《じっくり解説》世界,世とは?

世界,世とは?

スポンサーリンク

世界,世…

世界あるいは世という表現には,人間が互いにかかわりをもって生きる場所といった地理的・空間的なイメージと,過去,現在,未来における限られた時の流れを指す時間的なイメージとが包括されている.時代,世代といった表現も同義的に使用される.<復> 1.世界を表す単語.<復> 聖書には,世界あるいは世を表す原語が幾つかある.<復> 旧約聖書の[ヘブル語]エレツは元来,創造伝承において天[ヘブル語]シャーマイームと対照される「地」を意味し,それによって地理的なイメージが描かれる(創世6:11,ヨブ2:3).ヘブル語には,宇宙全体を一言で言い表す単語がなく,「天と地」(創世1:1,詩篇115:15,16),「天と地と海」(出エジプト20:4,11,詩篇146:6)という慣用表現が用いられる.<復> [ヘブル語]テーベールは,植物が育ち,人間が生活する「地上の世界」を表し(詩篇19:4,24:1,90:2,イザヤ26:9,エレミヤ51:15),「世界の地(の面)」とも訳出される,幾分詩的な用語である(ヨブ37:12).<復> [ヘブル語]オーラームは元来,漠然とした「長期間」を意味する.それは過去(イザヤ63:9,64:4,ミカ7:14),あるいは将来(申命15:17,詩篇61:7)について,さらには複数形で「永遠」を表す(イザヤ26:4,45:17).<復> [ヘブル語]ヨームの直訳は「日」であって,時として「時代,世」を指す(創世10:25,Ⅰ歴代1:19,ダニエル5:11).<復> [ヘブル語]ドールは「時代,世代」の意味であって,時間的な意味合いが強いが(箴言30:11,伝道1:4,エレミヤ7:29),「世界,世」の意味も含む.<復> 新約聖書の[ギリシャ語]コスモスは,秩序と法則性をもって存在している自然,物質的な世界,さらには天と地のすべてを含む被造世界を意味しており,最も包括的な用語である(マタイ25:34,ヨハネ1:10,17:5,使徒17:24,エペソ1:4).とはいえ,そのおもな関心は人間に置かれており(マルコ16:15,ヨハネ12:25),人の住む世界が中心的なイメージである(ヨハネ3:16,ローマ5:13,Ⅰコリント5:10).そこには異邦人も含まれる(ローマ11:12).これはしばしば,地上的な関心の領域として(マルコ8:36,Ⅰコリント7:31),あるいは神に逆らう世界として否定的な意味で用いられる(ヨハネ14:30,ガラテヤ6:14,エペソ6:12).<復> [ギリシャ語]オイクーメネーは,人間の住んでいる世界を指すが(ルカ4:5,使徒24:5),転じて,ローマ世界の住民(ルカ2:1),人類(使徒17:31)の意味ともなる.「時代」[ギリシャ語]アイオーンと同義的に用いられる場合もある(ヘブル2:5).<復> [ギリシャ語]アイオーンは元来,限りある「世代,時代」の意味を持ち,歴史における一つの時代(現代あるいは将来の世)を指すことが多い(Ⅰコリント10:11,エペソ2:7,3:9,コロサイ1:26,ヘブル6:5).時として複数形で「永遠」を表すのにも用いられる(ルカ1:33,ローマ11:36,エペソ3:21).また,罪に満ち,悪魔の支配する世界を指す(マタイ13:22,ルカ16:8,Ⅰコリント2:6‐8,Ⅱコリント4:4,ガラテヤ1:4,Ⅱテモテ4:10).マタイ12:32,エペソ3:21,ヘブル1:2,11:3などでは,時間と空間のイメージが並存している.神またはメシヤの支配する後の世にも,この語が当てられる(マルコ10:30).<復> 2.聖書的な世界観.<復> 常識的には,世界は人間の自己意識と対立して存在する環境として考えられる.しかし存在論の立場からすれば,人間の意識は,実在世界全体のうちに相関的に包含されている.ギリシヤ思想における宇宙の概念は,秩序と法則性をもって完結し,永続的に存在する理想的な世界であって,動物や人間はもとより,汎神論的な意味における神々をも包み込んでいる.しかし聖書においては,世界とそこに存在するもののすべては,神が創造したものであって(ヨハネ1:10,使徒17:24),時間的な始源(ヘブル4:3,9:26)と終末(マタイ13:39)を持ち,神の支配下にある(ミカ4:13,ゼカリヤ4:14,6:5).つまり,神と世界とは,創造者と被造物として質的に完全に区別され,万物は神に依存して初めて存在し得る(創世8:22).創造神信仰は,他のあらゆる世界観を批判的に超越する.神は世にある万物の存在を肯定された(創世1:31).世界は神の偉大さと栄光を証示するものである(詩篇8篇,19:1‐6,104篇).神はその知恵によって調和ある世界を造り,その大能を表出したからである(ローマ1:20).聖書においては,世界の創造を背教的な形成者の手に帰するグノーシス主義は完全に否定されている.むしろ,世は神に背くことによって堕落したのであった.<復> 3.神の怒りのもとにある世界.<復> 人が罪を犯したことにより,人類と世界とは神の怒りとさばきのもとに置かれることとなった(創世3:17,18,ヨハネ3:18,19,ローマ3:19).