《5分で分かる》トマス主義とは?

トマス主義とは?

トマス主義…

[英語]Thomism.この名称は,トマス・アクィナス(1225年頃—74年)の教理と思想体系,及び彼の立場を継承するトマス学派の教理と思想体系との両者を指す.<復> 1.トマスの教理と思想体系.<復> トマスは,ローマ・カトリック教会においてその教理が公的に権威付けられた第一級の神学者で,「天使的博士」として学ばれ教えられる人物である.福音と律法の光に照らしてアリストテレースなどギリシヤ的思弁の総体を再検討し「統合的な神学」を試みた点と,神学に強固な骨格を与えるため簡潔で平易な学の技法を用いた点が評価できる.ただし,疑問を幾つかの項に分け,各項が大前提と小前提に続く結論,それに対する反論及び解答,で構成されるという技法は,なじみにくい.<復> (1) 聖書とトマス.神学教授トマスのおもな仕事は聖書講義であった.講義内容や著作全体は,彼が単に聖書の本文のみならず,教父たちの聖書解釈やギリシヤ思想,ユダヤ思想,アラビヤ思想など多様な思想に精通していた事実を示す.時代的制約や煩瑣(はんさ)な類比論を含むが,トマスの神学が聖書講義の集大成であることに変りはない.主著『神学大全』は,聖書の秘義へ近づくための「初心者への手引き」であった.<復> (2) 神学と哲学.トマスによれば,学(scientia)には「より高い知識の光に照らされなければ明証性が明らかにされぬ原理から出発するもの」と「自明の原理から出発するもの」がある.神学は前者に属し,信仰の箇条(articuli fidei),聖なる教理(sacra doctrina)である.啓示を原理とし超自然の光に導かれる神学は,理性への優位を保ち神から被造界へと下降して考察する学である.哲学は信仰に対する明確な位置付けを与えられ,自然な理性に導かれ被造界から神へと上昇する学である.神学と哲学,信と知は明確に相違する領域でありつつ,調和され統一される.理性の自律性はその根源を神の被造の自立性に持つ.被造物の完全性を損なうことは,神の完全性を損なうことを意味する.理性を越える信仰内容も,可能な限り「信仰の道に転位された理性」を駆使して解明され(啓示神学),「自然な理性」は啓示と矛盾する哲学内容を検討して誤謬(ごびゅう)や曲解を矯正し,すべての源である神への道を開き,啓示の道備えをする(自然神学).<復> (3) 存在の2様態.神は「自立的存在そのもの」(Ipsum esse subsistens)であり,被造物はその本来的な結果である.存在(有)は,「現実態」(actus〔実現された完全性〕)と「可能態」(potentia〔完全性への能力〕)において自らを示す.しかもトマスは,可知的「形相」(forma)のみが認識の唯一の源泉であるとする.「可能態における可知的なもの」が「現実態における可知的なもの」となるためには,人間の「能動理性」(intellectus agens)の介入を要する.理性は「感覚作用」で受けたものを「像」(imago, phantasma)によって核心に形成し,「受動理性」(intellectus passivus)はこの核心を同化する.<復> (4) 宇宙構造.トマスによれば,神は頂点に存在し無限で唯一の「純粋現実態」である.底辺には「純粋可能態」としての「質料」がある.神の存在(現実態)は,どんな本質(可能態)によっても限定されない.宇宙の中間のあらゆる形而下的存在は,質料(可能態)と形相(現実態)との合成である.その最高位の人間は「霊魂と肉体との合成」で,霊魂は肉体の形相であるが質料の束縛からより解放されたものであり,肉体の死滅後も存在し得る.<復> (5) 倫理観.信仰,希望,愛などの神学的徳と他の諸徳は神の恵みの賜物であり,天の栄光の前味である.神との交わりは神の内在,洗礼(バプテスマ)によって始められ,聖餐によって養われ,祈りや隣人への奉仕によって満たされる.トマスは幸福を「神についての観照」と理解し,永遠性をも強調して「至福への直観」(visio beatifica)と見る.彼において,アリストテレースの思想は常に聖書の使信と同時代に対するメッセージを指針として再解釈され用いられた.<復> 2.トマス学派.<復> パリ大学に真の継承者はおらず,非難と攻撃の時代,歪曲への訂正の時代を経て,13世紀末から列聖される(1323年)時期に至って,トマスの思想は本格的評価の時代を迎えた.綿密な原典研究がドミニコ会のヨアネス・カプレオルス(1380年頃—1444年)などによってなされ,スコートゥス派やオッカム派への論駁が続いた.トリエント公会議でのトマス復権の後,イエズス会思想家フランシスコ・デ・スアレス(1548—1617年)もトミズム復興に貢献した.17—18世紀には哲学や神学の「教程」の形でトマスが教えられ,原典研究が活発化した.教皇レオ13世の回勅「エテルニ・パトリス」が「カトリック信仰のとりで,栄光としてのトマス」を宣言しトマス復興が確立した.今世紀のトマス学者にはマリタン,グラープマン,ジルソン,ラーナー,ロナガンらがいる.→スコラ学,トマス・アクィナス.<復>〔参考文献〕T・アクィナス『神学大全』創文社,1960—;稲垣良典『トマス・アクィナス』講談社,1979;E・ジョノー『ヨーロッパ中世の哲学』白水社,1964;F・コプルストン『中世哲学史』創文社,1981.(岩本助成)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社