《じっくり解説》迫害とは?

迫害とは?

迫害…

力と暴虐によって信仰を弾圧すること.<復> 1.旧約聖書における最初の迫害はアベル殺しに求め得るが(創世4:8,マタイ23:35),イスラエルの社会現象としての迫害はエジプトでの強制労働が最初である(出エジプト1:8以下).旧約を通じて一貫しているのは,神の契約に忠実な者は不信仰な者たちから迫害されるとの思想である.モーセがそうであり,王ダビデ,預言者エリヤ,アモス,イザヤ,エレミヤらも迫害された.「しもべの歌」には主のしもべが迫害を受ける姿が描かれている(イザヤ50:4‐9,52:13‐53:12).詩篇には迫害される者の苦悩を歌ったものがある(詩篇55篇等).ユダヤ人はエルサレム再建に対する異邦人らの妨害を迫害と見なした(エズラ4‐6章,ネヘミヤ4‐6章).<復> 中間時代,セレウコス王朝アンティオコス4世エピファネースはヘレニズム同化政策をとり,ユダヤ教を迫害し,マカベア戦争を引き起した(第2マカベア書).<復> イエスは,ユダヤ人の歴史を義人迫害の歴史と見なし,御自身と弟子たちに対する迫害は不可避的なものであると語った(マタイ5:10‐12,10:16‐23,23:34,24:9,ヨハネ15:20).イエス自身,ユダヤ人指導者層に迫害され,十字架にかけられた.<復> 教会は,福音の宣教を開始すると間もなくユダヤ教側からの迫害を受けた.その最初のものがペテロとヨハネの逮捕である(使徒3‐5章).ステパノはユダヤ教への批判的演説をしたために殉教の死を遂げた(使徒7章).これが契機となってエルサレム教会に対する激しい迫害が起った.教会として受けた最初の組織的迫害である(使徒8:1).その時の迫害者であったパウロは(Ⅰコリント15:9),回心後は逆に迫害を受ける身となった.彼はユダヤ人と異邦人の双方から様々な迫害を受けた(Ⅱコリント11:23‐33).大祭司アンナスは主イエスの兄弟ヤコブを石打ち刑に処し殺害した(エウセビオス『教会史』).キリスト教はイエスをメシヤ(キリスト)とする異端でユダヤ教の体系を覆す運動であると見なされたことが,ユダヤ人による迫害の主要な原因である.迫害は異邦人からも加えられた.ヘロデ・アグリッパ1世はヤコブを処刑し,ペテロを投獄した(使徒12章).<復> ローマ帝国は,キリスト教をユダヤ教の一派と見なして寛容な態度をとっていたが,キリスト教がローマの習慣や宗教,とりわけ皇帝礼拝を覆しかねないものであることを知ると,これを迫害するようになった.キリスト教に対する中傷が流され,ローマ人はキリスト者を,頑迷奇矯の者,人類の敵,無神論者などと呼んだ.<復> そのような中で起きたのがローマ市大火で(64年),ネロ帝は「人類の憎悪のゆえに」(タキトゥス『年代記』)キリスト者を放火犯に仕立て上げ,多くのキリスト者を殺害した.この迫害でパウロとペテロが殉教した(エウセビオス「前掲書」).<復> 以後いわゆるローマの10大迫害が続く.すなわち,<復> (1)ネロ(54—68年在位).<復> (2)ドミティアーヌス(81—96年,使徒ヨハネ流刑,皇帝の姪ドミティラが「無神論の罪」〔ディオ『ローマ史』〕で流刑).<復> (3)トラーヤーヌス(98—117年,アンテオケのイグナティオス殉教).<復> (4)マールクス・アウレーリウス(161—180年,ユスティノス殉教,リヨンの迫害).<復> (5)セプティミウス・セウェールス(193—211年,オーリゲネースの父レオーニデース殉教,『ペルペトゥアの殉教録』).<復> (6)マクシミーヌス・トラークス(235—238年,教皇ポンティアーヌス殉教,ヒッポリュトス殉教,オーリゲネースの『殉教への勧め』).<復> (7)デキウス(249—251年,初の迫害令,オーリゲネース投獄).<復> (8)ウァレリアーヌス(253—260年,キリスト教礼拝禁止令,キュプリアーヌス殉教).<復> (9)アウレーリアーヌス(270—275年,迫害準備中に暗殺死).<復> (10)ディオクレティアーヌス(284—305年,迫害4勅令を発布し大迫害を行った).<復> 以上10皇帝による迫害である.その後も迫害は続き,東方のガレリウスとマクシミーヌス・ダイアは苛烈な迫害を行った(305—312年).しかし西方のコンスタンティーヌスは313年ミラノ勅令を発布してキリスト教を公認し,2世紀余に及んだローマの迫害時代は終りを告げた.<復> ローマ以外では,ササン朝ペルシヤでゾロアスター教徒が1万6千人ものキリスト者を殉教に追いやった(339年).ペルシヤでは420—447年にもゾロアスター教徒がキリスト者を迫害した.蛮族もキリスト者を迫害した.<復> 中世から近世にかけて,迫害は,キリスト教内部で多数派(正統派)が少数派(異端)を迫害するという様相を見せる.中世カトリック教会はフランシスコ会厳格主義派,カタリ派(アルビ派),ワルドー派(リヨンの貧者),ウィクリフの教説を採るロラード派やフス派などを迫害し,異端審問と魔女狩りを行った.近世ローマ・カトリックはプロテスタント教徒を迫害した.