《じっくり解説》王とは?

王とは?

王…

1.王の用語.<復> 王を表す語は,ヘブル語ではメレク,ギリシヤ語ではバシリュースである.[ヘブル語]メレクは本来「カウンセラー」または「所有者」を意味すると思われる.聖書では王の称号は様々な支配者について用いられている.都市国家の支配者であったアキシュ(Ⅰサムエル27:2)や,広大な帝国の皇帝クロス(エズラ1:1)も「王」と呼ばれている.<復> 2.王についての歴史.<復> (1) 族長・士師時代.族長時代にはアブラハムなどの族長によって,出エジプト時代には神に召されたモーセやヨシュアのような人物によって神政政治が行われた.士師時代には士師(さばきつかさ)によって支配されていたが,彼らには後の王のような強大な権限はなかったので,時として社会的な混乱があった(士師21:25).<復> (2) サムエルとサウルの時代.サムエルは幾つかの場所を巡回しながらイスラエルを指導したが,後に王に油を注ぐ者となった.人々が周囲の国々のように王を立てようとしたのは,ペリシテ人の脅威から自分たちを守るために,持続的な軍隊を持つ必要があり,その指導者としての王が必要と思われたからである.しかし王を立てることは不信仰から出たことであり,神の御心に逆らうことであった(Ⅰサムエル8:4以下).サムエルはサウルに油を注いで王とした(同10:1,24,25).しかしサウルは主の御心に従わなかったので退けられ,主の御心にかなう別の人物が王として立てられることになった(同13:14).<復> (3) ダビデの時代.ダビデはサウルの後に王として立てられ,主の祝福を受けて理想的な王とされた.400年間続いたダビデ王朝の基盤は人間的なものではなく,主御自身とその契約であった(Ⅱサムエル7:11‐16,詩篇132:11,12).<復> (4) ソロモンとその子孫の時代.ダビデの子ソロモンはエルサレムに神殿と王宮を建て,軍隊を整備し,内政を充実させ,イスラエルの歴史の中で最大の版図を誇った.しかし,彼は政略結婚した妻たちによって信仰が堕落し,彼の死後,王国は二つに分裂する(Ⅰ列王11:9‐13).ソロモンの家来であったヤロブアムによって始められた北王国の王朝は,8回変り,19人の王たちが王位に着いた.そのほとんどの王は「罪を犯して主の目の前に悪を行ない,ヤロブアムの道に歩んだ」(Ⅰ列王16:19)ために主の怒りを引き起した.南王国ではダビデの家系にある者たちが王位を継承した.その中には,アサ,ヨシャパテ,ヒゼキヤ,ヨシヤなどの主に従った王たちもいたが,マナセのように主の目の前に悪を行った王もあり,結局は南王国も滅ぼされてしまった.<復> (5) 捕囚後の時代.バビロン捕囚からの帰還後は,エズラ,ネヘミヤなどが活躍したが,王と呼べる存在ではなかった.ペルシヤを滅ぼしたアレクサンドロス王の死後興ったセレウコス王朝の,アンティオコス・エピファネースに対して,ユダの家(ハスモン家)のユダ・マカベアが立ち上がり,ユダの独立を勝ち取った.そして王としての称号を求めた.その後,ハスモン家と婚姻関係にあったヘロデは,ローマ皇帝からユダヤの王としての地位を与えられた.<復> 3.王の責任,権威,王権の性格.<復> (1) イスラエル以外の王.古代の王は政治的な立場とともに,儀式を行う祭儀的な立場を持っていた.王は神と人々の間の仲介者として認められていた.<復> (2) 聖書における王の責任.イスラエルの民が約束の地に入った時に「回りのすべての国々と同じく,私も自分の上に王を立てたい」と言うようになるから,その時はイスラエル人の中から王を立てなければならない,と命じられた(申命17:14,15).この王の責任は,外敵から民を守ること,条約を結ぶこと(Ⅰ列王15:19),税制などの法律を制定し,守らせること(参照Ⅰサムエル17:25),裁判官としての任務を果すこと(Ⅱサムエル15:2)などであり,また宗教的な面では大祭司を任命する責任も持っていた(Ⅰ列王2:35,Ⅰ歴代15:16‐24,24:3).