《じっくり解説》天皇制とキリスト者とは?

天皇制とキリスト者とは?

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天皇制とキリスト者…

日本の天皇の現在の地位は,日本国憲法(1946年公布)の第1章に規定されている通りである.「天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基く」(第1条).そして憲法の定める10の国事行為を行う(第7条)以外に国政に関する権能を持っていない.従って主権者である国民の総意により,憲法改正の手続きを通して,天皇という制度を廃止することももちろん可能である.<復> しかし近年「象徴」という法的にあいまいな概念を操作して,様々な方法によって天皇を大日本帝国憲法での「元首」の地位まで引き戻そうとする一連の動きが出て来ている.その一つは天皇の交替とともに「元号」を変えることを決めた元号法の制定(1979年)であり,元号を国民に半強制的に使用させて,日本の歴史を天皇史と結び付ける風潮をつくり出している.<復> 天皇制という制度そのものは,歴史的にその内容を変えてきてはいるが,天皇の存在は古代より現代まで変ることなく続いている.もともと天皇という言葉は,古代中国の道教の最高神を意味していた.それが日本の文献に初めて登場するのは,『万葉集』の柿本人麻呂の草壁皇子への挽歌(689年)の中であると言われている.<復> いずれにせよその当時,古代律令制のもとでの天皇は「太政官」と「神祇官」の上にある一つの称号であり,ある程度の権力を持って政治を行っていたが,以後,平安時代の摂関政治,武家による幕府政治の1000年以上にわたって,むしろ「権力」であるよりも「権威」であったと言える.明治時代以後の近代日本の中で,大日本帝国憲法(1889年)に「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」(第1条),「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」(第3条)と規定されたように,再び政治的な権力を持つようになり,かつ現人神(あらひとがみ)として国家神道(→本辞典「神道とキリスト教」の項)の頂点に位置した.そして日本国民のみならず朝鮮,台湾の植民地においても天皇崇拝が強制された.<復> 特に15年戦争開始(1931年)以後は,キリスト教会も「天皇とキリストとどちらが偉いか」などという形での思想統制に苦しめられた.しかし最終的には,教会は天皇を頂点とした日本国体を弁護し,宗教団体法(1939年成立)のもとでアジアへの侵略戦争に自ら加担することとなった.それは例えば,1941年6月に東京の富士見町教会で創立総会を開催した旧日本基督教団の教団生活綱要の第1に,「皇国ノ道ニ従ヒテ信仰ニ徹シ各其ノ分ヲ尽シテ皇運ヲ扶翼シ奉ルベシ」とある言葉からも読み取れる.<復> 象徴天皇制の現代日本においても,天皇自身の持つ宗教性は全く変っていない,ということに注意すべきである.つまり天皇が皇室神道における最高祭司であり続けているからである.皇室神道は『古事記』『日本書紀』の神話に基づいて,高天原の主宰神の天照大神(アマテラスオオカミ)の子孫として天皇の血統を特別視している.神話では,アマテラスオオカミの命を受けて天孫ニニギノミコトが葦原の瑞穂の国に降臨する際に,「天壌無窮の神勅」を受けたとし,これに基づいて日本国土を征服し国を肇(はじ)めたのが,第1代目の神武天皇であるとする.代々の天皇は皇位を継承すると,ただちに新嘗祭の大祭である大嘗祭(だいじょうさい)を行った.新嘗祭は稲の収穫を神々に捧げる稲作農耕民の農耕祭式を古代の天皇制成立時に取り入れたものであるが,大嘗祭(この名称は天武朝時代から使われたと言われる)はさらにそれを王即位の儀式と結び付けたものである.<復> 民俗学者の折口信夫は,昭和天皇の大嘗祭の時に執筆した論文「大嘗祭の本義」(1928年)の中で,大嘗祭の目的は天皇霊を新天皇の身体に付着させることであると,次のように述べている.<復> 「恐れ多い事であるが,昔は,天子様の御身体は,魂の容れ物である,と考えられて居た.天子様の御身体の事を→すめみまのみこと/・・・・・・・・←と申し上げて居た.→みま/・・←は本来,肉体を申し上げる名称で,御身体という事である.尊い御子孫の意味であるとされたのは,後の考え方である.→すめ/・・←は,神聖を表す詞で,→すめ神/・・・←の→すめ/・・←と同様である.(中略)此→すめみまの命/・・・・・・←に,天皇霊が這入って,そこで,天子様はえらい御方となられるのである.(中略)此→すめみまの命/・・・・・・←である御身体即,肉体は,生死があるが,此肉体を充す処の魂は,終始一貫して不変である.故に譬い,肉体は変っても,此魂が這入ると,全く同一な天子様となるのである」.<復> さらに大嘗祭の儀式で,天皇が神と共食するという二つの神殿(悠紀殿,主基殿)の中には寝具が設置されている.そして天皇はここに1時間ほど引きこもる.その時に天皇霊が付着するとされるが,これはニニギノミコトが天上から降臨する時にかぶっていたという「真床襲衾(まどこおふすま)」に当ると,折口は述べている.<復> このような宗教的な天皇霊の継承により,神話的に天皇の地位が継承されるとするならば,日本の天皇制とは現代ヨーロッパの君主制に比べ全く異質な独特の王制と言わなければならない.<復> 大嘗祭に明白に現れているように,天皇制の本質的な部分は宗教によって決定されている.しかもこの宗教は,日本人一般の持つ「アニミズム」と「神人合一」の宗教意識をも包摂する(→本辞典「日本の宗教」の項)ので,この宗教意識が変らない限り,日本に天皇制はなくならないと考えられる.従って,キリスト教会が,唯一の創造神とイエス・キリストの贖罪,すなわち福音を伝道することこそが,天皇制と対決していく最も確実な道である.→神道とキリスト教,信教の自由,日本の宗教.<復>〔参考文献〕岸俊男編『王権をめぐる戦い』(「日本の古代」第6巻)中央公論社,1986;『折口信夫全集』第3巻,中央公論社,1966;金田隆一『戦時下キリスト教の抵抗と挫折』新教出版社,1985.(稲垣久和)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社