《じっくり解説》教会暦とは?

教会暦とは?

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教会暦…

一般に用いられている元旦から始まる暦ではなく,キリスト教会は独自の暦を持つ.その教会暦の1年は11月30日に最も近い日曜日,待降節(降臨節)第1主日から始まり三位一体後第22—27主日で終る.<復> 1.ユダヤ暦との関連.<復> 旧約聖書に基づくユダヤ暦は太陰暦で,第1月のアビブ(ニサン)の月(一般の暦の3—4月頃に当る)から始まる.この暦に従ってユダヤ教の三大祭が守られる.すなわち過越の祭,七週の祭,仮庵の祭である.また週ごとの安息日がある.これらは教会暦の中では安息日が主日に,過越の祭が復活日に,そして七週の祭が聖霊降臨日(ペンテコステ)にそれぞれ影響を与えている.<復> 過越の祭は出エジプトの出来事を記念し(出エジプト12章),災禍が羊の血の塗られた家を過ぎ越したことに起因する.この祭にイエスは弟子たちと最後の食事をなし十字架の死を遂げられた.過越の祭はこのキリストの血による贖いの予表であり,過越の食事は主の晩餐制定の基底となった.教会暦では過越の祭よりむしろ3日目の復活日を最も重要な祝祭日として祝う.<復> また七週の祭は,過越の祭に続く種を入れないパンの祭で大麦の初穂をささげてから50日目に当るので,五旬節(ペンテコステ)とも呼ばれ,小麦の初穂を奉献したが,聖霊降臨の出来事はこの日に起った(使徒2章).<復> 安息日は週の7日目,土曜日であるが,キリスト教会ではごく初期から礼拝の日として主の復活された週の第1日目日曜日を選んだ.旧約聖書の儀式もそれが予表したものがイエスの上に成就したことを認め,この日曜日を重んじたのである.また聖霊降臨も日曜日に起った.こうして週の初めの日を主日と呼び,みことばを聞き,聖餐にあずかり,礼拝する日とした.<復> なお,ユダヤ教の安息日ごとに聖書朗読がなされた伝統がキリスト教にも継承された.後述するように,定められた祝日に従い,待降節から三位一体主日まではキリストの生涯についての聖書の記述,それ以後は主の教えに関する聖書の箇所が,主日ごとに特定されるようになった.これはグレゴリオ典礼書(790年)以降,修正を重ねつつ,ローマ・カトリック教会,聖公会,ルーテル教会などに継承されており,聖書日課と呼ばれている.<復> 2.教会暦概観.<復> 教会暦では1年が大きく2期に分けられる.待降節(降臨節)から聖霊降臨日までの約半年の有祭期と,続く三位一体主日以降の約半年の無祭期である.有祭期には降誕日,顕現日,受苦日を経て復活日,昇天日と続き,主イエスの生涯の主要な出来事を記念し想起する期間である.無祭期は三位一体主日後の最多で27主日にわたる期間で,有祭期の主題であったイエスの救いのみわざと御教えを日常の生活に適用し具現化することが主題である.この期間には主要な祝祭日はないが,全聖徒の日(11月1日)や,その直前の主日が宗教改革主日としてプロテスタントの諸教会では記念されている.<復> これらの教会暦はすべての教会が同一のものを公認しているのではない.カトリック教会,聖公会,ルーテル教会などリタージカルな教会は,これらを尊重する伝統があるものの,それぞれ独自のものを持っている.従って小異はある.また日本に伝えられたプロテスタント教会のほとんどが,礼拝の様式を自由なものとすることを主張し,教会暦や聖書日課をあまり重んじない.とはいえ,部分的に降誕日,復活日,聖霊降臨日などは取り入れ,礼拝などで祝う.<復> 3.主要祝祭.<復> 教会暦では全主日と特定日,特定期間(節)に名称を付けている.以下,主要なものを取り上げる(図1「おもな祝日,節名称一覧」も参照).各節や主日に礼拝色(教会暦の季節や日,礼拝諸式などの精神を象徴的に表す)が定められており,聖壇の掛布,聖書台や説教台の垂布,牧師用ストールの色をこれに合せる.この色は節や祝日名の後に記す.<復> (1) 待降節.降臨節とも言う.礼拝色は紫.降誕日の前の4主日を含む1月6日までの期間.キリストを迎える心備えをなす.またさばき主として再び来られる主を迎える準備もする期間である.<復> (2) 降誕日.クリスマス.礼拝色は白.12月25日.イエスの誕生を祝う.祝祭日としては復活日と聖霊降臨日よりも遅れて教会暦の中に定着した.日付も,日が長くなることへの期待を重ね合せた北欧の異教の冬至祭の影響を受けて,「義の太陽」であるイエスの出現をこの時期に祝うこととなった.教父ヒッポリュトス(170年頃—235/236年)が早くからこれを唱えているが,教会暦に導入したのは教皇ユーリウス1世(337—352年在位)とローマの監督リーベリウス(352—366年に教皇在位)である.そして4世紀後半にはこの日を守ることが一般化した.<復> (3) 顕現節.礼拝色は白.異邦人である東方からの博士たちが主イエスを尋ね礼拝した日を記念する.救い主がすべての人に明らかに現れた日として1月6日を顕現日(公現日)とし,この日に続く1—6主日が顕現節となる(移動祝日である復活日の影響で,年によって主日数が異なる).