スコットランド学派とは?
スコットランド学派…
別名,常識学派.[英語]Scottish School of Philosophy/Common Sense.<復> 1.18世紀後半から19世紀にかけてT・リード(1710—96年)を創始者としてスコットランドのアバディーン哲学協会を中心に発展したイギリス啓蒙哲学の一学派である.D・ヒュームの哲学が提起した懐疑主義を克服するため,人間に普遍的な共通の意識としての「常識」(Common Sense)を「第一原理」(First Principles)と見なし,これを認識の基礎また真理の判定規準とする.常識哲学とも呼ばれる.すなわち,ヒュームがすべての観念は印象から生ずるとし,実体はもちろん,経験科学の基礎である因果律も主観的観念にすぎないとしたことに対し,知性は直観的,自然的知覚により外的実体を認識し得るとした.これらの原初の,自然的判断は証明不要の自明の理であり,外界の直観的知覚,因果律,道徳上の責任などを含み,人類共通の常識を構成する.リードはその主著An Inquiry into the Human Mind(1764)において,人間の知識を木にたとえ,「(直観的,自然的)知覚は根,常識は幹,科学は枝々」とした.このように懐疑主義から,科学的認識のみならず,道徳や宗教的信念をも守ろうとする保守主義であったため,その思想は広く大学や教会で受容されるところとなり,フランスやドイツの啓蒙思想や19世紀のアメリカの教会や大学に大きな影響を与えた.<復> 2.創始者リードはアバディーンのマーシャル・カレッジで学び,スコットランド教会の牧師(1737—51年),母校の教授(1751—64年),グラスゴー大学教授(1764—96年)を歴任し,大学では道徳哲学,論理学,自然哲学,数学を教え,アバディーン哲学協会を創設した.この間,R・デカルト,J・ロック,G・バークリ,ヒュームの哲学と取り組み,それらの哲学に共通する観念論的思考を指摘し,それを誤謬と見なした.すなわち,知性は実体を直接には認識できず,ただその実体についての観念の仲介ある時のみ認識可能と彼らが主張したことは,哲学,倫理,そして宗教的認識を不可能にすると考えたのである.これに対し,リードは常識を理性の一機能,しかも「第一原理による判断」と見なし,それを偶然的真理と必然的真理の二種を判断するものとした.偶然的真理とは,人間の意志や機能により影響され得る可変的なもので,無意識状態での人間心理,意識状態における実体を認識すること,記憶の確かさ,個人としての自己同一性,自由意志,証言や意見に対する評価,自然界の統一性に関する確信などである.一方,必然的真理は不可変的で,それに反することが不可能なものであり,文法・論理・数学における公理,美意識や倫理的判断における自明の理,因果律,意識の主体としての自己の知性と身体の存在などである.<復> 3.リードの思想は広い支持を得たのであるが,中でも著名な継承者はエディンバラ大学教授のD・ステュアート(1753—1828年)とW・ハミルトン(1788—1856年)であった.ステュアートは,リードの「常識」や「第一原理」という表現が通俗的見解や表面的理解に訴えるものと誤解されたり,科学的な正確さを欠くものと見なされたりすることを危惧し,それらを「確信における基本法則」(Fundamental Law of Human Belief)や「人間悟性の第一要因」(Primary Elements of Human Reason)と呼び,心理分析に実証主義を導入した.ステュアートによれば,人間は本来的に備わっている原初的,基本法則により,不可抗的に外界や人間の存在,自然法則の統一性,個人としての自己同一性などを確信させられるのである.ハミルトンは,スコットランド学派とカント哲学との結合をはかり,有限的で制約され得る(Conditional)ものについては認識の対象として実証主義を,また無制約的な(Unconditional)ものには信仰・確信の対象として観念主義を保とうとするが,両者の体系的結合は見られず,実証主義の立場からJ・S・ミルなどの攻撃を受けた.<復> 4.英国以外における常識学派の影響の中でも注目に値するのは,19世紀米国における福音主義の牙城プリンストン神学校を中心として展開されたプリンストン神学であろう.常識哲学は18世紀末のプリンストン大学学長J・ウィザースプーン(1768—94年在職)と19世紀後半の学長J・マコッシュ(1868—88年在職)により導入され,1812年創立を見た神学校においてもプリンストン神学を代表するC・ホッジ(1797—1878年)やB・B・ウォーフィールド(1851—1921年)などにより,キリスト教信仰と正統主義神学の弁証のため利用された.<復>〔参考文献〕Grave, S. A., The Scottish Philosophy of Common Sense, Oxford, 1960 ; Noll, M. A., The Princeton Theology, Baker, 1983.(丸山忠孝)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社