ルツとは?
ルツとは…
士師時代は暗黒だったと印象されやすい。それは一面事実ではあるが、明るい話題もある。その最たるものが「ルツ記」のヒロイン、名花ルツである。
彼女はイエスの系図にも登場する。『新約聖書』巻頭のこの系図には、ほかに3人の女性がみられるが、いずれも暗い影をともなう。日陰的な部分のある生涯を歩んだ。ルツだけはその影がない。不幸な経験はしたが……。
世にも美しい論争
彼女はイスラエルの東に隣接するモアブ国の生まれ。ルツが幼い頃に不作が続き、ヨルダン川西岸では飢饉になった。飢えた人々は食を求めて移住する。モアブに来た人々のなかにエリメレク一家があった。彼らはユダのベツレヘムの農民で、そこは後年キリスト誕生の地として世界的に有名になる町である。
妻の名はナオミ、2人の息子の名はマフロンとキルヨン。一家のモアブ滞在は約10年間だったが、その間に息子たちは結婚した。その嫁の一人がルツだった。ところがエリメレクは死に、後を追うように2人の息子も死んだ。こうして老若3寡婦が残された。このあたりは悲劇の連続である。
飢饉が終わってユダ地方も食料が豊かになったと聞き、ナオミは望郷の念に駆られ、帰国を決意する。ふつうなら2人の嫁はここで姑に別離を告げるはずだが、老いた姑がひとり淋しく住むことを考えて、最後まで慰め仕えようと同行する。最初、ホロリとしてその好意を受けたナオミは、2人にとってユダの地がまったくの異国であり、今後の苦労を思うと嫁たちの好意に甘えるべきでない、と気づいた。
旅の途中で姑と嫁の間に、世にも美しい論争が起こる。生まれ故郷で再婚せよ、と2人を口説く姑と、それを拒む嫁たち。しかしついに、ルツの相嫁は姑の愛の説得に負けてモアブに引き返すが、ルツは頑として聞かない。それでナオミはルツを連れて故郷への旅を続ける。
聖書のエピソード
ベツレヘムに着いた2人は、貧しい暮らしを余儀なくされ、ルツは落ち穂拾いという最低の仕事で生計を立てる。ところが、そのためにたまたま訪れた畑で、持ち主のボアズと運命的な出会いをする。ボアズはナオミの親戚であった。ルツの姑孝行はアッという間に町中の評判になっていた。
ボアズはルツに好意を抱き、ルツはナオミに教えられてボアズに求婚の手続きを開始する。彼はけっして若くはなかったので、最初は慌て、当惑するが、ルツの真剣さと誠実さに打たれ、こうして2人は正規の手続きを経て結婚する。
ナオミの労苦とルツの献身的な愛に対して、主はすばらしい酬いを賜った。またボアズは実にやさしく、かつしっかり者の妻を得たということで、この物語は当座だけでなく語り伝えられた。この2人の間に生まれた子の、そのまた子孫としてダビデ王が現れた結果、このエピソードは記録されて王国の書庫に納まり、やがて聖書の一書となった。
(出典:千代崎秀雄『聖書人物伝 これだけは知っておきたい127人』フォレストブックス, 2013, 48-49p)
