キリスト教とは?
キリスト教…
1.名称.<復> 用語自体は,新約聖書には使われていない.最初に使用したのは,使徒教父のアンテオケのイグナティオス(35年頃—107/17年)で,「彼(キリスト)の弟子となったからには,キリスト教の原則に従って生きることを学ぼう」と述べている(「マグネシア人への手紙」10章).<復> 2.本質.<復> キリスト教は,イエス・キリストが旧約の預言の成就として,この世界に来臨された救世主である,との歴史的事実に基づいている.その本質は,キリスト御自身であり,その発端も中心も究極の目標もキリストにある.キリスト教は,真の神であり真の人間であるイエス・キリストが神の究極的な啓示であり(ヘブル1:2,3),神と人との間の唯一の仲介者であり(Ⅰテモテ2:5),十字架上の贖いの死によって神と罪を犯した人間との間に和解をもたらした方であり(Ⅱコリント5:18),永遠のいのちを保証するため3日目によみがえられ,今も生きておられる方であることを,聖書により福音として宣言する(参照Ⅰコリント15:1‐4).イエス・キリストの生涯と死と復活により,信じる者の罪は赦され,きよめられ,死と悪とに勝利し,新しいいのちに生きることができる者とされる.キリスト教は,真の知恵を指示するが,人間の哲学に基づいたものではなく,また神との人格的な関係を尊重するが,単なる内面的,主観的な経験でもない.<復> 3.独自性.<復> 天地万物の造り主であり,生ける真の唯一の父なる神御自身が,御子キリストにおいて歴史の中に特別に介入して救いのわざをされるところに,キリスト教の独自性がある.この点に関しては,他宗教で匹敵できるものはない.「この方以外には,だれによっても救いはありません.世界中でこの御名のほかには,私たちが救われるべき名としては,どのような名も,人間に与えられていないからです」(使徒4:12).<復> 4.宣教活動.<復> キリストの福音は,罪とその結果としてもたらされた死や悪や苦難や病気などの様々な問題からの救済を必要とする人種・国籍・文化を超えた全世界のためのものである(マタイ28:19,20).それゆえ,キリスト教はその発端から,優越感からではなく愛をもって宣教活動の拡大に携わってきた.使徒時代には福音の宣教は,ローマ帝国全体に及び,さらに英国やエジプトやエチオピアにも到達し,またインドにもなされていった.<復> 5世紀末には,キリスト教は西方教会と東方正教会に分裂したとはいえ,中世には多くの国々がその影響下に置かれた.航海術の発達に伴い,世界的な規模での宣教活動が始まり,カトリック教会は,16世紀の終り頃には,アメリカ大陸やアジアの諸国及びアフリカの一部にまでわざを進めていった.宗教改革の結果誕生したプロテスタント教会は,18,19世紀には,信仰覚醒運動や大覚醒の影響を受けて,その働きを覚醒させられ,近代から現代にかけてヨーロッパ諸国及びアメリカの国外宣教団体の活躍とも相まって福音教化をさらに進展させていった.特に注目されるのは,第2次世界大戦以後,第三世界と言われるアフリカ,アジア,ラテン・アメリカ大陸の諸国において,例外があるとはいえキリスト教が目覚しい成長を見せていることである.<復> 5.神学.<復> 福音の宣教は,変化する文化的状況の中でゆだねられたがゆえに,特別な神学的作業を必要とする.神学は聖書の正しい解釈と翻訳が求められるゆえに聖書的であることを,各時代の諸思想との関係から教理的であることを,福音の個人と教会への適用のために実践的であることをそれぞれ要求され,過去・現在にわたり語られ行われたことへの評価のために歴史的な性格を持たざるを得ない.神学は,キリスト教の宣教に仕える時にのみ真に役立つのである.<復> 6.貢献.<復> キリスト教は宗教的な貢献のほかに,特に西欧社会では,知的,芸術的,経済的,政治的及び社会的分野で歴史を形成する有力な要素となった.現代では,教育,医療,福祉などの領域でその影響感化の多少なりとも及んでいない地域を見付けることは,いわゆる非キリスト教国でも難しい.キリスト教は,統計的に見て,最も世界的に拡大していったと言えるが,今日では人口の爆発的な増加や世俗主義や異端などへの新たな対応を迫られている.<復>〔参考文献〕渡辺正雄『科学者とキリスト教』講談社,1987;C・S・ルイス『キリスト教の精髄』新教出版社,1977;Bromiley, G. W.(gen. ed.), The International Standard Bible Encyclopedia(fully revised), Eerdmans, 1979.(伊藤淑美)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社