《5分で分かる》殉教,殉教者とは?

殉教,殉教者とは?

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殉教,殉教者…

信仰のゆえに迫害を受けて殺害されること.「証人」を意味するギリシヤ語マルテュスから来た語で,キリスト教では,自分のいのちと引き換えにキリストをあかしした人を殉教者と言う.<復> マルテュスに相当する旧約聖書の語はヘブル語エードゥで,イスラエルの民は神の証人であるが(イザヤ43:10),特別な意味で預言者は神の証人である(エレミヤ1:5).迫害によりある預言者たちは殺され(Ⅰ列王18:4),伝承は預言者イザヤが殉教者になったと伝える(参照Ⅱ列王21:17).中間時代の第2マカベア書には多くの殉教物語が記されており,その原著者とされるヤソンは殉教者物語の父とも呼ばれる.<復> 新約聖書では,教会は主イエスの証人であるが(使徒1:8),特別の意味で使徒は主の証人である(1:22).使徒ヤコブは12使徒中最初の殉教者となり(12:2),伝承では他の使徒たちもその大半が殉教した.新約中最初の殉教者はステパノで(7:60,22:20),彼の殉教後,主の兄弟ヤコブを含む多くの主の証人が殉教した(ヘブル11:37,黙示録20:4).殉教者アンテパスは主の「忠実な証人」と呼ばれている(黙示録2:13).<復> 初代キリスト教の歴史は殉教の歴史である.ローマ帝国による迫害は多くの殉教者を生み出した.ローマのカタコンベには「拷問されて殉教」「キリストのためにその血を注いだ」等の殉教者の墓誌がある.皇帝ネロによる迫害でペテロとパウロが殉教し,ドミティアーヌス帝の迫害で使徒ヨハネは流刑になり,多くのキリスト者が殉教した.次のトラーヤーヌス帝の迫害で殉教したのがアンテオケのイグナティオスである.彼は殉教者となることは「真の弟子」となることだと述べている.ピウス帝とアウレーリウス帝の迫害ではヨハネの弟子ポリュカルポスと殉教者ユスティノスが殉教した.『ポリュカルポスの殉教録』は,殉教者は「主の弟子,主に倣う者,主に対して比類のない献身をした」者であるとして,殉教者を理想的なキリスト者と見なした.215年頃殉教したアレキサンドリアのクレーメンスは,殉教は教会のために飲む苦しみの杯であり愛徳の完成であると言った.ウァレリアーヌス帝による迫害で殉教したキュプリアーヌスは,殉教とは「キリストを告白するために血を流す」ことであり,水の洗礼以上に価値ある「血の洗礼」であると言った.奇しくも殉教を免れたテルトゥリアーヌスは迫害者たちに「我々は刈り取られれば刈り取られるだけ益々多く増殖する.キリスト者の血は種子である」と述べて,迫害の愚と無益さを訴えた.<復> やがて,殉教者は特別の意味でキリストの証人であったとして崇敬されるようになった.殉教者の遺物は聖遺物として尊ばれ,殉教者の墓は聖なる地とされ,しばしばそこに教会が建てられ,多くの殉教者物語が作られた.新プラトン主義の影響もあって,殉教者は特別の聖人としてあがめられ,地上のキリスト者のための仲保者としての地位を付与された.3世紀後半以降,殉教者崇拝は急速に広まった.すでにテルトゥリアーヌスやキュプリアーヌスには殉教の功績思想が見られ,教会は,殉教者の功績は教会の宝物であると言い,殉教者の血は罪を洗い清めるとする贖宥思想を生み出した.が,アウグスティーヌスは「殉教者の血が罪の赦しの為に流されることは決してない」と述べた.殉教者の書とも言われるヨハネの黙示録が殉教者に賛辞を呈しているのは確かでも,聖書はそれ以上の特権や力を殉教者に与えてはいない.<復> 中世カトリック教会は,ワルドー派(12世紀)やフス派(15世紀)を迫害して多くの殉教者を出した.宗教改革時代にも,カルヴァン派のユグノー教徒を初め多くの殉教者を出したが,改革者カルヴァンは,弾圧によって信仰が脅かされる時にキリスト者がとる道は,反抗ではなく殉教か亡命であるとの立場をとった.これは迫害と殉教というテーマについて考える時,キリスト者の抵抗権の問題とかかわる今日的な問題だと言えよう.<復> 日本における最初の殉教は,1597年の26聖人の殉教で,その中には12歳のルドビコ茨木少年がいた.その後も徳川幕府による激しいキリシタン弾圧によって多くの信者の血が流された.第2次大戦中も日本軍国主義権力によって獄に捕われ拷問を受けて殉教したキリスト者が出た.また,この時,日本は,アジア人とりわけ当時の朝鮮人キリスト者に対して迫害を行い,多くの人々を殉教へ追いやっている.<復> 殉教は敗北ではなく,悪魔とその力に対する勝利であり,その勝利はキリストの死に基づくものである(黙示録12:11).(→コラム「殉教者の最期のことば」),→迫害,カタコンベ.<復>〔参考文献〕清水紘一『キリシタン禁制史』教育社,1985;弓削達『ローマ皇帝礼拝とキリスト教徒迫害』日本基督教団出版局,1984;Reid, W. S., “Martyr,” “Persecution,” The Zondervan Pictorial Encyclopedia of the Bible, Zondervan, 1979.(熊谷 徹)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社