《じっくり解説》祈りとは?

祈りとは?

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祈り…

恵みと真実とをもって招かれるまことの神に,思いにおいて,また多くの場合ことばをもって,近付き,その神と,いのちの交わりを持つこと.<復> 1.祈りの対象.<復> キリスト者の祈りに関する限り,その祈りの対象は,父なる神,御子イエス・キリスト,そして御霊なる神,すなわち三位一体なる神のみである.自然現象,偶像,人間,死者,悪霊,サタンはもちろんのこと,聖人や天使でさえも,祈りの対象とはされ得ない.<復> 2.祈りの種類.<復> 公同の祈りにせよ,個人の祈りにせよ,祈りというと,普通は祈願と同意義に考えられるが,実は,その内容には,さらに幅広いものがある.<復> (1) 賛美の祈り.神による創造の不思議,その摂理の偉大さ,贖いのあふれる恵み,永遠の御国の栄光などに心を向ける時,キリスト者の心に,くちびるに与えられるのが,この祈りである(参照詩篇19:1,ローマ11:33,36).<復> (2) 感謝の祈り.すでに受けた恵みを思い起し,今その中に置かれている神の愛を覚え,それらが永遠に変らないことを信じてささげられるのが,この祈りである(参照詩篇103:2,ルカ17:15,16).<復> (3) 罪の告白の祈り.告白する(言い表す)と訳されているギリシヤ語homologeo~は,直訳すれば,「(そのまま)同じことを言う」となる.犯した罪を,そのまま,ありのままに神に申し上げ,赦しを請うのが,この祈りである(参照詩篇32:5,Ⅰヨハネ1:9).<復> (4) 願いの祈り.幼子が父に願い求めるように,自らの必要としている事柄を神に打ち明けて,願い求めるのが,この祈りである(参照マタイ7:11,ピリピ4:6,7).<復> (5) とりなしの祈り.自らのためにでなく,他者のために願い求めるのが,この祈りである(参照ローマ8:34,Ⅰテモテ2:1).<復> (6) 導きを求める祈り.何かの決断を迫られた場合,神のみこころに添う選択ができるようにと祈願するのが,この祈りである(参照創世24:12,詩篇25:4,8,12).<復> その他,献身の祈り,静かな交わりの祈りなどが挙げられる.<復> 3.祈りの動機.<復> 人は神によって造られた存在であり,しかも神の「かたち」に創造されたので(参照創世1:26),祈りによって神と交わりたいという願望を,本性として持っている.さらに,(1)神の栄光,(2)神への愛,(3)神の命令,(4)人生における喜び,悲しみ,悩み,問題などに迫られて,祈りに導かれる(参照詩篇50:14,15).<復> 4.祈りの姿勢.<復> 聖書中にも,多種多様の姿勢を見ることができる.(1)立って,両手を天に差し伸べて祈る(参照Ⅰ列王8:22).(2)腰掛けて,やはり両手を天に上げて祈る(参照出エジプト17:12).(3)ひざまずいて祈る(参照使徒20:36).(4)うつ伏せになって祈る(参照ルカ18:13).その他,歩きながらでも,寝たままでも,どんな姿勢でも祈ることができるし,祈るよう勧められている.<復> 5.祈りの時.<復> ダニエルは「日に3度」祈っていた(ダニエル6:10).朝,昼,晩に,祈りの時が聖別されていたのであろう.ダビデも,朝の祈りの詩篇(3篇),夕べの祈りの詩篇(4篇)を作っている.主は,「朝早くまだ暗いうちに」祈る習慣を持っておられた(マルコ1:35).大事な時には,徹夜で祈り抜かれた(ルカ6:12).使徒たちは,「午後3時の祈り」を守っていた(使徒3:1).このように,一定の時間が取り分けられ,祈りに専心することも必要であるが,同時に,「絶えず祈りなさい」(Ⅰテサロニケ5:17)と勧められているように,あらゆる時間が祈りの時となり得る.<復> 6.祈りの場所.<復> (1) 公同の祈りの場所.