《じっくり解説》外典と偽典(旧約,新約)とは?

外典と偽典(旧約,新約)とは?

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外典と偽典(旧約,新約)…

1.定義と分類(概略).<復> 聖書の正典66巻以外の書で,ユダヤ教またはキリスト教の内部または周辺で紀元前後数世紀に書かれ,内容的には聖書に関連あり,ユダヤ教またはキリスト教会の一部において,一時期,聖書に準ずる取り扱いを受けたことのある諸書.大まかに区分して「旧約聖書外典」「旧約聖書偽典」「新約聖書外典」に分けられる.<復> 2.語義.<復> 日本語としては「外典」は「正典外の書」,「偽典」は「偽りの著者名を持つ書,内容的にもいかがわしい書」といった語感で,一般に受け取られている.元来は[ギリシャ語](biblia) apokrupha,及びpseudepigrapha.前者は「隠された(書物)」の意で,もともとはその教えの内容が秘義的,奥義的,神秘的であるため,資格のある個人または集団にのみ読むことが許された書,の意味で用いられた.「第4エズラ書」(第2エスドラス書)14章37節以下に,神の霊に満たされたエズラが40日間に94冊の書を口述し,5人の男がそれを筆記,そのうちの24冊(=旧約39巻)は公にして,ふさわしい者にもふさわしくない者にも読ませよ,しかし,残りの70冊は民の賢者に渡すよう保存しておくように,と神に命じられるのがまさにその秘義的書物の意味である.しかし,後にはそのような秘義的集団が異端的傾向を帯びたため,正統的な教会が「信徒の目から隠されるべき書」として,排除的,否定的な意味で「アポクリファ」と呼ぶようになった.ただし現代では否定的ニュアンスは弱い.後者は[ギリシャ語]pseud(偽の)という接頭辞の示す通り,「偽の著者名を持つ書物」の意味で用いられた.「異端的な内容を持つ書」の意味も含ませたようである.<復> 3.キリスト教会と外典・偽典.<復> 〈正典・外典・偽典〉という概念は〈教会〉と切り離せない.正典の範囲が(聖霊の導きのもとに)教会によって最終的に決定されたように,外典・偽典という取り扱い決定も〈教会〉によってなされる.先にユダヤ教会が旧約正典を決定(結集)したが,キリスト教会がそれを継承し,新約27巻を加えてキリスト教会の正典とした.その過程の中で外典・偽典の問題が浮び上がってきた.その後の教会の歴史の中で,正典66巻については問題ないが,外典についての取り扱いに関しては,東方教会(正教会),カトリックと,プロテスタントの間に幾分かの差違が生じた.すなわち,前二者においては,外典中のあるものを正典に加える.従来,日本のプロテスタントの一般信徒レベルでは「外典」はほとんど身近な存在ではなかったが,1987年,日本聖書協会で「新共同訳」(旧約聖書続編つき)を刊行する際,カトリックで「第2正典」とされる諸書を,「旧約聖書続編」の名のもとに,旧約と新約の中間に入れたことにより,この問題が身近になってきた.なお,それとは別に,聖書学の領域でこの分野に関する研究が進み,外典・偽典のリストに含まれるべき書は増加し,そうした事情も加わって,外典・偽典の範囲と分類は複雑な問題となってきた.<復> 4.リストと分類.<復> まず,日本聖書学研究所によって翻訳・編纂され,教文館から刊行された『聖書外典偽典』によるリストを示す.<復> (1) 旧約聖書外典.<復> ①第1エズラ書<復> ②第1マカベア書<復> ③第2マカベア書<復> ④トビト書<復> ⑤ユディト書<復> ⑥ソロモンの知恵<復> ⑦ベン・シラの知恵<復> ⑧バルク書<復> ⑨エレミヤの手紙<復> ⑩マナセの祈り<復> ⑪ダニエル書への付加(アザリヤの祈りと3人の若者の歌,スザンナ,ベルと龍)<復> ⑫エステル記への付加<復> (2) 旧約聖書偽典.<復> ⑬アリステアスの手紙<復> ⑭第4マカベア書<復> ⑮シビュラの託宣<復> ⑯スラヴ語エノク書<復> ⑰ピルケ・アボス<復> ⑱ヨベル書<復> ⑲エチオピア語エノク書<復> ⑳ソロモンの詩篇<復> ②1シリア語バルク黙示録<復> ②2第4エズラ書(第2エスドラス書)<復> ②312族長の遺訓<復> (3) 新約聖書外典.