《じっくり解説》感情とは?

感情とは?

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感情…

[英語]Feeling,[フランス語]Sentiment,[ドイツ語]Gefu¨hl.人間の行動や多種多様な心的状態を表す言葉の総称である.元来は哲学の分野であったが近年では心理学の研究分野となっている.しかし,体系的,理論的な統一見解はなく,研究も遅れており,諸理論の中で取り扱われている.感情を行動パターンとして,生理学的,生物学的,神経学的にとらえたり,感情を行動の動機的機能の面から学習理論の枠組みでとらえたり、感情の喚起過程や言語及び非言語的表出に関する問題としてとらえたりしている.また,精神医学や臨床心理学的に精神力動の分析に用いたりしている.<復> 1.感情の定義.<復> 行動や経験の情感的な面を表現する総称的用語である.日本語及び外国語でも,類似した言語は多い.英語と日本語との関連を以下に示す.<復> 感情(Feeling),情感(Affection),情操(Sentiment),情動(Emotion),情念(Passion).<復> 現代の心理学では,皮膚感覚的な表現に近い感情Feelingと情動・情緒Emotionを含めて日本語でも情動という言語を用いる場合が多くなっている.Emotionという英語の語源はラテン語のemovereで「揺り動かす」「かき回す」という意味を持っている.外界からの刺激によって揺り動かされ,揺すぶられ,かき回された精神の状態を示す概念であり,感情もこのような精神力動を示す言語と理解するのが望ましい.<復> 2.感情・情動の種類.<復> ギリシヤ時代から哲学の分野で分類されたり,文学的な表現上の言語として研究されたりしてきた.哲学者デカルト(Descartes, R.)は基本的感情として次の六つを挙げている.愛,憎しみ,願望,喜び,悲しみ,称賛.スピノーザ(Spinoza, B.)は喜び,悲嘆,願望の三つを基本的感情とし,すべての感情はこれから分化して生じると主張した.発達心理学者のブリジェス(Bridges, K. M. B.)は誕生直後からの子供の感情の発達的変化を観察し,すべての感情は新生児期の快—不快の反射的表出から分化して次第に複雑な感情を表出し,理解することができるようになり,満2歳頃までに基本的な感情を学習すると述べている.プルチック(Plutchik, R.)は情動を立体的,構造的にとらえ,混合した情動は様々に複雑な組合せにより構成されるとしている.<復> 図1「情動の多元的模型」は情動の構造的模型を示し,隣接する情動は組合せによって多種多様な混合体をつくり出すのである.<復> 3.感情の理論.<復> 人間の行動を全体的,総合的に理解する上で感情は重要な概念であるが,今世紀に至るまでその研究は主観的,観念的であった.感情及び情動研究の先駆的学説は今世紀直前に発表されたジェイムズ(James, W.)による生理心理学的研究である.彼は身体的変化(生理的変化)が感情に先行するという新しい見解で,神経の末梢的興奮の意識が感情であると指摘する.知覚が情動を引き起すという従来の考え方の逆である.すなわち,悲しいから泣くのでなく,泣くという生理的,末梢的反応を意識化することによって悲しいという情動が生じると主張するのである.後にデンマークの生理学者ランゲ(Lange, C.)も情動における身体的変化を先とする仮説を主張し,この2人の生理心理学的仮説はジェイムズ・ランゲ説と呼ばれ,感情の主観的・個人的な面が強調された.この説は感情の生理心理的な面での研究を大いに促進した.しかし,ウォトスン(Watoson, J. B.)やキャノン(Cannon, W. B.)はこの末梢起源説を批判し,情動は刺激によって引き起される単なる反応ではなく,中枢の介入によると指摘した.多くの実験をもとに大脳中枢の視床を情動の″座″であるとし,情動の中枢起源説を唱えた.