《じっくり解説》中絶とは?

中絶とは?

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中絶…

1.定義.<復> 一般に「中絶」「堕胎」あるいは「下ろす」という言葉が使われるが,「人工妊娠中絶」が正式な名称である.<復> 人工妊娠中絶とは,妊娠中の胎児を母体外で生命を保持することのできない時期に人工的に母体外に取り出し,生命ある胎児の誕生を中断して抹殺する行為である.<復> 2.人工妊娠中絶に関する法律.<復> わが国の中絶に関する法律として,刑法の堕胎罪と優生保護法がある.前者は中絶を禁止し,後者は中絶を容認する法律である.両者とも現存し,効力を持っている.しかし,わが国の現状は堕胎罪は無きに等しく,優生保護法という隠れみので中絶が公然と行われている.<復> (1) 堕胎罪(刑法第29章212—216条).<復> a.定義.刑法上,堕胎罪とは,自然の分娩期に先立って胎児を母体外に排出し,あるいは母体内で殺害することを言う.<復> b.内容.明治政府は文明開化と富国強兵政策によって,フランス刑法の堕胎禁止を導入し,傷害や放火等に近い重刑(業務上堕胎で3か月以上5年以下の懲役)を科した.<復> c.判例.1922年の大審院(現代の最高裁)は,堕胎は殺人罪との併合罪になるとし,「堕胎は殺人である」と断定している.<復> (2) 優生保護法(1948年7月13日公布,9月11日施行).<復> a.目的.優生学上の見地から不良な出生を防止し,母体保護を目的として優生手術,人工妊娠中絶の適用及び受胎調節の指導などを行う.<復> b.成立の思想的背景.ドイツのナチ政権がゲルマン民族至上主義を唱え,混血児出産防止対策として1933年に制定した「強制断種法」を模倣し,1940年に種族保存を名目として「国民優生法」を制定した.同法が優生保護法成立の背景にある.<復> c.第2次世界大戦後の時代的な背景.①1945年の敗戦後,外地から戻った女性等による混血児の出産に対して,民族としての純血が保持できなくなるのを恐れたこと,②敗戦による領土の減少,食糧不足と人口増加,③人口政策上,また民族の逆淘汰の防止という点からも,先天性遺伝病者の出生抑制の必要を大義名分化し,「国民優生法」を改正してその中に「人工妊娠中絶条項」を加えた.<復> こうして,戦後の混乱期に議論らしい議論は何もなされず,胎児の殺害を可能とする超法規的法律—「優生保護法」が成立し施行されたのである.<復> 3.優生保護法による人工妊娠中絶の適用.<復> (1) 優生学的事由.当事者または近親者(4親等以内)に遺伝的疾患がある場合(同法第3章14条1項1,2号).<復> (2) 医学的事由.身体的理由により,母体の健康を著しく害する恐れのある場合(同14条1項4号)また,当事者がハンセン病の場合(同14条1項3号).<復> (3) 経済的事由.経済的理由により,母体の健康を著しく害する恐れのある場合(同14条1項4号).<復> (4) 社会的事由.暴行または脅迫によって妊娠した場合(同14条1項5号).<復> 4.人工妊娠中絶手術の種類.<復> (1) 妊娠初期・中期中絶(3か月未満).<復> a.吸引法.麻酔後,海綿状のラミナリアまたは頸管拡張管(ゾンデ)で子宮頸管を広げ,吸引管を子宮内に挿入し,真空吸引(掃除機の原理)によって胎児をバラバラにし,頭部は強力な鉗子(カンシ—刃先が環状のはさみ)でつぶし,粉々にして引き出す.<復> b.掻爬(そうは)(かき出し)法.子宮頸管を広げ,鋭い環状ナイフ(キューレ)や掻爬用さじで子宮壁を削り落し,胎児を細かく切り刻んでかき出す.<復> 吸引法と掻爬法が併用されることが多い.<復> (2) 妊娠中期以後中絶(6か月未満).<復> a.人工流産法.妊娠末期の普通の出産と同じような子宮収縮(陣痛)を人工的に起すために流産剤(プロスタグランジン)を膣の奥に挿入し,子宮筋を収縮させ子宮頸管を軟化拡大し,陣痛を誘発させて胎児を押し出し,死亡させる.<復> b.子宮切開法.下腹部から子宮を切り開き,帝王切開と似た外科的手術の方法で胎児を取り出して殺害する.<復> 5.胎児に対する聖書の証言.<復> 「胎児は人間である」ということを,聖書は明確に主張している.<復> (1) 神はいのちを胎内で形造られる.