《じっくり解説》神学諸科解題とは?

神学諸科解題とは?

神学諸科解題…

[英語]Theological Encyclopedia.神学諸科,あるいは,神学諸科解題と訳されている,神学のエンサイクロペディアが神学における一部門として設けられるようになったのは,18世紀初頭のことであり,その歴史はそれほど古いものではない.神学研究の細分化に伴い,神学の部門が急激に数を増したため,神学教育の観点から,相互の関連性を明らかにする必要に迫られてきた結果設けられるに至った部門である.従って,現在,神学教育のカリキュラムとして考察されるに至ったものと重なり合う性格を持っているが,何より,神学を,有機的関連性を持つ体系としてとらえようとするところに特徴を持っている.エンサイクロペディアを神学の部門として最初に提示したのは,シュライアマハー(シュライエルマッハー)であると言われる.1804年,彼は,「エンサイクロペディアと方法論」(Enzyklopa¨die und Methodologie)という題の講義を行い,後に,これを整えた形で,『神学通論』(Kurze Darstellung des Theologischen Studiums)を出版した.<復> シュライアマハーによれば,神学は,大きく,哲学的神学,歴史神学,実践神学の3部に分けられる.第1部には,弁証学と論争学,第2部には,釈義神学,教会史,教理神学,教会論,第3部には,教会奉仕,教化的活動,指導的活動,教会政治が含まれる.この分類から明らかなように,神学を宗教の歴史的局面としてとらえ,その本質を「絶対依存感情」に求める彼の神学理解が示されている.このように,神学諸科解題は,その神学者の神学理解,神学体系が最も端的に表現される神学部門であると言うことができる.シュライアマハーのエンサイクロペディアが,後に『神学通論』として出版されたように,現代のエンサイクロペディアも,例えば,エベーリングによって『神学研究』(Studium der Theologie, 1977)のタイトルで出版されている.このことから理解されるように,諸科解題は,神学序説(プロレゴーメナ)の問題と重複する部分が多い.それぞれの神学の特有性が最も顕著にエンサイクロペディアの取扱い方に見られたことは,ローマ・カトリック神学の諸科の取り上げ方によく表れている.12世紀のローマ・カトリック神学においては,教理神学(超自然的),道徳神学(自然的)と大きく二つに分類した上で,共に護教神学として統一されている.しかし,19世紀のローマ・カトリック神学においては,基礎神学(弁証学に当る)の上に,歴史神学(聖書学,教会史,諸宗教比較神学),系統神学(護教学,論争神学,教理神学,道徳神学),実践神学(教会法,司教神学,公教要理学)と分類されている.細分化は進むが,大きく自然的部門と,超自然的部門が分けられる点では共通していると言える.<復> プロテスタント神学の場合,シュライアマハーの後に,ルードルフ・ハーゲンバハ(Rudolf Hagenbach)が示した『神学諸科解題』(Enzyklopa¨die und Methodologie der Theologischen Wissenschatten, 1833)が,その後,ドイツの大学の神学部で用いられ,英国,米国にも紹介され現在に至っている.それは,神学を,釈義部門,歴史部門,組織部門,実践部門の4部に分けるものである.釈義部門は,聖書神学部門とも言われ,聖書語学,旧約諸論,旧約釈義,旧約神学,新約諸論,新約釈義,新約神学を含む.歴史(神学)部門は,教会史,教理史を,組織(神学)部門は,教理学,弁証学,倫理学を,実践(神学)部門は,説教学,礼拝学,牧会学,教会政治学,信条学,礼典学を含むものとされるのが一般的である.<復> プロテスタント神学の場合,神学は,聖書において御自身を啓示しておられる神に関する学問であるから,聖書神学部門を歴史部門あるいは哲学部門に先行させることは当然のことであるが,厳密に福音主義の立場に立ち,聖書の言語十全霊感を信じ,霊感された聖書を神学の外的認識原理として承認し,信仰と生活の無謬の権威と信じる立場からは,聖書語学に位置を与えることは極めて妥当なことである.教理史は,組織神学部門に加えられるべきであるという主張も根強くあるが,これには,教理史の理解の問題がかかわっているように考えられる.教理学は,歴史的発展のプロセスを無視して健全な展開を期待することは困難であるけれども,教理史を教義学に置き換える危険性を伴うことを見落してはならない.