キャノンは痛み,恐怖,怒り,空腹等を神経学的にとらえ,情動研究を進めた.<復> フロイト(Freud, S.)を中心とする精神分析学派は情動を精神力動的にとらえ,抑圧された精神の解放は,抑圧された情動を自由連想法や夢分析,催眠法等によって放出することによって可能であるとし,治療に用いた.<復> 実験科学としての心理学を確立したヴント(Wundt, W.)は感情の要素を見付け出そうとし,多くの実験を重ね,感情の3方向説(快—不快,緊張—弛緩,興奮—沈静)を打ち出し,あらゆる感情はこの軸の上に位置付け得るとした.<復> 4.主要な感情・情動.<復> 知性が精神の構造を形成するものであれば,情動は精神のエネルギーの源泉であり,あらゆる高次の人間行動すべてにかかわりを持っている.個人の情動の発達—分化と社会化は,その個人の人格特性とともに価値観,社会・文化的要因によって異なってくる.人の感情の中で何が主要であるかを決めるのは困難である.前述のプルチックの情動の立体的構造図や図2「感情の対の組合せ」を参考にして,幾つかの主なる情動を取り上げる.<復> (1) 喜び・喜ぶ.人間の行動や状態を肯定し、欲求が達成されて快の方向に精神状態が向いている.快は生理的側面での強調が見られるが,喜びは中枢的であり,価値観に合致した感情である.喜びは身体表出も伴うが,価値観,倫理観,宗教観に強く影響される場合は内面的で静的でほとんど身体表出をもたらさない喜びもある.喜びはそれを感じ体験する人にとってはエネルギーの持続的な高揚をもたらし,生きる力や希望を増し加える.喜びは生命体を支え,活動を促進させる.喜びの隣接感情としては,満足,笑い,ユーモア,うれしさ,楽しさ,安心等がある.喜びはその質と強さに大きな幅があるが,愛はさらに高次元の倫理的,宗教的意味を含む概念と考えたい.喜びは現在と未来に志向する感情であり,存在すること,生きることを肯定的に受容し,困難に耐える力の源ともなる.<復> (2) 悲しみ・悲しむ.プルチックの基本情動の対を見るならば,喜びと対称的位置にあるのが悲しみである.希望が打ち砕かれたり,奪われたり,欲求の充足がなされず,生命の活動が低下する状態である.悲しみは失望や後悔を伴い,一時的,長期的に活動を萎縮させる.関心の範囲を狭くし,未来に向かっての意欲を減少させる.思いを一点に集中させる力はある.深い悲しみを起させる対象の多くは代償のきかない場合が多く,悲しみの状態は長期にわたって続く.幼児期・児童期の悲しみ,青年期の悲しみ,大人の悲しみと対象や深さは年齢とともに変化する.<復> (3) 恐れ・恐れる.対象,状態及び将来に起る可能性のある事象に対して強い不安や心配,近寄りがたい心の状態や拒否の気持になること.恐れの情動が生じている場合,対象や状況から空間的,心理的に離れようとし,時間の経過に対しても不安が強まる.身体は緊張し,堅くなり,活動は萎縮して自由を失う.対象に束縛を感じたり取り付かれたりして活動の展開が妨げられる.恐れの情動は反復することによって条件付けられたりする.恐れの強度は当人の人格特性によって異なる.<復> (4) 怒り・怒る.人やその行動,状況に対して受け入れることのできない強い拒否の気持や反発,抵抗,攻撃的な気持を行動で示した情動である.激怒は最も強い怒りで,身体的,生理的反応も伴う.血圧や血流量は上がり,上気して語気も荒くなる.弱い怒りの場合は当惑,うろたえ,反発等を伴ったり,内向したりする.一時的に怒りが破壊行動に出る場合もあるが,長期的に持続することは少ない.憤りは社会正義や倫理観から生じる場合が多く,精神的,価値的怒りとも言える.<復> (5) 驚き・驚く.予期していない人,物,状況が目の前に現れたり,生じたりした時に緊張したり,混乱したり,目を見張ったり,恐れを感じたり,びっくりする情動である.驚きが生じた時,興味や関心が喚起されて対象に接近しようとする場合と、驚きが恐怖を伴うとむしろ対象から離れようとする.