《じっくり解説》青少年問題とは?

青少年問題とは?

スポンサーリンク

青少年問題…

1.青少年の年代区分.<復> 聖書の中で青少年という語は使われていない.この語を分割して,少年と青年に年代が区分されて用いられている.「青年」は新約聖書にのみ出てくるが,「少年」は新旧両方に用いられている.旧約では「若者」「若い者」が「青少年」を意味する語としてしばしば用いられている.<復> 青少年は現代社会で頻繁に用いられるようになった発達心理学上の用語であるが,発達心理学的には児童期と青年期を含むかなり年齢幅の広い期間を指すと考えるべきである.人の発達段階を通常,乳児期・幼児期・児童期・青年期・壮年期・老年期という区分で呼ぶが,各発達段階に見られる特徴や発達上の課題,身体的発達や特定の精神機能に着目してさらに細かな区分をしている学者もいる.特に児童期から青年期にかけては最も複雑な年代である.日本の教育体系に関連させ,小学校(児童期),中学校(青年前期),高等学校(青年中期),短・大学(青年後期)とする社会的習慣上の区分もあるが,精神的発達と個人差の最も激しいこの児童期と青年期を総合して青少年という表現で一括して呼ぶ場合,それらの問題をすべて含めているのである.また法律上では20歳が未成年と成人との境界年齢となっている.しかし,「少年法」は20歳未満の者に適用されるが,「児童福祉法」では少年は小学校就学から満18歳に達するまでの者を指す.このように,発達心理学においても,教育制度的にも,法律においても,少年,青年,未成年,成人等様々の呼び名とともに年齢的区分はおのおの異なっており,明確には区分が困難である.さらに,青少年問題というテーマが意味することは思春期問題とも言い換えられるように,最も多くの発達上の困難をかかえる年齢段階の総合である.思春期には「反抗期」「ギャングエイジ」「心理的離乳期」「疾風怒濤の時代」「第2次性徴発達期」等多くの別名がある.いずれも,人間の一生の中で最も波瀾に富んだ危機的時代であるという認識であるが,1980年代に入ってからは「無気力」というのもこの時代の危機の特徴となってきた.<復> 2.現代の青少年の状況と問題.<復> 1988年度の「青少年白書」によれば,青少年人口(この場合0—24歳を示す)を年齢別でみると13—16歳(各年齢200万人前後)が最も多く,青少年人口は1987年では全体の35%で,年々その比率は小さくなっており,日本が青年の国から高齢化社会へ移行していることを示している.<復> 発達上における青少年の問題は文明社会に共通の現象であるが,発達加速現象によって発達は早くなり,一方で成熟した社会人となるまでに要す期間は長期化してきている.その理由の一つは教育期間の長さである(同年齢の94%以上が高校に進学し,36%以上が大学・短大に進学).二つには高度に文明化した社会においては成人になるための訓練に時間を要し,比較的自由が与えられている期間であるため,青年が意識的に成熟を拒否し,成人前の年数を延長させている.これがモラトリアム(執行猶予期間)と呼ばれる状態である.彼らは青年期の最も重要な課題である「同一性」(identity)の確立を時間的に後退させるのである.アイデンティティーの確立のためには各自が生きていく根底になる価値観を形成する必要があり,自己認識,将来の時間的展望,宗教観(信仰の決断),職業観,性役割認識が必要である.多様化する現代の価値観の中で青年たちは動揺し,自己決断に時間を要する.三つには,社会が青年を成熟した成人と見なす年齢が遅い.K・レビン(ドイツのゲシュタルト学派の一人である心理学者)がいうマージナルマン(Marginal Man.境界人,すなわち子供と大人の境界にある人)の期間が長い.<復> このような青少年の状況の中で起っている青少年問題は現代文明社会の歪みを現し,警鐘を鳴らしていると言わざるを得ない.ホール(Hall, G. S.)は今世紀を「青年の世紀」と呼んだが,子供から大人への移行期はいつの時代も発達上の困難はあった.しかし,特に現代文明を直接に反映していると言える青少年問題には薬物乱用,校内暴力,家庭内暴力,暴走,いじめ,登校拒否,学校恐怖症,異性問題等がある.<復> 図1は1988年度の青少年白書に発表された「不良行為少年の態様別状況」であるが,20歳未満で警察に補導された青少年についての分布である.喫煙が全体の40.4%で最も多く,深夜徘徊,暴走行為の順になっている.<復> さらに学校教育の場で大きな問題になっているものに「いじめ」と「登校拒否」がある.今日の教育状況の中で急激に増加してきたこの問題は,日本がかかえる教育的,社会的な文明病と言える.図2は文部省による1987年度の「学年別いじめの発生件数」である.中学1,2年が目立って高いことは数年変っていない.「性の逸脱行為」も年々増加の一途であるが,「性意識」そのものが根底から変化している.純潔観は著しく後退し,高校男子で17.0%,女子で40.0%(1982年,東京都生活文化局)である.<復> 様々の個別的な青少年問題の根底にある現代の青少年の価値観の共通部分は,個人生活志向と,遊び志向であると言える.伝統的な規範や他者との深刻な葛藤がなく,自己の欲求を最大限満たされて成長してきた青少年は,主体性志向はあるものの,社会での連帯的活動や全体の発展に寄与する生き方より,個人レベルでの充足を最重視する価値の形成へと明確に移行している.図3に示すように戦後の歴史の中で価値観は1953—1954年を境に逆転し,社会的価値志向から私的自由志向へと変化して今日に至っている.しかも,情報の多様化と映像による刺激の強さは現代青少年をますます混迷させ,長期化させ,未熟化させ,かつ個人化させている.<復> 3.青少年に関するみことば.<復> 青少年という年代を表すことばは聖書に使われておらず,青年と少年とに区別されている.少年の年齢について最も明白な箇所はルカ2:42にある少年イエスで,ここではっきりと12歳と指摘がある.従って幼子が成長して12歳頃までを少年と呼び,その後を青年と呼んでいると理解できる.青年については新約聖書に10回以上出てくる.例えばマタイ19:20の青年については16節で「ひとりの人」という表現もなされていることから,哲学的思考を行っているかなり上の年齢であることがわかる.旧約で「若い男」「若い女」「若い者」「若者」という表現で用いられている語は成人した中の特に若い年齢の者たちのグループを指している場合も多いが,箴言22:6では「若者をその行く道にふさわしく教育せよ」とあるので,この若者はまだ教育期間にある年齢であることがわかる.従って青少年という言葉が意味するのと同じように年齢的に幅広い層を指し示すと考えられる.<復> 現代の青少年がかかえている問題を福音の光に当てると倫理的,道徳的な面での世俗との闘いが明らかになってくる.青少年は自らの存在の価値と意味を見失い,快楽と無気力の方向に流されようとしている.福音により,創造の目的を自らの存在の価値としてアンデンティティーを形成することのできた少数のキリスト者青年の世俗に対する聖別は現代社会で貴重である.終末に近付くにつれてサタンの力はますます青少年を世俗へ引きずり込もうとしているからである.→教育問題.<復>〔参考文献〕加藤隆勝『青年期の意識構造』誠信書房,1989;西平直喜他編『青年心理学ハンドブック』福村出版,1988;中西信男他編『現代青年の理解と指導』福村出版,1985;総務庁青少年対策本部編『昭和63年度青少年白書』,1989.(柏木道子)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社