《じっくり解説》高齢化社会とキリスト者とは?

高齢化社会とキリスト者とは?

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高齢化社会とキリスト者…

1.高齢化社会の現状.<復> 日本は今や世界有数の長寿国となった.簡易生命表(1987年)によれば,平均寿命が,女性81.3歳,男性75.54歳まで伸びて,世界の最長寿国となっている.他方では出生数が減少しているため,人口構成の高齢化も急速に進むことになった.<復> 人口に占める65歳以上層の比率は,現在11.6%で,まだ欧米諸国に比べ低い水準にあるが,今後なお急速に進み,西暦2千年頃には16.3%と西欧諸国並みとなり,その後さらに上昇すると見られている.2020年頃には23%,すなわち100人中23人が65歳以上になり,現在の2.2倍以上の3188万人に増加するものと予測されている(→図「主要国の65歳以上人口割合の推移と予測」).また,現在65歳以上の人がいる高齢者世帯は901万5千世帯で,ほぼ4世帯に1世帯の割合であり,60歳以上の一人暮しが140万5千人(男29万1千人,女111万4千人)で,単独世帯全体の21.3%である.<復> 2.高齢化社会の問題と課題.<復> 古来,人類は不老長寿の世界を夢見てきた.そして,日本でもある程度その夢がかなえられている.しかし,現実には,決してバラ色の幸せな世界になったわけではなく,様々な深刻な社会問題をも持つことになった.それらの問題は,当然多くの課題を課することになる.それらは,厳密には高齢の段階(すなわち,初老55—64歳,中老65—74歳,高老75歳以上)によって異なるが,共通し,関連する事項を次のように要約することができる.<復> (1)仕事(就業,雇用等)の問題,(2)社会保障・福祉(年金,医療,生活保護,老人ホーム,介護等)の問題,(3)余暇(生きがい,社会参加,消費,家計等)の問題,(4)住宅・生活環境(核家族化,親子同居,近隣別居等)の問題.<復> 高齢化社会における問題点の取り上げ方には種々あるが,その観点が「長生きが真に幸福であるために」ということでは共通しているはずである.長寿=長い老後=余生=退屈(つまらない)という高齢化社会であってはならない.「生の質」を高めることと相まっていなければならない.ここに,キリスト者として,また教会として関与すべき重要な部分があると言える.<復> 3.高齢化社会の問題と課題への対応.<復> (1) まず,行政的,社会的対応がなされなければならない.今日,このためには政府を初め,地方自治体,民間の諸団体の多くの努力が払われ,様々な面からの対応の試みが積み重ねられている.<復> その一つに,「日本型高齢社会のデザイン」の必要性が説かれ,基本的な考え方が試論的に述べられている(『2000年の日本』シリーズ1).<復> また,『厚生白書』(昭和63年版)では,「新たな高齢者像と活力ある長寿・福祉社会をめざして」というサブ・タイトルを付して,厚生行政の展開を示している.以下にその要点を抜粋して紹介する.<復> 「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標について」<復> a.基本的考え方.<復> ① 高齢者が保護や援助の対象としてだけではなく,その豊富な人生経験や知識,技能をいかし,社会に貢献できる一員として,社会参加ができるよう,必要な機会と環境の整備を図る.<復> ② 自立自助の精神と社会連帯の考え方に立ち,国民の基礎的ニーズについては公的施策をもって対応し,国民福祉の基盤の充実を図るとともに,多様かつ高度なニーズについては個人及び民間の活力の活用を図る.<復> ③ 人口高齢化の進展等に伴い,長寿・福祉社会を実現するための国民の負担は,長期的にはある程度の上昇は避けられないが,経済の発展,社会の活力を損なわない程度にとどめる.<復> b.今後の施策の目標と方向(要点のみ抜粋).<復> ① 積極的な健康づくりと生きがいをもって暮らせる地域づくり.長い高齢期を健康に,また,からだが不自由になった場合にも,住みなれた地域で安心して暮らせるような条件と地域環境を整備する.さらに,高齢者にふさわしい仕事や創作活動,レクリエーション活動,ボランティア活動等を通じて幅広く社会参加ができるようにする.<復> ② 保健,医療,福祉サービスの連携と充実.ゆきとどいた保健,医療,福祉サービスを受けつつ,高齢者が可能な限り家庭や地域の中で生活できるよう,総合的に施策を進め,ねたきり老人や痴呆性老人の介護に当たる家族を支援する.さらに,施設への入所が必要な者については,その状態に応じ,特別養護老人ホームや老人保健施設に入所できるようにする.<復> ③ 児童の健全な育成と家庭の支援対策の強化.将来の高齢化社会を担う子どもたちが健やかに生れ,育つための条件,環境を整備するとともに,子どもの養育について責任を負う家庭を支援する.<復> ④ 障害者の自立と社会参加の促進.<復> ⑤ 高齢者雇用の推進.高齢者が長年培った知識,経験,能力を積極的に活用できる社会を実現していくことが重要であり,60歳代前半層の継続雇用を中心として高齢者の雇用就業機会の拡大を図る.<復> ⑥ 老後生活を経済的に支える所得の保障.<復> ⑦ 良質で効率的な医療の供給と医療費の保障.