驚きがあまり強いと混乱や不安を起す場合もある.人の成長過程には知覚的にも,精神的にも,知的にも驚きの体験は重要である.<復> (6) 憎しみ・憎む.人や状況を強く否定し,受容できず,批判し,無きものにしようとさえ思う強い情動である.嫌悪の気持を持って対し,人間関係に心理的な壁をつくってしまう.強い憎しみの場合は行動で表すが,弱く,繰り返し生じる憎しみは内向し抑圧されて無意識レベルに追いやられる.それが長期化し,蓄積されると爆発的にあふれ出る場合が多い.しばしば人間関係や個人の内的平安を乱す要因となる.憎しみの表出は子供の場合は身体的,表情等で起るが,大人の場合にはむしろ内向して無意識化してしまう.ここに困難な問題が潜んでいる.攻撃,敵意,侮辱,嫌悪等が憎しみに近い情動であり,人間の行動に混乱をもたらしたり歪みを生じさせる情動となる.<復> 5.感情表現のみことば.<復> (1) 喜び.旧新約聖書の中で「喜び」という感情を表すことばは非常に多く用いられている.喜ばしい,喜ばせる,大喜び,喜び歌う,喜び叫ぶ,喜び楽しむ等の合成語としても用いられている.ガラテヤ5:22「御霊の実は,愛,→喜び/・・←,平安…」とはっきり書かれているように,御霊の働きによって整えられる心的状態の一つであるとパウロは述べている.詩篇100:1,2「全地よ.主に向かって→喜び/・・←の声をあげよ.→喜び/・・←をもって主に仕えよ.→喜び/・・←歌いつつ御前に来たれ」.ここでは信仰者が主への賛美をささげる時の心の状態が「喜び」であることをはっきり述べている.またⅠコリント13:6「真理を→喜ぶ/・・←」のように知性や理性を伴う行為にも用いられている.みことばに見る「喜び」は御霊の働きによってもたらされる情動であると言える.<復> (2) 悲しみ.旧新約両方に多く用いられている.出エジプト33:4「民はこの悪い知らせを聞いて→悲しみ/・・・←痛み…」のように一般的な意味の「悲しみ」にも用いられているが,マタイ5:4「→悲しむ/・・・←者は幸い…」,Ⅱコリント7:10「神のみこころに添った→悲しみ/・・・←…」では神の御旨に一致しない状態に対する霊的に深く打ち沈んだ状態を表現している.同じ箇所に「世の→悲しみ/・・・←は死をもたらします」とあり,世の「悲しみ」と霊的「悲しみ」が同じことばで表現されている.<復> (3) 恐れ.聖書には「恐るべき」「恐れおおい」「恐れかしこむ」「恐ろしさ」「恐ろしい」等の表現で使われている.出エジプト20:20「あなたがたに神への→恐れ/・・←が生じて…」,使徒2:43「一同の心に→恐れ/・・←が生じ…」等旧約新約ともに恐れの対象が神また神のわざである場合が多い.人間はすべて罪人として神に対する時恐れを持つ者である.人は様々な対象に向かって恐れを感じるが,最も強く深い霊的レベルでの恐れは神に対してである.その恐れを越えるのは愛であるとみことばは語る.Ⅰヨハネ4:18「愛には→恐れ/・・←がありません.全き愛は→恐れ/・・←を締め出します」.<復> (4) その他の感情を表すことば.怒りについても人の怒り,主の怒りが旧新約両方に用いられている.神の怒りに対して人は全く弁解の余地はない.苦しみ、憂い,痛み,憎しみ,楽しみ等一般的な感情表現のことばは聖書の中に多く使われているが,いずれも人間の心の状態を表出しており,信仰の深まりに伴って感情も霊的になり単なる情動の表現とは異なってくる.信仰者の感情は一般的なことばであっても霊的な意味を持つ場合が多く質的に個人差もある.<復>〔参考文献〕浜治世編『動機・情緒・人格』(現代基礎心理学8)東京大学出版会,1981;金子武蔵編『感情』理想社,1975;『新聖書語句辞典』いのちのことば社,1988;宇沢弘文他編『転換期における人間』岩波書店,1989.(柏木道子)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社