弁証学の位置については,弁証学を神学の前提にかかわる学として,組織神学の前に,あるいは,神学の原理論として,聖書神学の前に置くべきであるという主張は,福音主義神学の立場に立つ神学者にも多く聞かれるが,むしろ,教理学において体系的,有機的一体性において表現されるキリスト教真理を,異教,異端から擁護する課題を担う学としてとらえるほうが適当であろう.倫理学についても,聖書神学部門に加えるべきであるという主張,実践神学部門に加えるべきであるという主張もある.倫理学を教理学の内部で取り上げる傾向も今世紀になって強い.倫理的価値観の多様化する現代において,倫理学は特に多様な対応を迫られている分野であり,諸科における位置いかんにかかわらず,多面的な対応を迫られていることは言うまでもない.福音主義諸教会の場合,特に,社会倫理の確立は緊急な課題である.このことは,実践神学部門についても指摘されなければならない点である.教会のミニストリーの多様化に対応した細分化の必要に迫られている.この点,米国の諸神学校のカリキュラムは充実している.実践神学は,方法論的考察,あるいは,テクニックの紹介に終ってしまう場合も多い.従って,特に,神学諸科における妥当な位置付けが求められている.<復> 福音主義神学の立場に立ち,神学諸科解題を最も広く深く取り上げた神学者として,アーブラハーム・カイパーを挙げなければならない.彼の『神学諸科解題』3巻は,1908年に出版され,1700ページあまりの大著であり,第2巻のみ,英訳されている(Principles of Sacred Theology, Eerdmans, 1954).いまだ,この部門で,本著を超える業績を見ることはできない.<復> A・カイパーの神学諸科解題に見られる神学の分類,諸科の体系性は次の通りである(Kuyper, A., Encyclopaedie der Heilige Godgeleerdheid, Ⅲ, J. H. Kok, 1909).<復> 1.聖書学群.<復>経典部門:総論,各論.<復>釈義部門:本文批評,聖書語学,解釈学,釈義学,翻訳学.<復>実際部門:考古学,聖書歴史(Historia Sacra),聖書神学(Historia Revelationis).<復> 2.教会学群.<復> (1)制度教会部門.<復>制度部門:教会法,教会地理,教会運営,古代教会.<復>歴史部門:一般教会史,教会史各論,教会史年代学.<復>統計部門:一般統計学,特別統計学,統計系数学,歴史統計学.<復> (2)有機的教会部門.<復>個人生活キリスト教化部門:クリスチャン伝記,キリスト教人物研究,キリスト教的敬虔研究.<復>社会生活キリスト教化部門:クリスチャンホーム,キリスト教的市民生活,キリスト教的国家.<復>非社会生活キリスト教化部門:キリスト教文学,キリスト教科学,キリスト教芸術.<復> 3.教義学群.<復>序論的部門:信条学,教理史,教父学,キリスト教精神史.<復> 肯定的部門:教義学,倫理学.<復>否定的部門:論争学(対異端),論責学(対異教),弁証学(対哲学).<復> 4.奉仕学群.<復>教師部門:説教学,教理問答学,礼典学,伝道学.<復>長老部門:牧会学,統治学.<復>執事部門:不潔防止,慈善,献金.<復>信徒部門:信徒組織,信徒有機体.<復> 追加.<復>神学有機体と関係を持つ非神学部門:神学諸科,神学序論,神学文献学,偽宗教史,宗教哲学.<復> 以上,私たちにはなじみのない部門もあり,用語もあるが,実際に,オランダ改革派教会の神学部,または,神学校において現在も修正を加えながら用いられているものである.神学が,単に,体系として統一性と整合性を保つために神学諸科の問題が重要であるというだけでなく,神学が教会の形成を活性化及び宣教活動の推進のために役立てられるものとされるために,神学エンサイクロペディアの問題の重要性が認識される必要がある.わが国で神学諸科解題を最も詳細に取り上げたのは熊野義孝であった.1955年,『基督教講座』の中で,78ページにわたって書いている.彼は,神学諸科解題について,「序論的であると同時に結語的であり,入門を兼ねた卒業の論説とも見られる」と表現している.神学エンサイクロペディアは正しくその通り,入門であると同時に,神学する者,特に,神学教育に当る者が,生涯,内容を整え,時代の要求に則して課題を指摘し続けなければならない学問なのである.わが国でのこの部門の熟成が望まれる.<復>〔参考文献〕熊野義孝「神学諸科解題」『神学概論』(熊野義孝全集4)新教出版社,1982;シュライエルマッハー『神学通論』教文館,1962;内田良三『基督教神学序論』高山書店,1959;日本聖書神学校『神学諸科入門』新教出版社,1990.(橋本龍三)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社