託宣」,「12族長の遺訓」,「モーセの昇天」,死海写本中の「戦いの巻物」等が挙げられる.これらは外典・偽典に属する.なお,正典のダニエル書とヨハネの黙示録を黙示文学の中に入れる見解もある.その他,黙示文学の諸要素は,部分的,断片的にイザヤ書(24‐27章),エゼキエル書,ヨエル書,ゼカリヤ書(9‐14章),マタイ(24章),マルコ(13章),ルカ(21章),Ⅰコリント(15章),Ⅱペテロ,ユダ等に見られると考えられている.<復> 2.歴史的背景.<復> 黙示文学の最盛期は,前2世紀から紀元2世紀にあると考えられる.前2世紀にはⅠエノク,前2—1世紀にはヨベル書,12族長の遺訓,紀元1世紀にはモーセの昇天,Ⅱエノク,Ⅳエズラ,(ヨハネの黙示録),紀元1—2世紀にはⅡバルク,Ⅲバルクが書かれたと考えられている.なお,ダニエル(前6世紀)を前2世紀のものとする見解もある.<復> 前2世紀はシリヤ王アンティオコス4世エピファネースによるユダヤ人迫害の時代であり,前167—164年(?)にはマカベア戦争があった.また,紀元1—2世紀はローマ帝国の支配下のキリスト教迫害の時代であり,64年にはローマの大火,70年にはエルサレムの陥落があった.この歴史的危機状況の下で終末論的黙示思想が生れた.預言の時代はすでに終り,預言とは異なる方法で文書を記した.それは預言者のような直接的な口頭伝達によらず,間接的に,物語,祈り,幻を通して,象徴的,比喩的に記述する方法をとった.しかも多くは,旧約の賢人の名を冠して書を著した.<復> 3.内容の分類とその特徴.<復> 黙示文書を内容的に分類すると,歴史的黙示と来世的旅に大別できる.<復> (1) 歴史的黙示.これは象徴的な夢・幻で表現されているもので,Ⅰエノク(83‐90章),ヨベル書,Ⅳエズラ,Ⅱバルク(35‐47,53‐77章)等に見られるものである(参照ダニエル7,8章).さらに,これらの歴史的黙示は事後預言と終末論的予告に分けられる.<復> a.事後預言.歴史的黙示の啓示内容には,まず,事後預言がある.これはすでに起った出来事を預言の形をもって述べているもので,来世的旅の黙示を除くほとんどのユダヤ教黙示文書に見られる.例えば,ヨベル23:11‐26,Ⅳエズラ11,12章,Ⅱバルク35‐47,53‐77章等に見られるものである.なお,ダニエル7‐11章をこの分類に入れる見解もある.さらに詳細には,この黙示的事後預言は歴史の区分化と統治預言に分けられる.<復> 歴史の区分化は,例えば四つの王国(Ⅱバルク56‐72章.参照ダニエル7章),70頭の羊(Ⅰエノク89章),10週(Ⅰエノク91章),12期間(Ⅱバルク56‐72章)等,その他,シビュラの託宣(1,2,4章)やクムラン文書にも見られる(参照ダニエル9章「70週」).<復> 統治預言とは,王と王国の盛衰興亡の預言であり,シビュラの託宣5:1‐5に見られるものである(参照ダニエル11章,8:23‐27).<復> b.終末論的予告(危機,さばき,救い).これは世の終りのしるし(Ⅳエズラ5,6,13章,Ⅱバルク27,70章等),宇宙的混乱,人間の事柄の崩壊が特徴である.この種の黙示は古代バビロニヤのものにあり,ギリシヤ・ローマの文学にも頻繁に出ている(参照ヨエル3:1,2,イザヤ24章).続く特徴は,さばきについての記述(Ⅰエノク90:20‐38,Ⅳエズラ7:33‐38.参照ダニエル7:9‐14)である.しかし,その関心が個人というよりも,むしろ,民全体にあることは特筆すべきである.さらに,天的な姿を持つメシヤの顕現(Ⅳエズラ13章,Ⅰエノク1章.参照ダニエル7:13,14)がある.これは旧約聖書における神の幻の伝承に基づくものと考えられ,カナン神話との関連を指摘する見解もある.その他,世界変容の預言がなされている.これは,旧約聖書(イザヤ11:1‐9,65:17‐25)の理想郷の託宣に基づいていると考えられる.<復> これらの啓示の手段は,まず象徴的な夢・幻である.「見よ」の語によって導かれ,天使によってその秘義が解明されていく.そしてこの象徴的な幻は寓話的に用いられている.これは旧約聖書のアモス書にある象徴的な幻の発展したものであるとか,中近東の象徴的な幻の応用とも考えられている.