<復> ②4オクシリンコス・パピルス840<復> ②5同654<復> ②6同1<復> ②7同655<復> ②8カイロ・パピルス10735<復> ②9エジャトン・パピルス2<復> ③0ファイユーム断片<復> ③1エビオン人福音書<復> ③2ヘブル人福音書<復> ③3エジプト人福音書<復> ③4ヤコブ原福音書<復> ③5トマスによるイエスの幼時物語<復> ③6ペテロ福音書<復> ③7ニコデモ福音書<復> ③8ラオデキア人への手紙<復> ③9パウロとコリント人との往復書簡<復> ④0セネカとパウロの往復書簡<復> ④1パウロの黙示録<復> ④2シビュラの託宣<復> ④3ペテロ行伝<復> ④4パウロ行伝<復> ④5ヨハネ行伝<復> ④6アンデレ行伝<復> ④7トマス行伝<復> (〇に入れた番号は,以下の説明の便宜上,千代崎が付けたもの)<復> (4) 旧約聖書偽典補遺.<復> 上記の(1)—(3)にはないが,ロストの『旧約外典偽典概説』(教文館)に取り上げられているもの.<復> ④8第3マカベア書<復> ④9ギリシア語バルク黙示録<復> ⑤0モーセの昇天<復> ⑤1イザヤの殉教<復> ⑤2アダムとエバの生涯<復> (5) その他.<復> 同じくロストによる.ただし「付説」として叙述されていることでもわかるが,一般には〈外典・偽典〉の中には数えられない.⑤3から⑥1はいわゆるクムラン写本に含まれる.<復> ⑤3共同体の規則<復> ⑤4ダマスコ文書<復> ⑤5戦いの巻物<復> ⑤6ハバクク書注解<復> ⑤7外典創世記<復> ⑤8感謝の詩篇(ホダーヨート)<復> ⑤9神殿の巻物<復> ⑥0アヒカル<復> ⑥1フィロン偽書<復> 5.概説.<復> (1) 旧約聖書外典.<復> a.リスト比較.(2)(3)に比べれば(1)のリストが最も安定しているが,それでも次のような異同がある.まず新共同訳の「旧約聖書続編目次」では,上記4.に挙げた番号で略記すると次の順になっている(書の表題の違いが著しいものだけは,新共同訳の書名を番号に添える).<復> ④,⑤,⑫エステル記(ギリシア語),②,③,⑥知恵の書,⑦シラ書〔集会の書〕,⑧,⑨,⑪,①エズラ記(ギリシア語),②2エズラ記(ラテン語),⑩.(以上,新共同訳の「旧約聖書続編」).<復> このうち,カトリック教会は⑪まで(すなわち①②2⑩を除く)を「第2正典」とする.東方正教会(ギリシヤ正教,ロシア正教など)では④,⑤,②,③を旧約正典に加える.<復> b.歴史的経過.ヘブル語旧約聖書が最終的に正典化されたのはヤムニア会議においてであるが,その選から外れた古代ユダヤ教文書のあるものは,キリスト教会で尊重され,聖書に準ずる扱いを受けた.ただしその度合はまちまちで,ある一部地方の教会でのみというケースも含む.この旧約聖書外典は,70人訳聖書に含まれたことで,その準正典的位置を確かなものとした.その70人訳中の「外典」のリストは,新共同訳の「旧約聖書続編」リストに④7,④8を加え,②2を除いている.ただし,このリストは写本によって多少の異同がある.これら旧約聖書外典は,次第に正典との区別が薄れ,カトリック教会では正典と区別しないことを基本的立場とするに至った.この区別を明確にするようになったのは,ルター以降の宗教改革者たちであり,これがプロテスタントの基本的立場となった.<復> c.各書略説.<復> ① 第1エズラ書(第1エスドラス書).内容的には,ヨシヤ王の時の過越からエズラの活動に至るまでの歴史で,正典の歴代誌最後の2章及びエズラ記,ネヘミヤ記と並行する.新共同訳では「エズラ記(ギリシア語)」としている.その第3,4章は独自の記事で,ダリヨス王の3人の護衛の若者(その3人目がゼルバベルとされる)の物語である.<復> ② 第1マカベア書.アレクサンドロス大王の死後,ユダヤを支配したシリヤ王アンティオコス4世・エピファネースの即位(前175年)から40年間の歴史.この王はイスラエルをヘレニズム(ギリシヤ文化)化しようとし,それに抵抗するユダヤ教徒を迫害した.ついに祭司マッティアのもとに反シリヤ闘争が起り,マッティアの死後はその子ユダ・マカベアの指揮によって果敢な戦いを進め,アンティオコスに汚されたエルサレム神殿を奪還し,きよめた.この,いわゆるマカベア戦争が本書の主要内容である.<復> ③ 第2マカベア書.この書は②とおよそ同じ時代,同じマカベア戦争前後の歴史を記すが,②がマカベア家(ハスモン家とも言う)中心の叙述であるのに比して,本書は神殿中心思想を特色とする.カトリック教会の教理である「死者のためのとりなし」と「聖人のとりなし」の思想は本書に見られる(12章43節以下と15章12‐16節).<復> ④ トビト書.敬虔なユダヤ人トビトは,捕囚の地ニネベで不幸に陥り,死を願う.彼の親族サラも,メディヤのエクバタナ(アフメタ)で不幸に遭い,死を願って祈る.トビトの息子トビヤは,父の依頼でエクバタナへ旅し,旅人に化けた天使が同行する.