幕屋,神殿,教会堂というような「祈りの家」ばかりでなく,一般の住居もその場所となり得る.それに加え,山,川,野原のような自然界も,その適切な環境となる.人々を避けた,静かな場所が理想だが,雑踏の中でも,祈りは可能である.<復> (2) 個人の祈りの場所.主は,「奥まった部屋」で「戸をしめて」祈れと命じられた(マタイ6:6).その他,(1)で挙げたすべての場所が,個人の祈りの場所となり得る.祈りの生活を目指す者には,至る所が「聖所」と化する.ロウランド・ヒルは,庭でも,客間でも,寝室でも,道でも,森の中でも,ショーウインドーの前でも,祈っていた.<復> 7.祈りの答.<復> (1) 聞かれる祈り.聞かれる祈りには,次のような条件が必要である.(a)みこころにかなう(参照Ⅰヨハネ5:14).(b)主イエス・キリストの御名によってささげられる.主のとりなしにより,初めて,罪人の祈りが,聖なる御神の喜んで受けられる祈りとなる(参照ヨハネ14:14).(c)御霊によってささげられる(参照ローマ8:26).(d)ねばり強さ.挫折せずに,夜昼いちずに,熱心に求める(参照ルカ18:5,7).(e)心を合せる.2人であれば両者が,大勢であれば一同が一つ心になって祈る(参照マタイ18:19,使徒4:24).(f)不義を離れ,悔い改める(参照Ⅱ歴代33:1‐13,箴言15:8,イザヤ59:1,2,ルカ18:13,14,ヤコブ5:16).(g)幼子のように求める.疑いを交えず,確信をもって祈る(参照マルコ11:23,24,ヤコブ1:6,7).<復> (2) 聞かれない祈り.(1)に挙げた条件を満たしていない場合のほか,神の愛と全知とにより,祈りが「却下」され,最善の道に導かれることもある(参照ローマ8:28,Ⅰヨハネ3:20).<復> 8.祈りの型.<復> (1) 定型文による祈り.礼拝における「主の祈り」,バプテスマや聖餐式における祈祷文,結婚式・葬式等における式文の祈りなどがこれに属する.<復> (2) 自由な祈り.定まった型にとらわれず,心に思い浮ぶまま祈るものであり,それがことばにならない時には,(a)黙祷,あるいは,(b)静かに神と交わることとなり,ことばに出してささげられる時には,(c)会話の祈り,その他,2.に挙げた様々の種類の祈りとなる.<復> 9.聖書の中に見られる祈り.<復> これは,無数に認められるが,有名な箇所を挙げれば次のようになる.<復> (1) 感謝,賛美に関係する祈り.(a)モーセは,エジプト脱出に成功した直後,主に感謝し,主を賛美した(参照出エジプト15:1‐18).(b)デボラは,カナンに対する勝利を収めた時,主をほめたたえた(参照士師5:1‐4).(c)ハンナは,その子サムエルが与えられた時,この祈りをささげた(参照Ⅰサムエル2:1‐10).(d)ダビデは,そのすべての敵から救い出された時,主を賛美した(参照Ⅱサムエル22章,詩篇18篇).(e)マリヤは,聖霊によって主を宿した時,神を賛美した(ルカ1:46‐55).(f)パウロは,苦しみの時に慰めを与えて下さる神を賛美した(参照Ⅱコリント1:3,4).(g)パウロは,キリストにあるすべての霊的祝福を覚えて,神を賛美した(参照エペソ1:3‐14).(h)ペテロは,救いの恵みのゆえに,神を賛美した(Ⅰペテロ1:3‐5).(i)その他,随所に,頌栄,祝祷などが見られる(例ローマ16:25‐27,エペソ3:20,21等).<復> (2) 罪の告白に関係する祈り.(a)エズラは,神の民が結婚についての神の戒めを破った罪を神に告白した(参照エズラ9章).(b)ネヘミヤは,エルサレムの城壁が崩されたという報告を受けた時,イスラエルの犯した罪を告白して祈った(参照ネヘミヤ1:4‐11).(c)ヨブは,神の顕現に接し,それまでの無知と愚かさをいたく思い知らされ,悔い改めて祈った(参照ヨブ42:1‐6).(d)ダビデは,預言者ナタンの指摘により,自らの姦淫と殺人の罪に目覚めさせられ,その罪を告白して祈った(参照詩篇51篇).