また,天使が解釈を行うことについては,ゼカリヤ書,エゼキエル書に見られ,これもペルシヤや中近東の夢解釈の影響と考えられている.<復> 次に,救世主の顕現という方法がとられている.例えば,ダニエル10章に登場する天使のように超自然的な姿を持ち,その幻の中で神のメッセージが告げられている.神が夢の中に現れるのは創世20:3,31:24等にすでに見られるが,中近東の夢報告の中にも見られる.<復> その他,天使的論述,啓示的対話(後期グノーシス的黙示の中に顕著),ミドラシュ(聖書本文をよりわかりやすくする方法論の一つで,ヨベル書には創世記に関するミドラシュがある),ペシェル(解釈の意でクムラン文書の夢解釈にある)の手段が用いられている.<復> (2) 来世的旅.これは部分的には歴史的黙示と重複していて,やはり,天使が介在する.しかし,前述の象徴的な夢・幻が寓話的であるのに対し,この来世的旅は神話的・写実的である.これは中近東の夢物語との関係が認められる.例えば,Ⅰエノク13,14章,Ⅱエノクに見られる空想的な上昇,下降,帰還が物語の枠の中で表されている.これは,アッシリヤの夢物語の中にあるものと類似している.上昇と下降については聖書の伝承の中には見出されず,むしろ,バビロニヤ地域の女神に関するものや,ギリシヤ・ローマ世界の哲学書の中に見出される.<復> その啓示の内容は,太陽,星,自然現象,報いと刑罰の場所(死者の住居),天使,神の御座等の宇宙論的事柄である.まず,宇宙論的な秘義に関する要約リストが,終末論的関心を含んで,Ⅰエノク41:1‐7,43:1,2,60:11,12等に挙げられている.次に,天とよみに関する記述が見られる.まず,義人の住居がⅠエノク39章,Ⅱエノク9章,Ⅲバルク4章にあり,死者の住居がⅠエノク22章に描かれている.さばきの光景がⅠエノク62章,アブラハムの遺訓に見られる.神の御座については,旧約聖書の預言的伝承(Ⅰ列王22章,イザヤ6章,エゼキエル1章)の中にあり,ダニエル7章にも見られる.この他界への旅の幻では,Ⅰエノク14,60,71章,12族長の遺訓(レビの遺訓),Ⅱエノク20‐21章,アブラハムの黙示録18章等に神の御座が描かれている.基本的には,天使に囲まれて,神が御座についておられる情景であるが,Ⅰエノク61‐62章には,神の傍らに「人の子」あるいは「選ばれた者」が栄光のうちに座している様子が描かれている.次に,悪のリストがⅢバルク8,13章,12族長の遺訓に記述されている.これは,ギリシヤ哲学の特徴の一つであり,パウロ書簡にも見受けられる.<復> これらの啓示の手段については,まず,他界への旅の上昇の手段に,雲(Ⅰエノク14,39章),天使の翼(Ⅱエノク3:1),鳥の翼(アブラハムの黙示録),馬車(アブラハムの遺訓)等が用いられている.下降はⅠエノク22章に記述されている.また,旅の報告という形式がⅠエノク,アブラハムの遺訓に使われている.さらに,多数の一連の天を通る上昇の報告という形式も見られる.旧約聖書では,諸天と単なる天とは区別されている(Ⅰ列王8:27)が,多層の天という黙示的区分はバビロニヤの影響を受けてヘレニズム時代に初めて現れたと考えられている.パウロは第3の天にまで引き上げられた(Ⅱコリント12:2)が,Ⅲバルクには五つの天があり,神の御座は,まだその上にあると書かれている.しかし,諸天の標準数は,Ⅱエノク,アブラハムの黙示録,イザヤの昇天,その他,ラビ的伝承の中に見られるように,7と考えられる.この七つの天の区分は,バビロニヤの七つの星の観察や,ペルシヤの宗教からの影響と考えられる.これら来世的旅の幻には,「見よ」の導入句はなく,単に「私は見た」に導かれ,神秘的・写実的に描かれている.<復> 4.思想的特徴.<復> 終末論的黙示は,歴史的危機状況下の迫害と試練に苦しむ人々に対して,信仰を堅持し,やがて来る,神の義しいさばきの日を待ち望むようにと励ましを与えている.従って,その重要な思想は神義論である.悪の力の支配する時代(古い世・アイオーン)の歴史の中に,やがて神が介入され,悪を滅ぼし,神の国(新しいアイオーン)を来らせるという歴史的二元論である.また,ここには,義しい者と悪しき者という倫理的二元論も展開されている.