《5分で分かる》汎神論とは?

汎神論とは?

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汎神論…

[英語]pantheism.神と世界を全面的に,あるいは部分的に同一視する思想を指す.汎神論は,英国の理神論者ジョン・トーランド(1670—1722年)の命名によるとされる.神即自然という神と世界を完全に同一視する汎神論のほかに,神と世界とを部分的に同一視する汎神論も存在するが,この汎神論は,神と世界との関係をどのようにとらえるかによって,宗教的にも,哲学的にも様々の形態がある.この汎神論は,強調点を神に置き,世界を神の一部分と見て,世界を神の中に吸収する立場と,世界に重点を置き,世界を唯一の実在とし,神を世界の一部分と見て,神を世界の中に吸収する立場とに分類される.<復> 神と世界とを峻別し,世界に対する神の超越性を主張するキリスト教が支配的になった西洋世界においても,キリスト教の神観に敵対する汎神論の多彩な形態が認められる.神の超越性を否定する神観を提唱するきっかけは種々様々である.深い宗教体験の解釈から,神と人間との根源的同質性を導き出し,そのような根本前提から,神と人間と世界の関係を体系化しようとして,神の超越性を否定することもあるし,無限で絶対的な神の観念は神から独立した世界の存在を排除するという論理的整合性を貫徹することによって,唯一の絶対的実在としての神の中に世界を取り込もうとする場合もある.あるいは世界の悪の存在と世界の創造者なる神の善性とは矛盾しないのかという神義論的問題を回避しようとして,善悪のような概念上の二元的対立は,神の中には存在しない仮象と見なすために,仮象の世界を唯一の実在である神に融合させることによっても生れる.<復> 新プラトン主義者プローティーノス(205年頃—270年)の汎神論はキリスト教神学に大きな影響を与えた.彼はすべての現実的存在の根源として超越的一者を想定し,光源から光が放射するように,この一者からあらゆる存在が必然的に流出するとした.この一者は流出する世界の最下端に位置する物質にまで内在している.ニュッサのグレゴリオス,アンブロシウス,アウグスティーヌス,ボエーティウスのような教会教父は,汎神論的な神観を受容することはなかったが,プローティーノス,ポルフェリオス,イアンブリコスなどの新プラトン主義の理念を吸収して,キリスト教神学を展開した.ルネサンス期に,ジョルダーノ・ブルーノ(1548—1600年)は,世界の無限性を主張し,神を世界の生命的原理と見なした.彼によれば,神は世界の諸事物の包括者である限りにおいて,諸事物を超越しているが,世界の諸事物の展開者と解される限りにおいて,諸事物と本質的に一つである.スピノーザ(1632—77年)は,近代を代表する汎神論者である.彼は神を唯一の絶対的実在とし,世界を構成している精神と物体は,人間によって認識され得る思考と延長という神の属性であると考えた.ヘーゲル(1770—1831年)の哲学も,絶対者が世界の不断の運動・変化・発展の過程の中で必然的に自己を展開すると主張する点で,汎神論的である.<復> 汎神論は多くの点でキリスト教の教説と相反する.神の超越性が否定されれば,創造者と被造世界との区別は解消され,世界は初めも終りもない永遠的なものになる.神と世界が一つに融合されれば,神の人格性が失われ,世界における真偽,善悪などの二元的対立も仮象になる.神との合一を主張する汎神論の宗教的形態においては,神について言い表したり,理論的考察をしたりすることは一切不可能とされ,神のことばとしての聖書の権威は否定される.神と世界を峻別することを拒否するならば,聖書的な救いや恵みの観念が否定される.人間も根源において神的存在と一つと見なされ,その本性的能力によって神的原理の認識に到達可能とされるからである.<復> 汎神論は無神論と超越神論の中間的形態であると言われるが,根底において,神とその恵みに依存しない人間の生き方を肯定しており,偽装された実践的無神論と呼ばれてしかるべきものである.神の存在とその唯一性を主張しながら,世界の創造者,保持者としての人格神を否定するならば,汎神論的形態によってしか神は把握されないであろう.現代においても,汎神論は多様な形態において存在し得る可能性を持っている.→有神論,無神論,理神論,神論.(多井一雄)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

新キリスト教辞典
1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社