大洪水,異常気象など地上に生起する災害は,罪に対する神の怒りによるものと理解される(創世6,7章).パウロは,罪によって死がもたらされたと断言する(ローマ5:12).世界の秩序は,人間とその罪によって混乱させられ,すべての被造世界は虚無に服し,苦しんでいる(ローマ8:22).聖書はその原因を,「世が神に逆らった」ことによる,と述べる(Ⅰヨハネ5:19).それをさらに突き詰めれば,「この世の神」と呼ばれるサタンの働きと惑わしがある(Ⅱコリント4:4).世界は,「この世の教え」(コロサイ2:8,20),「この世の知恵」(Ⅰコリント1:20以下)をもって人間の意識を倒錯させる悪魔(マタイ4:8,9)に支配され,キリストと神に従う者たちに敵対する(ヨハネ15:18,19,17:14).<復> 4.救いの歴史と世界の再創造.<復> 「神は…世を愛」し(ヨハネ3:16),本来の正しい秩序を取り戻そうとされた.そこに救いのみわざの動機がある.神はこの世の現実をそのまま肯定されるのではない(ヨハネ8:23,18:36).世は神の介入と救いを必要としている.神の救いの働きは,原初の世界の秩序を回復することを目的とする.この真理をあかしし,実現するために,キリストは世に遣わされた(ヨハネ12:47,18:37).彼の自己犠牲による罪の贖いと和解は,その生涯の目的である(Ⅱコリント5:19,ガラテヤ1:4).「世の光」また「いのち」であるキリストの生涯とみわざによって,救済の歴史はクライマックスを迎えた(ヨハネ9:5,14:6).十字架の死は敗北でなく,しもべとしてのイエスの勝利であった(ヨハネ16:33).なぜなら,そこにおいて世の罪を贖うという彼の究極の目的が果されたからである.しかしながら,救済史の完成はなお将来に期待される.今の世は,「すでに」なされた救済と「まだ」到来していない救いの完成との中間に位置付けられる.救済史を完成へと導かれるのは,神御自身である.<復> 聖書は,人類のさばきの後に,神の恵みによる救いの完成が準備されていることを述べ,それを「新しい創造」と呼んでいる(イザヤ65:17,66:22).その時,いま堕落し,分裂している世界は過ぎ去り(Ⅰヨハネ2:17),神に敵対するあらゆる世の権威は滅ぼされ(Ⅰコリント15:24),万物はイエス・キリストの主権のもとに置かれる(エペソ1:20‐22).その時,世界は神の霊の満ちあふれるところで一致へと回復される(コロサイ1:20).「新天新地」と称されるその世界には,悲しみ,叫び,苦しみはもはや存在しない(黙示録21:1,4).ここにクリスチャンの大きな希望がある.<復> 5.クリスチャンと世界.<復> 以上に見てきたような世界観と歴史観に基づいて,この世におけるクリスチャンのあるべき姿が定義される.人は,神が創造し,肯定し,祝福された世界に生かされている.その意味からすれば,完全な異境地に住むのではない.しかし同時に,キリストの弟子は「世のものではない」という点において,このやみの世と対立しており(ヨハネ15:19,エペソ6:12,ヤコブ4:4),世の悪から守られる必要がある(ヤコブ1:27).キリストはそのために祈られた(ヨハネ15:19,17:11‐17).十字架に至るまでのイエスの従順な生活によって,この世はさばかれ,その素性が明らかにされた(ヨハネ12:31).信仰者の目には,世の罪が明らかに認識される(ヨハネ15:22,ヘブル11:7).この世は,いわば麦と毒麦の入りまじった状態にある(マタイ13:38‐40).イエスは,「人は,たとい全世界を手に入れても,まことのいのちを損じたら,何の得がありましょう」と教えられた(マタイ16:26).パウロは,「この世の有様は過ぎ去るからです」と語り(Ⅰコリント7:31),この世に対して1度「死ぬ」ことによって勝利する道を示した(ローマ6:6,ガラテヤ6:14.参照Ⅰヨハネ5:4).この世と安易に妥協してはならない(ローマ12:2).世に対してクリスチャンは逃避的な態度をとるのでなく,むしろ「世の光」として(マタイ5:14),真理のあかしと奉仕のため,またキリストによる和解の告知と実践のために,世に遣わされるのである(ヨハネ17:18,20:21.参照マタイ28:19,20).→創造の教理,救済史,万物更新,キリスト者の歴史観,世俗主義・世俗的ヒューマニズム.<復>〔参考文献〕Harrison,E.F., “World,” Evangelical Dictionary of Theology, Baker, 1984 ; North, C. R., “World,” Interpreter’s Dictionary of the Bible, Vol.4, Abingdon, 1962 ; Sasse, H., “Kosmos,” Theological Dictionary of the New Testament, Vol.3, Eerdmans, 1965.(石黒則年)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社