《じっくり解説》スチュワードシップとは?

スチュワードシップとは?

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スチュワードシップ…

[英語]stewardship,[ギリシャ語]オイコノミアの訳.新約聖書にはイエスのたとえ話と使徒たちの手紙に[ギリシャ語]オイコノモスという語が10回出てきており(ルカ12:42,16:1,3,8,ローマ16:23,Ⅰコリント4:1,2,ガラテヤ4:2,テトス1:7,Ⅰペテロ4:10),「管理人」または「管理者」と訳されている(ローマ16:23だけ「収入役」).そこでは弟子たちが,そしてすべてのクリスチャンが,神の様々な恵みの忠実な思慮深い管理者であることが,教えられ,求められている.このオイコノモスの職そのもの,すなわち管理人職(ルカ16:3,4「管理の仕事」)と,その職務,すなわち(広義のではあるが)管理人としての「務め」(Ⅰコリント9:17,エペソ3:2,9,コロサイ1:25)の両方を指すことばとしてこの語オイコノミアは聖書で用いられている(新約聖書では全部で9回,ルカ16:2では「会計」,エペソ1:10とⅠテモテ1:4ではより広い意味で使われている.エペソ1:10については後述.Ⅰテモテ1:4は「救いのご計画の実現」と訳されている).そしてその訳語としてのスチュワードシップは,今日,クリスチャンが管理者としての務めを果していくに当っての生活原理,またその生活の管理技術を指すことばとして,キリスト教会に定着しつつある.<復> そこには一つの歴史があった.19世紀後半,経済的に行き詰ったアメリカの教会の中から,自発的な動きとして,献財と献身を奨励し合う信徒運動が起った.その発端は,シカゴの実業家であり教会の長老であったトーマス・ケインの始めた十分の一献金の実験的な実践のあかしにある.1876年,彼はアメリカ中の主として福音的な牧師の4分の3に宛てて,自費でパンフレットを配り,収入の一定の部分を聖別して神をあがめる人を,神が霊的にも物的にも祝福されるとの確信を訴えた.以後,次の10年間だけでも,さらに500万部以上のパンフレットを配布するなど,この十分の一献金運動は多くの信奉者を生み,反響が反響を呼び,1917年にはレイマン・アソシエーション(信徒協会)さえ結成されるに至った.スチュワードシップなる語はこの運動とともに広まり,「自発的な奉仕を目的とする信徒の運動」としてこの語が説明されることもあるほどである.「スチュワードシップの神学」ということが今世紀に入ってしきりに言われるようになったのには,こうした背景がある.すなわち,教会会計の正常化をはかり,信徒の献金生活を改善しようとする運動が契機となって,クリスチャン・スチュワードシップへの関心が高まったと言える.<復> だが,前述の通り,その教え自体は本来聖書のものである.[英語]ステュワードと訳される新約聖書の[ギリシャ語]オイコノモスに相当する旧約聖書の用語は,[ヘブル語]アシェル・アル・ハッバイスで,「家の管理者」(創世44:1,4),「宮内長官」(Ⅰ列王4:6,Ⅱ列王10:5,イザヤ36:3),「家のつかさ」(Ⅰ列王16:9),「王宮(宮廷)をつかさどる(者)」(Ⅰ列王18:3,イザヤ22:15)と訳されている.このうち最初の用例は,ヨセフの任命した「家の管理者」のことであるが,模範的なキリスト者の一つのひな型として描かれているヨセフ自身が,エジプトの侍従長ポティファルの奴隷という寄留者としての境遇にあって,その「家の管理者」として立てられたことを思い出させる(創世39:1‐6).聖書をさらにさかのぼると,創造者である神が,地上の被造世界を管理させることを目的として人を造られたことを知らされる(創世1:26‐28).人はすべて,神からこの地上の管理者としての任務を与えられて造られたのである.<復> しかし,人は神に背き,罪を犯し,神の賜物の忠実な管理者としての使命を果して神の栄光を現すことができない者となった.にもかかわらず,神は豊かな恵みにより,キリストにあって,その血による贖いのゆえに,私たちの罪を赦して下さった.しかも神はその恵みを私たちの上にあふれさせ,御子キリストにおいてあらかじめお立てになった御計画を,「みこころの奥義」として私たちに知らせて下さった.それは「時がついに満ちて,この時のためのみこころが実行に移され,天にあるものも地にあるものも,いっさいのものが,キリストにあって一つに集められる」ことである(エペソ1:7‐10).ここで「時がついに満ちて,この時のためのみこころが実行に移され」と訳されている原文にスチュワードシップの原語に当る[ギリシャ語]オイコノミアが使われているのは注目に値する.この文節は直訳すると「時がすべて満ちるオイコノミアへと」である.スチュワードシップのキリストにある完成・成就がここに約束されている.そしてこのキリストにあって,「私たちは彼にあって御国を受け継ぐ者ともなったのです」と宣言される(エペソ1:11).すなわち,キリストにあって,人は神の家の,そして神の国の管理者としての任命を,もう一度新たに受けるのである.<復> 「キリストのしもべ,また神の奥義の管理者」(Ⅰコリント4:1)としての生活原理と管理技術,すなわちスチュワードシップは,聖書から学ぶべきものであることは言うまでもない.聖書はスチュワードシップをクリスチャン・ライフの全般にわたる事柄として教える.献金の教えに限られるようなものではない.生命と能力の用い方,時の用い方,財の用い方のすべてに関係し,人生設計,伝道,奉仕,施し,勤労,政治,交わり等々,あらゆる生活の分野において,神の栄光を現し,神を喜ぶ道として聖書は教えている.<復> 「万物の終わりが近づきました.ですから,祈りのために,心を整え身を慎みなさい.何よりもまず,互いに熱心に愛し合いなさい.愛は多くの罪をおおうからです.つぶやかないで,互いに親切にもてなし合いなさい.それぞれが賜物を受けているのですから,神のさまざまな恵みの良い管理者として,その賜物を用いて,互いに仕え合いなさい.語る人があれば,神のことばにふさわしく語り,奉仕する人があれば,神が豊かに備えてくださる力によって,それにふさわしく奉仕しなさい.それは,すべてのことにおいて,イエス・キリストを通して神があがめられるためです.栄光と支配が世々限りなくキリストにありますように.アーメン」(Ⅰペテロ4:7‐11).クリスチャン・スチュワードシップの何たるかが,広い視野と終末への緊迫感の中で語られ,教えられている.「祈りのために」心と体を管理することが,とりわけ強調されている.スチュワードシップは「すべてのことにおいて,イエス・キリストを通して」,それも祈りに始まり,祈りによって,愛のうちに果されるのである.<復>〔参考文献〕榊原康夫『知恵ある生活—クリスチャン・スチュワードシップ』いのちのことば社,1984.(森 和亮)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社