<復> (3) 王の権利.イスラエルの民が王を求めた時,主はサムエルを通して王の権利を知らせた.それは徴兵,徴用,徴税の権利である(Ⅰサムエル8:11‐17).<復> (4) 王の権威.イスラエルの王は近代の立憲君主とも,古代の専制君主とも異なっていた.彼は自分を立てた神に対して責任があり,神の律法に従うことが求められた(Ⅰサムエル10:25,Ⅱサムエル5:3).王は預言者によって制約を受け,神の御心に背いた時は預言者によって非難され,悔い改めを求められた(Ⅱサムエル12:1‐15,Ⅰ列王21:15‐29).王の任命は,時には預言者による油注ぎによって行われた(Ⅰサムエル10:1,16:13,Ⅰ列王19:16).王は王としての権限を越えてはならなかった.サウル王は,祭司の権限を侵した時,サムエルによって責められた(Ⅰサムエル13:8‐14).<復> (5) 王権のしるし.サウルとダビデは最初個人的に油を注がれ,後に公に油を注がれた.王の即位の様子の完全な記録は,ヨアシュの即位の記事に見られる(Ⅱ列王11章).そのほか,王権のしるしとしては,王冠と笏と王座がある.ダビデの時代からは,王は王宮に住み,多くの王たちは死んで後,王の墓に葬られた.<復> (6) 王位の相続.サウルとダビデの場合は直接主の霊が注がれて王位に着いたが,ダビデ以後は世襲制になった.たいていは長男が王位を継承した.しかし,ソロモンの例に見られるように,いつもそうとは限らなかった.<復> 4.王なる神.<復> (1) 旧約.主はイスラエルの王として治められる(出エジプト15:18).契約の箱は主の王座と見なされている(詩篇99:1).<復> (2) 新約.旧約における王なるメシヤの預言は,イエス・キリストにおいて成就した(マタイ1:1‐17,ゼカリヤ9:9).イエスの最初のメッセージは「神の国は近くなった」(マルコ1:15)であった.この王国は「この世のものではない」(ヨハネ18:36).この神の国に入るのは悔い改めと信仰による.王なるキリストの務めは,人々を暗やみの支配から救い出し,自由を与えることである(コロサイ1:13,ヨハネ8:31‐36,ガラテヤ5:1).キリストの王国は永遠の王国である(Ⅱペテロ1:11).<復> 5.現代への適用.<復> (1) 私たちの国には「王」は存在しないが,天皇及び政府は存在する.これらは人間であるゆえに不完全であり,誤りもあることを認めなければならない.<復> (2)「存在している権威はすべて,神によって立てられたもの」(ローマ13:1)なので,上に立つ権威には従うべきであり,納税を初めとする義務を果さなければならない.<復> (3) しかし,私たちは「真の王」であるイエス・キリストに従う者であるゆえに,権威を持つ者がキリストの教えに反する行動を取る場合には,預言者としてそれを戒め,また祭司として彼らのためにとりなしの祈りをささげなければならない(Ⅰテモテ2:1).そして主イエスが王の王,主の主として新しい天と地を治める時が来ることを待ち望みつつ,主に従って福音を伝え,教会を形成していかなければならない.→油注ぎ,神の称号,キリストの称号,神の国・天の御国・キリストの王国,神政政治.<復>〔参考文献〕The International Standard Bible Encyclopaedia, Eerdmans ; The New Bible Dictionary, IVF, Tyndale, 1962 ; The Zondervan Pictorial Bible Dictionary, Zondervan, 1967.(坂野慧吉)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社