《5分で分かる》正統主義とは?

正統主義とは?

正統主義…

1.語義.<復> [英語]Orthodoxy,[ドイツ語]Orthodoxieなどの語は,[ギリシャ語]orthodoxia(orthos〔正しい,正当な,純粋な〕とdoxa〔意見,見解,教理〕)から派生したものであり,非正統([英語]heterodoxy)や異端([英語]heresy)と対比される概念である.政治の領域でも用いられるが,宗教上の用語としての使用が多い.キリスト教においては,「多数のキリスト者から支持を受け,公式の信仰告白によって公にされる,異端や異説に対する正しい真理の主張や正統的な立場」を意味する.<復> 2.広義に解釈された正統主義.<復> 「正統」概念は,古代教会におけるグノーシス派との葛藤,三位一体論争,キリスト論論争などを通じて,2世紀以降の教会において顕著となった.公同教会としての諸信条や「信仰の規準」([ラテン語]regula fidei)を厳密に受け入れるかどうかが,正統と異端を分けた.<復> 3.東方正教会としての正統主義.<復> [英語]Orthodox Churchとは,東方正教会を言う.同教会は,古代教会の公同的教会会議,つまりニカイア総会議(325年)からコンスタンティノポリス会議(キニセクスティン会議)(692年)に至る会議の教理決定に,正統性の基礎を置く.特にエペソ総会議とカルケドン総会議を尊重し,自ら「聖なる,正統の,公同の東方教会」と称する.そして西方教会の信条に「また子とから」([ラテン語]filioque)とあることなどを理由に,その非正統性を指摘する.<復> 4.狭義に解釈された正統主義.<復> この場合,宗教改革以後17世紀にプロテスタント教会内に形成された神学(プロテスタント・スコラ主義〔[英語]Protestant Scholasticism〕とも呼ばれる)を指す.初期の改革者はまず説教者であった.教会生活や神学や教会政治に関し,山積する課題に答える使命を,正統主義者と呼ばれる世代が負った.<復> (1) 正統主義は,それ以後の神学思潮をある程度,方向付けた.敬虔主義,啓蒙主義,自由主義などこれと対立する思想も,正統主義を正しく理解し評価して初めて解し得る.正統主義を単に硬化した教条主義の代名詞として否定的,消極的に解するだけでは至当でない.<復> (2) ルターの死後,同派では急進的ルター派である「真正(純粋)ルター主義者([ドイツ語]Gnesiolutheraner)」がフィーリプ・メランヒトンの信奉者である「フィリップ派([ドイツ語]Philippisten)」に対抗した.1577年の『和協信条』において前者寄りに宥和するまで,アディアフォラ論争(信仰生活にとって本質的なものと非本質的なものとを巡る論争),無律法主義論争,オジアンダーの義認論争,聖餐論争,神人協力説論争などが続いた.正統主義神学はアリストテレースの哲学的範疇を用いるなどスコラ学的傾向が強まり,聖書の権威,その明晰性と充足性を強調する聖書霊感説,属性の交流([ラテン語]communicatio idiomatum)を説くキリスト論などを特色とした.メランヒトンのLoci communes(1521年)の立場を継承するヨーハン・ゲーアハルトらが代表的神学者である.<復> (3) 改革派の諸教会間,あるいはルター派との間に,またローマ・カトリック教会との間にも諸論争が起った.上記のルター主義の特色に加え,改革派正統主義は契約神学や神の主権と予定の信仰を特色とする.予定論を巡る複雑な論議がフランスやオランダで続いたが,ドルト会議(1618—19年)の信仰規準が穏健にそれらの難問に答えた.聖餐論争はルター派との間で繰り返された.改革派正統主義は,英国のウェストミンスター信仰規準,オランダのドルト信仰規準,フランスのガリア信仰告白,スイス信条,ドイツのハイデルベルク信仰問答などに示されている.アルミニウス派との論争はドルト会議における正統主義の勝利に終った.スイスのベーズ,英国のパーキンズ,カートライト,オランダのヴート(ヴォエーティウス)などに注目したい.<復> (4) 正統主義の時代は福音主義教会音楽の全盛時代でもあった.J・S・バッハやパウル・ゲーアハルトは賛美歌を歌う教会を導き,コラール,モテット,カンタータ,受難曲が豊かな音楽文化を開花させた.<復> 5.福音主義神学としての正統主義.<復> 福音主義神学([英語]Evangelicalism)も正統主義と表現され得る.この神学は,「使徒的キリスト教を信奉する神学」「宗教改革の3大原理,すなわち,聖書の権威,恵みと信仰義認,聖徒の交わりとしての教会,つまり,全信徒祭司主義を原理とし,それらを徹底し充実する神学」「聖書の霊感と神的権威を基盤とする神学」と定義され得よう.福音主義神学はより豊かな源流と展開から考察されるべきであるが,聖書主義を中心とする「正統信仰」を常に再確認する.<復>〔参考文献〕宇田進『福音主義キリスト教とは何か』いのちのことば社,1984;L・ベルコフ『キリスト教教理史』日本基督教団出版局,1989;W・ホーダーン『現代キリスト教神学入門』日本基督教団出版局,1969;Pelikan, J., The Christian Tradition, Vol.5, Univ. of Chicago Press, 1989.(岩本助成)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社