ルター派,改革派などが激しい迫害を受け,ユグノー派のキリスト者は大量虐殺された(聖バルトロマイの虐殺,1572年).一方,プロテスタント側もドイツやイギリスで魔女狩りを行いカトリック教徒を迫害した.また近年では,ロシアや中国等で共産主義者がキリスト教徒を迫害したこと,キリスト教徒がユダヤ教徒を迫害したことなども書き留めておかねばならない.<復> 2.日本における迫害.<復> ハビエル(ザビエル)が日本にキリスト教を伝えたのは,ルター没後3年目の1549年,西欧ではカトリックとプロテスタント双方の間で抗争が繰り広げられ迫害が繰り返されていた時代であり,日本のキリシタン史もまた血と迫害の嵐をくぐり抜けることとなる.初期の迫害は一部仏教僧侶たちによるいわば個人的な迫害がほとんどだったが,1587年の豊臣秀吉による伴天連追放令発布以後,国家権力による迫害を受けるようになった.その最初の殉教事件が26聖人の殉教である(1597年).徳川時代になると迫害の激しさはさらに度を増した.徳川家康はキリシタンがらみの岡本大八事件を機に全国に禁教令を発し(1612年),さらに仏僧崇伝の「排吉利支丹文」を受けて伴天連追放令を発布,高山右近のマニラ追放(1614年)などの迫害を加えた.2代将軍秀忠も家康の政策を踏襲しキリシタンを弾圧,京都大殉教,長崎大殉教事件を起した.が,最も激しい迫害を加えたのは3代将軍家光である.家光は将軍となって間もない1623年に,旗本原主水ら50名を品川札の辻にて火あぶりにし,その直後には子供16名を含む37名を処刑して,人界の地獄と称される陰惨を極めた大迫害の幕を切って落した.家光は鎖国令,踏絵,寺請制度,訴人褒賞制度,宗門改め役の設置(初代大目付・井上政重),五人組制,禁書令などを次々に断行して徹底的なキリシタン迫害を行った.家光の政策はその後も踏襲され,徳川時代はまさにキリシタンの迫害と殉教の時代となった.<復> 明治新政府になっても迫害はやまなかったが,西洋諸国の抗議を受けて,新政府は明治6年(1873年)に切支丹宗禁制の高札を撤去した.ここに,300年近くに及んだ迫害時代は一応幕を閉じた.しかし,なお,キリスト教に対する迫害は,様々に形を変えて繰り返された.明治時代の迫害事件には,教育勅語発布の翌年に起きた内村鑑三不敬事件(1891年),仏教側による耶蘇教撲滅運動,日露戦争終結直後の教会焼打事件(1905年)などがある.1931年の満州事変以降,日本は軍国主義・国家主義化し天皇崇拝と神社参拝が強制された.キリスト教は反国体的であり不敬であるとの口実のもとで弾圧と迫害が行われた.奄美大島事件(1933年),矢内原忠雄東大追放事件(1937年),大阪憲兵隊事件(1938年)などの弾圧の後,宗教団体法(1939年制定)による締め付けが行われた.国家の弾圧の前にキリスト教会はひざを屈し「皇国に忠誠を尽すを以て第1とす」と宣誓して日本基督教団を創設した(1941年).国家は,同教団に非協力的な教派や国策に批判的な牧師たちに厳しい迫害を加えた.ホーリネス系教会,救世軍,無教会派,聖公会,セブンスデー・アドベンティストなどが迫害され,殉教者もかなり出た.国家は,朝鮮のキリスト教会に対してはさらに激しい迫害を加え,朱基徹(チュ・ギチョル,1897—1944年)ほか多くの者を殉教させた.1945年の終戦によって,宗教団体法は廃止され,国家ぐるみの迫害は終った.<復> 3.迫害は,無知や誤った熱心によって引き起されることもあるが(ヨハネ16:2,3,使徒26:9‐11,Ⅰテモテ1:13),神とキリストへの憎悪のゆえになされるなら(ヨハネ15:20‐24,Ⅰテサロニケ2:15),それは恐るべき罪であり,神の厳しいさばきが迫害者の上に下る(Ⅰテサロニケ2:16,Ⅱテサロニケ1:5‐9,黙示録19:2).迫害は根本的には霊と肉との対立,霊に対する肉の敵意が生み出すものであるゆえに(ガラテヤ4:29),神に忠実に生きようとするキリスト者がこの世から迫害を受けるのは不可避的なことと言える(Ⅱテモテ3:12).イエスは,迫害が来たら逃れよと言い(マタイ10:23),迫害者を恐れずに神のみを恐れよと教えた(マタイ10:28).イエスは義のために迫害される者の祝福を説き(マタイ5:10‐12),迫害する者のために祈れと教え(マタイ5:44),どんな患難においても主イエスにあって勝利できるのだと言われた(ヨハネ16:33.参照ローマ8:35‐39).神への愛と信仰によって迫害を耐え忍んだ者あるいは殉教した者には,神からの豊かな報いが約束されている(黙示録2:10).→殉教・殉教者,教会史,日本の教会史,カタコンベ.<復>〔参考文献〕清水紘一『キリシタン禁制史』教育社,1985;弓削達『ローマ皇帝礼拝とキリスト教徒迫害』日本基督教団出版局,1984;Reid, W. S., “Martyr,” “Persecution,” The Zondervan Pictorial Encyclopedia of the Bible, Zondervan, 1979.(熊谷 徹)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社