「あなたを造り,あなたを母の胎内にいる時から形造って,あなたを助ける主」(イザヤ44:2).人間のいのちは神によって創造されたものであり,すべてのいのちは胎内から始まる.<復> (2) いのちは連続性を持っている.「あなた(神)の目は胎児の私を見られ,あなたの書物にすべてが,書きしるされました.私のために作られた日々が,しかも,その1日もないうちに」(詩篇139:13,16).聖書は,胎児の誕生前のいのちと誕生後のいのちに何の区別や断絶も認めず,いのちの連続性のゆえに胎内にいる時から個人としての人格を認めている.<復> (3) 胎児は人間である.「その胎に宿っているもの(イエス・キリスト)は聖霊によるのです」(マタイ1:20).永遠から永遠にいまし,変ることのない神の子イエス・キリストが人となられる時,母マリヤの胎内から地上の生涯を始められた.<復> 6.「殺してはならない」という神の命令.<復> たといどのような理由があっても「殺してはならない」(出エジプト20:13)という至上命令を神は人間に与えている.<復> (1) 人間のいのちは,神のかたちに創造され,かけがえなく尊いものである.<復> a.神が人を神のかたちに創造し(創世1:27),いのちの息(神の霊)を吹き込まれたので(創世2:7),人間は生きるものとされている.<復> b.神はいのちの支配者である.「私は裸で母の胎から出て来た.また,裸で私はかしこに帰ろう.主は与え,主は取られる.主の御名はほむべきかな」(ヨブ1:21)と,ヨブは神のいのちに対する絶対的主権を賛美している.人間は,個人や国家その他いかなる権力によっても,強制的に奪われてはならない基本的な生存権・生きる権利を神から与えられている.<復> (2) 中絶は神のいのちを殺害する大罪である.<復> 中絶は,神がこの地上で栄光を現そうとして創造されたいのちを,初期の段階において抹殺し意図的かつ効果的に神に敵対する行為である.<復> 聖書全体が中絶を全面的に禁止していることは明白である.中絶は神の創造の秩序,いのちの尊厳,救いの計画に真っ向から敵対する.<復> 7.中絶に対する教会の責任と使命.<復> (1) 教会の社会的使命と責任.<復> a.真の全体的福音に生きる教会.主イエス・キリストは弟子たちをこの世に派遣される時,「その町の病人を直し(社会的使命),彼らに,『神の国が,あなたがたに近づいた.』と言いなさい(宣教)」(ルカ10:9)と命じられた.福音の全体(トータル・エヴァンゲル)とは,みことばの宣教と社会的使命が同伴し,補い合って完成するものである.<復> b.教会と中絶問題.中絶は神の律法に違反する.この世の法律も胎児の生存権を保障していない現状の中で,教会こそが胎児のいのちを守る最前線のとりでであり,最後の城である.中絶は教会が取り組まなければならない今日的緊急課題であり,教会がこの大きな社会問題に取り組まなければ,わが国にいのちを尊ぶ日は永久に来ないと思われる.<復> c.みことばによる愛の実践.主イエスは,いのちを守ることを第一として,みことばによる愛の実践者サマリヤ人(ルカ10:33)の信仰を喜び,「あなたも行って同じようにしなさい」(ルカ10:37)と命じている.愛によって働く信仰だけが大事なのであり(ガラテヤ5:6),信仰は行いによって全うされる(ヤコブ2:22)のである.<復> (2) 主の大宣教命令と総弟子化命令.<復> a.主の至上命令.主イエス・キリストは,「すべての造られた者に,福音を宣べ伝えなさい」(マルコ16:15)と命じ,また,「あらゆる国の人々を弟子としなさい」(マタイ28:19)と命じている.この至上命令に従うためには,出生数を何倍も上回るわが国の中絶を阻止しなければならない(中絶医より厚生省への届出件数は実数の一部にすぎない).<復> b.主の良き兵卒.キリスト者とは,中絶問題に対して,この世の罪に埋没せず,また,逃避せず,主の立派な兵卒として(Ⅱテモテ2:3),主の名によって戦う者(Ⅰサムエル17:45)であり,地の塩(マタイ5:13),世界の光(マタイ5:14)としての使命に生きて,すべての栄光を神に帰すものである.(→コラム「『小さないのちを守る会』の活動」,図「人工妊娠中絶件数及び出生数・自然死産数の年次推移」),→生命倫理,いのち.(辻岡健象)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社