(e)主イエスのたとえの中で,取税人は,胸をたたいて,自らの罪を告白している(参照ルカ18:13).<復> (3) 願い,とりなしに関係する祈り.(a)アブラハムは,ソドムが滅ぼされることのないよう,とりなした(参照創世18:22‐33).(b)ヤコブは,自分が裏切った兄エサウと再会する前に,心を注いで,主に願い求めた(参照創世32:9‐12,24‐29).(c)モーセは,イスラエルの民が金の子牛を造って拝んだ後,彼らのため,いのちをかけてとりなした(参照出エジプト32:31‐34).(d)モーセは,イスラエルの民が,不信仰のゆえに約束の地に入って行こうとせず,反逆したため,神によって滅ぼされようとした時,彼らのために祈り求めた(参照民数14:13‐19).(e)ギデオンは,自分がイスラエルの救いのために用いられる器かどうかを確認するしるしを求めて,2度も祈った(参照士師6:36‐40).(f)ハンナは,男の子を授かるようにと,切に祈った(参照Ⅰサムエル1:10,11).(g)ダビデは,世継ぎの子が与えられ,その王国の王座が永遠に確立されるという神の約束をいただいた時,その実現を願って祈った(参照Ⅱサムエル7:18‐29,Ⅰ歴代17:16‐27).(h)ソロモン王は,即位の後,知恵を求めて神に祈った(参照Ⅰ列王3:6‐9).(i)預言者エリヤは,カルメル山上で,天からの火を求めて祈った(参照Ⅰ列王18:36,37).(j)ヒゼキヤ王は,アッシリヤの王セナケリブの脅迫状を受け取った時,それを主の前に広げて祈った(参照Ⅱ列王19:14‐19,イザヤ37:14‐20).(k)ネヘミヤは,民のためにとりなし,祈った(参照ネヘミヤ1:4‐11).(l)ヨブは,苦しみの理由を聞かせて下さい,と祈った(参照ヨブ10:2‐22).(m)ダニエルは,ネブカデネザル王の見た夢と,その解き明かしとを求めて,友人たちとともに祈った(参照ダニエル2:17‐19).(n)ヨナは,大魚の腹の中から,主に叫び,祈った(参照ヨナ2:1‐9).(o)ハバククは,神に疑問をぶつけて祈った(参照ハバクク1:2‐4,12‐14).(p)主イエスは,①弟子たちのために祈られた(参照ヨハネ17章).②ゲツセマネの園で苦闘の祈りをささげられた(参照マタイ26:39‐44,マルコ14:35‐39,ルカ22:41‐44).③十字架上で,敵のために祈られた(参照ルカ23:34).(q)ステパノは,自分に石を投げつけて殺そうとする者たちのために祈った(参照使徒7:59,60).(r)パウロは,キリスト者の目が開かれ,祝福に満たされるよう祈った(参照エペソ1:17‐19,3:16‐19).<復> (4) 導きを求めることに関係する祈り.(a)アブラハムのしもべは,イサクの花嫁となるべき女性のもとに導かれることを求めて祈った(参照創世24:12‐14).(b)ダビデは,戦いにおいて,しばしば神の導きを求めた(参照Ⅰサムエル23:2,4,11,Ⅱサムエル5:19,23).(c)エズラは,バビロンからエルサレムへの帰還の無事を神に願い求めた(参照エズラ8:21‐23).(d)エステルは,死を賭(と)してでも神の導きに従えるよう祈った(参照エステル4:16).(e)パウロは,道が開かれることを求めて祈った(参照ローマ1:10).<復> その他,聖書中には,枚挙にいとまのないほど,様々の祈りが満ちている.聖書は祈りの書でもある.→主の祈り,祝祷,感謝,賛美,とりなし.<復>〔参考文献〕岩井清『初めて祈る人に』いのちのことば社,新版,1989;キャンベル・モルガン『祈りの実行』いのちのことば社,1980 ; Stott, J. R. W., Confess Your Sins, Word Books, 1974.(岩井 清)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社