《5分で分かる》実存主義とは?

実存主義とは?

実存主義…

[ドイツ語]Existentialismus.1.実存的発想は近代科学の本来的外性にその根がある.近代科学は宗教改革と対比される.世俗の学と神学を総合する13世紀スコラ学の体系が破綻してこの二つに分極したのである.神学より解放され個性を獲得した近代的人間は,自らの存在について一切の責任を負い,知識は力であることを確信し,合理的にして客観的な「計算」と「技術」によって自らの前に横たわる自然を征服しようとした.これが近代の科学の原始形態である.確かに人間が作り出し,人間がそれによって世界に働きかけたのであり,スコラ的ならぬ「新しき」,哲学ならぬ「科学」はスコラ哲学にかわる新しい世代の新しい学的立場として洋々たる前途を約束されていると見えた.しかしながら,個性的人間が神を離れて自らの前に見出した自然は,あからさまに人間と向かい合い人間に対して立つ外的対象であることは近代科学における宿命的事実である.それは本性的に外的立場でなければならない.一切をただ外的にとらえる学,いや,ただ外的にしかとらえることのできない学であるところに近代科学の根本性格がある.自然科学は言うまでもなく,社会科学にせよ,歴史学にせよ,また心理学にせよ,あるいは弁証法的唯物論として,マルクス主義哲学に組織される場合にせよ,科学の本来的外性は,すべて,これらの諸領域を貫いてやまない.もとは確かに人間が科学を作ったのであり,人間が科学的認識の主体のはずであるが,今はかえって,科学的認識の外性が人間に跳ね返り,主客転倒して人間を疎外するに至り,人間は科学の外性に疎外されて人間の人間であるゆえんの人間性,その内なる「自己」を見失う破目に追い詰められることになった.「実存」は「現実的存在」を縮めた造語,ラテン語“existere”に由来し,語義に種々詮議もあるが,内容上,自己喪失の危機に立つ現代の疎外された人間を指す.もとより近代人は無策であったわけではない.早く認識論を構想し,発展する自然科学を,その「事実を認めて権利を問う」認識批判においてとらえていた.認識論が健在である限り近代もまた健在であるだろう.しかし,認識論をもってしてはもはや科学の外性を制御できず,実存主義が台頭してきた.現代における認識論の貧困と実存主義の盛行は表裏をなす事実である.<復> 2.実存主義の始まりは19世紀の半ば,デンマークのキェルケゴールに求められる.あるいは,これにドイツのニーチェを加えることも許されよう.キェルケゴールは実存に美的,倫理的,宗教的の三段階を区別した.宗教的段階が最高.実存の現実を「不安」と「絶望」においてとらえ,しかし信仰により質的に飛躍して神の前に自己を確立しなければならないとする.<復> 3.20世紀に入り,その20年代以降,新カント学派が漸次衰退変質してゆく時,ドイツにハイデガー,ヤスパースが出て,実存主義は大きな展開を遂げる.ハイデガーの『存在と時間』第1部,ヤスパースの『哲学』全3巻はこの時期の代表的著作.前者は「現存在」としての人間の即事象的分析に,後者は実存の哲学体系の樹立に,それぞれ特色を持つ.40年代には実存主義はフランスにも波及,サルトルが出た.『存在と無』の著がある.彼は無神論を唱えるが,これはすでにニーチェにおいて見られるもの,異とするに足りない.<復> 4.実存主義は現代では神学の領域にも浸透してきた.近代科学の外性による人間疎外に対する抵抗である実存主義は,ここでは,実定的キリスト教の外性による人間疎外に抵抗していると言えよう.外形化,形式化,形骸化,固体化された現代の教会は疎外されて自己喪失の危機に立たされている人間を決して救わない.放置している.この弊はことにプロテスタンティズムに大きい.それはいったん宗教改革において外内の厳しい対立を知ったからであろう.既成キリスト教に対する激越な批判はとうにキェルケゴール,ニーチェに見出されるが,実存主義神学は,ハイデガーの影響の下に,50年代以後,ブルトマン,ゴーガルテンから始まった.この二人がかつては「弁証法的神学」の名で呼ばれた一団に属していたことは注目される.<復> 5.実存主義は,またフランクルによって,精神治療法の一つとして「実存分析」という形で,精神医学の分野にも導入されている.これは,ヤスパースが哲学に転ずる以前,精神科医の経歴を持っていることを思い起せば,納得のいくことであろう.<復>〔参考文献〕九鬼周造『人間と実存』岩波書店,1939;鬼頭英一『ハイデッガーの存在学』東洋出版,再版1948;鈴木三郎『ヤスパースの実存哲学』春秋社,改訂増補版1950;野呂芳男『実存論的神学』創文社,1964.(大村晴雄)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社