<復> ⑧ 長寿を支える研究開発の推進.医学,薬学,分子生物学,医用工学その他長寿を支える科学技術の基礎研究を推進し,保健,医療,福祉等の実践分野への応用を図る.この場合,官民共同による研究の推進や国際的な研究交流を図る(『厚生白書』昭和63年版).<復> このほか,地方自治体の施策,民間団体のいろいろな事業や活動が積み重ねられている.しかし現実には,高齢化社会対応策はいまだその緒に就いたばかりだと言っても言いすぎではない.皆が自分自身の問題として,また,社会共有の問題として,行政や社会活動とともに真剣に取り組んでいかねばならない.<復> このような行政的,社会的対応に関しても,キリスト者は,一市民として,また,社会的機構・制度の中の一員として,与えられている役割を積極的に果すべきである.そして,一般的,公的な場にあっても,「地の塩」「世の光」としての機能を全うすることになる.<復> (2) 次に,行政的,社会的対応とは別に,キリスト者として,また教会としての対応を進めなければならない.教会として考える場合でも,この問題や課題の性格上,多様な観点と分野から検討し,実行に努力することが求められる.慣用的表現をすれば,「霊と心とからだ」の全人的関連で考え,物的生活と心理的・精神的生活,それに霊的生活を念頭に置いての対応を現実的にとっていかなければならないということである.<復> a.高齢者の救霊対策の充実が緊急である.一人でも多くの高齢者が救われるように,福音を伝えることが何よりも大切である.またすでに救われている高齢者は,この永遠のいのちの希望を与える救いの証人として生きることである.<復> b.次に,これまでの「老人観」を捨て,聖書に根差した真の「老人観」を確立し,真の生きがいのある老人生活の実践を促すことである.<復> それは,基本的には人間そのものの存在意義,価値や尊厳などを立証するものであると同時に,人間性に内在する根源的な問題(罪)とその解決(救い)を提示することにもなる.今後,この本質的な問題がますます問われることになろう.<復> 言い替えれば,教会は何よりも福音の宣教による救霊のわざに励むと同時に,高齢化社会を支える人生観,世界観を提供し,福祉の心と実践の力「神の愛」を提供し,高齢者自身には,今生きる希望と永遠のいのちの希望を提示し,分ち合うことに努めなければならない.これは,各キリスト者の使命であり,教会の使命である.<復> 聖書によれば,老人は尊敬され,また,配慮されなければならない.下記の聖句はその例である.「あなたは白髪の老人の前では起立し,老人を敬い…」(レビ19:32),「しらがは光栄の冠」(箴言16:31),「彼らは年老いてもなお,実を実らせ,みずみずしく,おい茂って…」(詩篇92:14),「あなたは年を重ね,老人になったが,まだ占領すべき地がたくさん残っている」(ヨシュア13:1),「私たちは勇気を失いません.たとい私たちの外なる人は衰えても,内なる人は日々新たにされています」(Ⅱコリント4:16),「年寄りをしかってはいけません.むしろ,父親に対するように…年とった婦人たちには母親に対するように…勧めなさい」(Ⅰテモテ5:1,2),「私が世を去る時はすでに来ました.私は勇敢に戦い,走るべき道のりを走り終え…今からは,義の栄冠が私のために用意されているだけです」(Ⅱテモテ4:6‐8).<復> 確かに,聖書の中にも老後の姿についての暗い記述がないわけではない(例:伝道者12章).しかし,あまり多くはない.そのような記述は,神との幸いな,生ける交わりが失われている状態についてなされていることが多い.<復> c.教会の内部的対応も整備されなければならない.次のようなことがその例として考えられる.<復> ①諸集会のプログラムが,その内容や方法において高齢者に配慮したものであること,②教会施設や備品等は,高齢者向きにも考慮されたものであること,③教会員の中からボランティア奉仕者が起されて,教会内外で高齢者のヘルパーまたはパーテイカー(分ち合う者)として活動すること,④教会の責任で,老人福祉のための事業に協力すること.例えば,老人ホームや老人保健施設など.<復> ほかにも多くのことが挙げられよう.日本の教会の現状から見る時,これらのことは決して容易にできることではない.しかし,欧米の歴史ある教会にも学びつつ,その実現に向けて最大限の努力がなされなければならない.<復> 4.結語.<復> 社会の高齢化は,特に日本では急速に進んでいる.その結果,様々な問題と課題が生じてきた.そして高齢化のスピードにその対応が追い付けず,多くの問題が未解決のまま残されている.キリスト者は,個人的にも,また,教会としても,積極的にこの問題に対応すべきである.特に老人の霊的,精神的ニーズに対して貢献しなければならない.それこそ,教会(キリスト者)のなすべきことなのである.早急に,一層の具体的な活動の検討と実行が求められる.→キリスト者の社会的責任.<復>〔参考文献〕経済企画庁編『2000年の日本』シリーズ1,2,大蔵省印刷局,1984;厚生省編『厚生白書』昭和63年版,厚生統計協会;小助川次雄『老いを日々新しく』いのちのことば社,1985;船本坂男他『老いを豊かに』全3巻,日本基督教団出版局,1983.(小助川次雄)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社