《5分で分かる》奴隷制度とは?

奴隷制度とは?

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奴隷制度…

人間が他の人間によって財産として所有され隷属させられること.古代中近東やギリシヤ・ローマ世界に多く見られ,奴隷制経済,奴隷制社会を形造っていた.奴隷の多くは戦争と貧窮によって生み出され,人格を認められずに過酷な条件の下で家内労働や生産労働に使われた.<復> 旧約時代,イスラエルでは奴隷を持つよりも労働者を雇うほうが経済的なため,奴隷の数はそれほど多くなかったと思われる.奴隷に関する旧約律法は出エジプト21章,レビ25章,申命15章にある.周辺諸国の奴隷制度と比べ緩やかな奴隷制度であった.人間の非人格的所有としての奴隷制度ではなく,労働の所有としてのそれであった.奴隷は主人の財産であっても,律法によってその人格と権利は保証された.奴隷を解放すべきことについての律法もある(出エジプト21:1‐11,レビ25:39‐55).奴隷の酷使も禁止された(レビ25:43).<復> 前3—前1世紀にローマ社会に大量の奴隷が流入した.新約時代のローマ世界は奴隷制社会であった.福音書には奴隷制度の是非に関する明白な言及はないが,キリストは黄金律(マタイ7:12)を教え,弱き者,貧しき者へ愛を注ぎ,愛の律法を説いた.パウロは「奴隷と自由人という区別はない」と言った(コロサイ3:11.参照ガラテヤ3:28,Ⅰコリント12:13).彼は奴隷制度そのものを論ずるのでなく,奴隷もその主人もキリストにあって一つとされ,愛によって結ばれるようにと説いた.Ⅰコリント7:21は様々に解釈されてきた箇所で,その解釈は奴隷制度に関する神学論議に影響を与えた.新共同訳は「自由の身になることができるとしても,むしろそのままでいなさい」と訳し,新改訳は「もし自由の身になれるなら,むしろ自由になりなさい」と正反対に訳しているが,後者の訳が正しいであろう.パウロは奴隷の自由への願いを尊重している.ピレモンへの手紙は逃亡奴隷オネシモの処遇の問題を扱っている.奴隷も主人もキリストにおいて兄弟であることが強調され(ピレモン16節),奴隷制度は直接には攻撃されていないが,その存在自体を不可能にする原理は説かれている.<復> 初代教会では,キリスト者の主人と奴隷との間にはキリストにある兄弟姉妹としての連帯があった.コンスタンティーヌス帝以後,ローマの法律はキリスト教の影響を受けて奴隷の生活条件を改善した.教会では司教が奴隷解放を宣言するだけで奴隷は自由の身になれた.奴隷から司教になった者も出た.しかし奴隷制度が消滅したわけではなく,中世の農奴制へと姿を変えて残った.初代教父のナジアンゾスのグレゴリオスやアウグスティーヌスは奴隷制度は堕罪の必然的な結果としてもたらされたものであるとした.11世紀のアンセルムスは奴隷売買を禁止した.13世紀のトマス・アクィナスは神の懲罰であると見なした.<復> 1453年にコンスタンティノポリスがトルコ人によって陥落し大量のキリスト教徒が奴隷となった時から,再び奴隷制度が息を吹き返した.キリスト教徒の間にも奴隷の所有が行われ始めたのは1492年のアメリカ大陸発見以後である.スペイン人,ポルトガル人,イギリス人が先住民インディオを奴隷とし,さらにアフリカから黒人を連れて来て奴隷とした.イエズス会の神学者L・レシーユスとJ・デ・ルゴらは奴隷制度は自然法に反するものではないと論じたが,インディオの使徒B・デ・ラス・カサス(1474年頃—1566年)のようにドミニコ会士やイエズス会士の中にもこれに反対する人々はいたし,パウルス3世やピウス5世らも奴隷貿易を非難した.宗教改革者カルヴァン,18世紀の聖書注解王と言われたJ・ベンゲル(1687—1752年)は奴隷制度に否定的見解を述べた.18世紀以後,奴隷制度廃止運動が盛んになった.イギリスではT・クラークスンやW・ウィルバフォースの努力で1833年に奴隷解放法が成立した.ジョン・ウェスリも奴隷制度が本質的に悪であると論じてウィルバフォースの奴隷制度廃止運動を支援した.アメリカでは,クエーカー教徒ウィリアム・ペンがペンシルベニアに奴隷制度のない社会をつくった.南北戦争の頃には奴隷制度の是非を巡って神学論争が展開された.C・ホッジ(1797—1878年)のように奴隷制度は一定の条件下で認められるとする有力な神学者もいた.創世9:25を聖書における奴隷制度の認容箇所と見なし,積極的に奴隷制度を弁護する者もいた.長老教会では,二転三転した後,奴隷制度はキリスト教の精神と原理と全く相いれないものであるとの決議を1864年に採択した.その前年の1863年にA・リンカンが奴隷解放宣言を公布し,1865年に奴隷制度は廃止された.しかし,その後も黒人差別制度として残存し,奴隷制度廃止運動はM・キング牧師による人種差別撤廃運動へと形を変えて展開していった.なお,日本で16世紀末に,キリシタンによる世界最初の奴隷解放運動と言うべき運動が行われたことは注目に値する.→解放の神学.<復>〔参考文献〕P・シュトゥールマッハー『ピレモンへの手紙』(EKK新約聖書注解)教文館,1982;“Slavery,”The Oxford Dictionary of the Christian Church (revised), Oxford, 1974.(熊谷 徹)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社