この終末論的期待,二元論,秘義思想については,マカベア時代のハシディーム(敬虔派)やクムラン教団及び初期エッセネ派との関係が指摘されている.<復> 次にメシヤ思想が挙げられる.天的存在の「人の子」が,Ⅰエノク37‐71章(「選ばれた者」「人の子」),Ⅳエズラ13:1‐52(天の雲に乗られる方)に登場している(参照ダニエル7:13,14「人の子…天の雲に乗って」,8:15「人間のように見える者」).この天的「人の子」は,地上から悪を駆逐する審判者であり,義しい人々を救う救済者であり,天使よりも高位にある存在として描かれている.<復> 続いて,天使論が挙げられる.黙示文書には多くの天使が登場し,神の働きの代理者として,特に,夢・幻を解く解釈者として,また,空想的旅の案内役として描かれている.天使の名が,トビト書にはラファエルが,Ⅰエノクにはミカエル,ガブリエル,サリエル,ウリエル,その他,天使の長たちが,Ⅳエズラにはウリエルが,クムランの「戦いの巻物」にはミカエル,ガブリエル,サリエル,ラファエルが出ている(ダニエル書ではガブリエルとミカエル).<復> 5.黙示文学の価値.<復> 黙示文学はヘレニズム時代のユダヤ教の中で生れたと考えられている.初期の黙示文書は旧約聖書の伝承にバビロニヤとペルシヤの思想の影響を受けて成立し,後の文書は,さらにギリシヤの思想の影響を受けて,キリスト教会の中で生れたと考えられている.そして,これらの文書を外典・偽典として,今日まで保存してきたのは,ユダヤ教でなく,キリスト教であったという事実は一考に値する.従って,これらが記された時代の歴史や思想を単に知るためだけでなく,ユダヤ教とキリスト教の相互の関連と影響力を知る上でも,黙示文学には重要な価値がある.<復> (1) 新約聖書との関連.新約聖書の中に黙示文学との関連を見出すことができる.まず,共観福音書のマタイ24:29‐31,マルコ13:24‐27,ルカ21:10‐36の中にある天変地異のしるし(天変地異,人の子と天使の顕現)やイエスの自称・「人の子」の天的な要素等は黙示文学からの影響と考える見解もある.なお,神の御座の右に座す「人の子」(ルカ22:69,使徒7:56)は詩篇110:1からの引用であるとともにⅠエノク61,62章からの影響を指摘する見解もある.<復> さらに,ユダ9節にはモーセの昇天から,14,15節にはⅠエノクからの引用が見られる.また,Ⅱペテロ2:4もⅠエノクからの引用がなされ,ここに顕著な影響力を見ることができる.<復> (2) ヨハネの黙示録との関連.ヨハネの黙示録を黙示文書の中に入れるか否かについては議論がある.しかし,黙示文学の諸要素を内包していることは明らかである.幻や象徴と比喩(獣,数字等)の手段が用いられ,天上界,地上界に異変があり,神のさばきが劇的に展開されている.また,天使が登場し,最終的には,悪魔に対する決定的な勝利がもたらされるという二元論的な表現がなされている.<復> このように,黙示文学がキリスト教会に与えた影響は決して小さくはない.また,黙示文書の多くが外典・偽典として位置付けられているという理由で過小評価されてはならない.→外典と偽典.<復>〔参考文献〕山口昇「ヨハネの黙示録」『新聖書注解・新約3』いのちのことば社,1972;E・ローゼ『新約聖書の周辺世界』日本基督教団出版局,1976;Collins, J. J., Daniel with introduction to Apocalyptic Literature, Eerdmans, 1984 ; Kock, K./Schmidt, J. M.(eds.), Apokalyptik, Wissenschaftliche Buchgesellschaft, 1982 ; Sparks, H. F. D. (ed.), The Apocryphal Old Testament, Clarendon Press, 1984 ; Hellholm, D. (ed.), Apocalypticism in the Mediterranean World and the Near East, J. C. B. Mohr, 1983.<復>(津村春英)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社