救世軍とは?
救世軍…
[英語]The Salvation Army.「私は救霊の熱情をもって種痘された」と言ったウィリアム・ブースと妻キャサリンによって創立されたプロテスタントの一教派.その活動は1865年東ロンドンでの路傍伝道に始まり,1877年軍隊組織をとって「救世軍」と呼ばれるようになった.<復> 当時東ロンドンに住む住民の3分の2以上は教会とは無関係で,貧しく無学,その道徳的退廃は目をおおうばかりであったが,ブースはいかにして福音をもって大衆に到達すべきかを救世軍の使命とした.救霊と社会事業を両輪とする働きを徹底したのがその特色であり,また貧しい人の単なる回心ではなく,より高い宗教すなわち聖霊の恵みによる心と生活の聖潔を高調した.彼は最初から屋内屋外を問わず「恵の座」を用いた.これは「悔改めの座」とも呼ばれ,今日救世軍のすべての働きの場に備えられ,また聖潔を求める人々のために絶えず開かれている.<復> 救世軍の進路を開くかぎとなったものに,ブースの著「最暗黒の英国とその出路」がある.事業計画の7箇条をこの書物から挙げると,(1)人生の戦いに失敗した理由が品性と行為にある場合には,その人物を改変させよ,(2)境遇が窮状の原因であり,それが彼の力に余るものであれば,その境遇を改変させよ,(3)救治策はその対応する害悪に匹敵する規模であること,(4)計画は大仕掛けでかつ永続的であること,(5)ただちに実行,(6)慈善が一方で人を堕落させることがあってはならない,(7)共同社会の一階層を助ける反面,他の階層の利益を損なわないこと,である.<復> この書物の感化は世界に及び,植村正久は「六合雑誌」に「ブースの廃人利用策」という論説を書き,また留岡幸助・生江孝之等に大きな影響を与えたことはもとより,石井十次を通してこの書に触れた山室軍平にとっては,彼が後年日本救世軍に献身し,育ての親となるきっかけともなった.<復> 救世軍はバプテスマと聖餐式を行わない.これは二つの礼典の意味を否定するものではなく,敬虔な生活と実践をもたらすべき罪の悔い改めと信仰による救いの経験は,ただ神のあわれみと恵みの賜物であり,儀式や礼典によらないと考えるゆえである.<復> 1880年に米国で活動を開始したのが海外伝播の最初で,ヨーロッパ,オーストラリア,カナダ,インドに広まっていった.日本で伝道を開始したのは1895(明治28)年である.1989年現在90箇国で活動し,ロンドンに万国本営があり,最高会議で選出された1人の大将が全世界の救世軍を統率する万国組織を持つ.現大将は13代目のエヴァ・バローズ女史である.各国語で機関紙「ときのこえ」(The War Cry)を発行し,また海外教化のため克己週間募金を行い,発展途上国の伝道福祉に用いるほか,海外との人事の交流があり,英国には士官のための万国カレッジがある.<復> 救世軍は正統的福音的信仰を継承し,神学的には単純であるが,その生活の規律と奉仕の標準は厳しく,信者は兵士の誓約書に署名捺印の上,救世軍旗の下で入隊式を挙げる.救われた者をただちに救いの戦いに加わらせることが救世軍における牧会の重要な要素とされ,救世軍人はSalvationの“S”のマークのついた制服の着用が望まれる.政治問題には関係せず,また救世軍兵士は厳正禁酒禁煙を守り,その面では世界大の禁酒禁煙団体でもある.<復> 日本には1895年ライト大佐夫妻等11名の海外士によって創設されたが,「救世軍」という呼称はそれ以前に石井十次の東洋救世軍や島貫兵六夫等の東北救世軍活動にも用いられており,その訳者は当時新聞記者であった尾崎行雄である.<復> 日本の救世軍は山室軍平の加入により急速に働きを伸し,ブースの掲げた「救霊と社会事業の統合」に加え,社会覚醒運動を展開した.年末の社会鍋募金のほか,その著しい例は廃娼運動に見られる.1903年全国に娼妓の自由廃業運動を宣言した後は,各所に遊廓側の暴徒による救世軍襲撃事件が起きた.また,1909(明治42)年,時の政界を揺り動かした日糖疑獄事件に連座した愛知県出身の村松愛蔵代議士が獄中で回心し,出所後夫妻で献身して生涯を不幸な女性救済に尽したことは,日本の精神宗教史に名を残すものである.<復> 日本の救世軍は1940(昭和15)年政府により万国組織から脱退させられ,救世団を経て後に日本基督教団に加盟したが,1946年再建され,ただちに復興に取り組んだ.現在全国に小隊(教会)55のほか,保育所・婦人保護施設・児童養護施設・酒害者救護施設・同リハビリテーション施設・労務者宿泊所・特別養護老人ホーム・女子学生ホステル等21施設を経営し,また全人的医療を目的とする二つの病院(合計409床)と癌末期患者のターミナルケアを行うホスピス(30床)を持っている.→ブース,山室軍平.(朝野 洋)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社