顕現日は3世紀初期エジプトの諸教会で,エジプトの神オシリスをあがめる祝祭に取って代るものとして,キリストの世界への顕現を想起する日に選ばれ,東方教会から次第に広がり,西方教会においても4世紀中頃には祝われるようになった.顕現節最終主日は変容主日として祝われる(これは宗教改革以後とり入れられ,ルーテル教会で守られている.従来,カトリック教会等では主の変容の日は8月6日に定められているが,主日と重なることが少なく注目される度合いが少ないので,有祭期のうちのこの節最後の主日に置いたものである).<復> (4) 受難前節.礼拝色は緑.3主日を含む期間.この最初の主日から復活日までの一連の期間を通してイエスの受難をしのぶ.この3主日はそれぞれ七旬節,六旬節,五旬節とも呼ばれ,迎えようとしている受苦日を見すえ,迎えるための断食を始める日を指示した.ある教会は70日前から受難と復活の日を待つ期間とした.<復> (5) 四旬節.受難節,レントとも言う.礼拝色は紫.6主日を含む期間.6主日を除いた復活日の40日前の水曜日を灰の水曜日と呼び,この日から四旬節が始まる.40日の断食の日数はイエスの荒野の断食の日数にちなんで定められた.この期間は悔い改めと十字架の受難を瞑想する時である.灰の水曜日の名称は,この日に中世の教会で信心深い人々の額に灰で十字のしるしをつけた習慣に由来すると言われるが,さらにさかのぼれば旧約聖書で灰が悲しみと悔い改めを表すのに用いられているところから来ている.<復> (6) 受難週.聖週とも言う.礼拝色は紫.受難節第6主日はイエスのエルサレム入城の日であり,しゅろの葉を打ち振って迎えたことから,しゅろの主日(枝の主日)と呼ぶ.この日が受難週の初日である.この週は特にイエスの受難を瞑想する.聖木曜日には聖餐式が執行される.受苦日(礼拝色は黒)は受難日,聖金曜日とも呼ばれ,十字架の苦難をしのぶ礼拝が持たれる.受難節,とりわけ受難週は,一般に,華やかな行事を避け,断食の精神にあやかり,克己の時を過すようにする風習がある.<復> (7) 復活日(イースター).礼拝色は白.春分後の最初の満月の直後に来る日曜日と定められている.キリスト教会で最も重要な祝祭日で,イエスの復活を祝う.この日はおごそかな洗礼(バプテスマ)の日とされ,式は前日土曜日からこの日の早朝に執行された.<復> (8) 昇天日.礼拝色は白.復活日後40日目で,常に木曜日である.クリュソストモスやほかの教父たちが昇天日に関して行った説教も残っており,この日が尊重されていたことをうかがわせる.主イエスの地上における生涯の終結の日として祝われた.この日はまたイエスの世界宣教への大命令が授けられた日でもある.<復> (9) 聖霊降臨日(ペンテコステ).礼拝色は赤.復活日から50日目の日曜日,聖霊降臨は起った.この日3000人の人々が洗礼を受けた.聖霊の働きによりみことばを聞き,信じる者が起され,教会が誕生した日として祝われる.復活日に次いで,この日は洗礼を授けられる日であった.<復> (10) 三位一体主日.礼拝色は白.この祝日は特異である.ほかの祝祭日は主の生涯の歴史的出来事を記念し関連付けられているが,この日は教会において信じられている信仰の表明に関連付けられているからである.すなわち父と子と聖霊の三位一体の神を拝する日,その信仰の表明の主日である.救い主の降誕,十字架,復活,昇天,聖霊降臨によって神が人を救う活動が明らかにされた.そして三位一体の神に栄光を帰するよう,この日が定められた.この日に限らず,教会が用いた礼拝の様式も式文も三位一体の神が礼拝されていることをすでに明白にしており,特にこの日を定める必要がないと考えられたのか,この日の設定は遅く,1332年に至って正式に決定されている.<復> 三位一体主日は教会暦前半の最終日であり,後半の無祭期の始まる日である.これ以後の主日は聖霊降臨後第何主日とか三位一体後第何主日と呼ばれ,22—27主日が含まれる.礼拝色は緑.信仰の基本的なことが明確にされ,実際に適用される期間である.聖書日課によれば三位一体後の各主日は,それぞれに性格付けがなされ,信仰生活が神によって始められ完成に至るまでの新生,成長,収穫そして来世のすべてが含まれている.大別すると第1—4主日は回心,第5—11主日は回心者の固く守るべき基本事項,第12—16主日は聖徒の品性の特色,第17—23主日は聖徒の基本的態度と行動,第24—27主日は終末となっている.<復> 4.小祝祭日と諸記念日.<復> 初代教会から宗教改革時代まで広く守られたが現在では一般には守られることがないものが多い,聖徒たちを記念する日が定められている.全聖徒の日(万聖節.11月1日.礼拝色は白)が代表的なものである.詳しくは,図2「固定祝日と諸記念日」を参照.<復> 教会暦とは異なるが,それぞれの教会が,その歴史を回想し創立記念日を定めたり,近年教会の間に普及してきた母の日,花の日が守られ,あるいは日本の文化や習慣に聖書的意味を加味したものを特定の日に取り入れているものも見られる.(→コラム「太陽暦」「太陰暦」「西暦(B.C.,A.D.)」),→移動祝日,待降節,降誕日,顕現日,レント,しゅろの主日,受難日・受難週,復活節,ペンテコステ,主日,聖書時代の祭.(有木義岳)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社