天使は悪魔を捕え,トビヤはサラと結婚し,トビトも不幸の原因だった失明をいやされる.文学的素材には異教的要素が目立つが,著者の宗教的態度はユダヤ教の特色を明らかにする.<復> ⑤ ユディト書.敬虔な美しい寡婦ユディトが,アッシリヤ軍に包囲された町を救う物語.その美貌によって敵の将軍をとりこにし,欺いて酔いつぶしてその首をはね,敵陣から町へ戻る.ヘレニズム時代のユダヤ教の様子を知ることができる.<復> ⑥ ソロモンの知恵(新共同訳「知恵の書」).旧約の知恵文学の延長的な内容であるが,時代はギリシヤ文化の圧倒的影響下にある中間時代で,イスラエルの伝統的な信仰的知恵を継承しつつも,異教に対しては柔軟な態度を示し,ギリシヤ哲学をある程度受け入れつつ,ユダヤ教の優位を論証しようとする.<復> ⑦ ベン・シラの知恵(新共同訳「シラ書〔集会の書〕」).同じく知恵文学の系列で,箴言の影響が大きい.日常生活の諸側面にわたり処生訓を述べるが,知恵の根本は主を恐れ律法を尊ぶことにあるとする.51章あり,中間時代のユダヤ教の主流派の思想を知ることができる.<復> ⑧ バルク書.エレミヤの書記ネリヤの子バルク(エレミヤ45:1)の筆になるという設定(バルク書1章1節)だが,学者の推定によれば前2世紀から後1世紀の間の作とされる.捕囚の民への訓戒と激励を述べる預言者的性格の内容.<復> ⑨ エレミヤの手紙.1章全72節の小書.偶像礼拝の愚を指摘して,エレミヤ10:2‐5の展開の観があるが,後代の偽作.<復> ⑩ マナセの祈り.Ⅱ歴代33:11‐13,19に基づく後代の創作とされる.短いが美しい祈りの書で,神のあわれみと罪人の悔い改めを強調する.<復> ⑪ ダニエル書への付加.ダニエル書のギリシヤ語訳にあって正典ダニエル書には含まれていない三つの付加部分.炉に投げ込まれた三青年の賛美と祈り.無実の罪に陥れられようとする婦人スザンナを若者ダニエルが救う物語.バビロンの偶像との関連におけるダニエルの物語.<復> ⑫ エステル記への付加.エステル記ギリシヤ語訳に挿入された六つの付加部分.<復> d.まとめ.旧約聖書外典は,中間時代のユダヤ教的信仰の産物として,ある意味では信仰的励ましを受ける部分もあり,読むことは建徳上有益,という評価も可能である.しかし,信仰による義認という福音的信仰とは異質的部分もあり,教理の根拠とするのは問題である.特に外典にのみ根拠を有するような教理は,プロテスタント信仰からは排除されるのが正しい.ただし聖書研究の補助資料として,特に中間時代を知るためには,少なからぬ価値がある.このような評価の基準から言えば,旧約聖書外典と旧約聖書偽典との差はあまり大きくない.しかし旧約聖書外典と正典との差は大きいと言うより以上に,本質的である(→本辞典「聖書の正典」の項).<復> (2) 旧約聖書偽典.このグループが外典から区別されたおもな理由は,70人訳に入らなかったこと,と言える(大まかな理由付けであるが).区分や範囲は,外典以上に流動的である.<復> ⑬ アリステアスの手紙.ギリシヤ人アリステアスから兄弟フィロクラテスへの手紙という形で,70人訳の翻訳のいきさつを報告する内容.70人訳翻訳は,12部族から各6人が選ばれた72人により,72日間で仕上げられた,と本書は伝える.この伝承の歴史的価値については,近年積極的に評されている.この訳は旧約聖書(ただしモーセ五書のみ)が最初に外国語(ギリシヤ語)に翻訳されたものとして,歴史的画期的な存在である(→本辞典「聖書翻訳」の項).<復> ⑭以下は略す.ただし②2第4エズラ書(第2エスドラス書)については,本書がいわゆる「黙示文学」に属するもののうち代表的な作品であることは,知っておく必要がある.なお,⑥1までリストに挙げたが,それ以外の諸書の名については,『聖書外典偽典』別巻,補遺Ⅱ,巻末の「旧約聖書外典偽典一覧」を参照のこと.<復> (3) 新約聖書外典.これに分類される諸書は,内容評価から言えば,旧約聖書偽典と同じレベルで取り扱うべきである.先に挙げたリスト以外の諸書の名については,『聖書外典偽典』別巻,補遺Ⅱ,巻末の「新約聖書外典一覧」を参照のこと.→聖書の正典,聖書翻訳,ユダヤ教,黙示文学.<復>〔参考文献〕日本聖書学研究所編『聖書外典偽典』教文館;レオンハルト・ロスト『旧約外典偽典概説』教文館,1972;千代崎秀雄「黙示文学について」『新約聖書注解・旧約4』pp.48—66,いのちのことば社,1974.(千代崎秀雄)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社