《5分で分かる》非神話化論とは?

非神話化論とは?

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非神話化論…

[ドイツ語]Entmythologisierung.ドイツの聖書学者ルードルフ・ブルトマンが,1941年になされた講演(「新約聖書と神話論:新約聖書的宣教の非神話化の問題」)において提唱した新約聖書解釈の方法論.方法論としては,1925年から28年にかけて発表された初期のブルトマンの著作『イエス』や「新約聖書の神学的釈義の問題」,「新約学に対する弁証法神学の意義」等の論文にすでに表明されているが,世界的な注目を受けるようになったのは,この講演以降である.<復> ブルトマンによれば,新約聖書の記事は当時のユダヤ的黙示思想やグノーシスの救済神話に見られる神話的諸表象によって支配されており,科学的な精神を持つ20世紀の現代人には受け入れがたいものである.例えば,世界は天界・地界・下界の三層構造を持ち,地界は天使と悪魔の諸霊力の働く場であるとする世界観であるとか,太陽や月が光を失い世の終りが来るという終末論や,あるいはキリストの先在性・受肉・処女降誕・十字架上の贖罪・復活・昇天・再臨というキリスト論的な記述がすべて神話的な表象と理解される.ブルトマンにとって信仰とは,これらの神話的諸表象を知性の犠牲のもとに受け入れることではない.これら福音の使信の宣教にとってつまずきとなるものを,いかに取り除き,現代人に新約聖書の使信の持つ本質的意味を伝えるかというのが,非神話化論の根底に流れる問題意識である.従って,非神話化論は単なる聖書解釈の方法論にとどまるものではない.<復> 神話的諸表象の持つつまずきを取り除くと上述したが,それは単に神話的諸表象を無価値なものとして聖書のテキストから切り捨てるという意味ではない.[ドイツ語]Entmythologisierungという単語から受ける印象はそのような誤解を生みやすいが,ブルトマンの意図したことは,神話的な諸表象の現代的な再解釈である.その意味で非神話化論は,神話的表象を無視することに終始した19世紀の自由主義神学とも異なる.ブルトマンにとって,神話とは単なる古代人の無意味な空想なのではなく,実存理解の表現であるので,再解釈を施すことによって意味を見出し得るものなのである.それは外的世界の科学的な記述ではないので,宇宙論的には間違っているとしても,実存論的には正しいと解されている.非神話化論とは,そのような神話の中に表現された実存理解を取り出す作業である.<復> そこで,ブルトマンは新約聖書の神話的諸表象を非神話化するために,マールブルク大学時代の同僚,M・ハイデガーの初期実存主義哲学を援用した.非神話化の作業は,換言すれば,新約聖書の神話的表象によって表現された実存理解をハイデガーの実存主義哲学によって表現し直す作業と言うことができる.それゆえに,非神話化論は実存論的解釈とも呼ばれる.<復> 以上のような試みに対して,どのような評価が下されるであろうか.ブルトマンの持つ現代人に対する宣教的な関心ということはさておき,批判的な評価としては,以下のような点が一般に知られている.まず,非神話化論は結局のところキリスト教信仰を非歴史的な真理の表明におとしめるのではないかという点である.伝統的なキリスト教信仰は,神の歴史における救済を信じてきたし,キリストの一回的な贖罪のみわざを告白してきた.しかし,ブルトマンの非神話化の作業を通して,これらの歴史的客観的要素はすべて神話的な表象として主観的な真理に置き換えられてしまったために,新約聖書の使信はその歴史的な根拠を欠いてしまったというのである.さらにまた,エルンスト・ケーゼマンやJ・クリスティアン・ビーカーらによって,黙示思想の非神話化はパウロ神学の本質を見失わせるものであるという批判もなされている.また,神話的表象の解釈に実存主義哲学を用いるところから,ブルトマンの言うキリスト教の使信とは,つまるところ実存主義哲学の主張ではないかという疑念がある.この点は,逆の形でカール・ヤスパースなどの実存主義哲学者からも批判されている.すなわち,非神話化の作業を進めて,キリスト御自身さえも非神話化すべきであるという主張である.ブルトマン自身によれば,神からの語りかけを通して人間は決断と自由に導かれるのであり,その神のことばをもたらすキリストの役割の重要さを強調する点において,単なる実存主義哲学の主張と自分とを区別するのである.最後に,ブルトマンの神話的概念自体に対しても批判がなされている.しかし,以上のような批判にもかかわらず,非神話化論は依然として大きな問題を投げかけている.→ブルトマン,聖書解釈学,新解釈学,実存主義,ハイデガー.<復>〔参考文献〕R・ブルトマン『新約聖書と神話論』新教出版社,1980年;H・リダボス「ブルトマンの神学」『現代神学入門』pp.87—176,聖書図書刊行会,1966 ; Dunn, J. D. G., “Demythologizing—The Problem of Myth in the New Testament,” Marshall, I. H. (ed.), New Testament Interpretation, pp. 285—307, Paternoster, 1979.(山下正雄)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社