のろいとは?
のろい…
1.聖書の周辺世界に見るのろい.<復> 聖書の周辺世界では,のろいは一般的な現象で,特にバビロンの宗教に根付いていた.のろいのことばは,それが向けられた相手を破滅させる破壊的実在のように受け止められていた.誰でものろうことができたが,バラムの例に見るように(民数22:5‐24:25),特別な能力を持つとされた者が代行したり(同22:6),祭儀における祭司によるものだけに限る傾向を持つ側面もあった.のろいの作用は,あらゆる災いとして現れると考えられた(参照申命28:15‐68).墓碑や王の碑文を変えたり破壊したりする者にのろいのことばを浴びせたり,王の命令をのろいのことばで確証したりする(エズラ6:11,12)例が見られるが,法的な理解としては,積極的な意味を持ち,宣誓の確実性を保証する働きをした.注目を引くのは,ヒッタイトの宗主権条約の祝福とのろいのことばである(『世界歴史』古代Ⅰ,pp.190—1,370—1,岩波書店).<復> 2.聖書に見るのろい.<復> 神が創造された世界は,本来極めて良い,祝福に満ちたものであった(創世1:31).しかし,本来の神と人との関係がゆがみ,ずれ,罪が入った時,神ののろいの対象となるものや関係が生じた(創世3:14,17,4:11,9:25等).イスラエルの民が主なる神の宗主権を認める中で,のろいが反映されていると同時に(申命27:15‐26,28:15‐19,30‐36),イスラエルの部族間の関係でものろいに言及される場合がある(士師21:16‐23).過去や現在の行為やことばの真実性を強調したり(民数5:19‐22,ヨブ31:7,8等),将来についての約束を確認したりするために(詩篇137:5,6),のろいに言及する場合がある.また応報や刑罰の規則として,のろいの理由とその結果を明示する.例えば,殺人に対して(創世4:11,12等)や,性にかかわりのある行為に対して(創世9:25‐27)などである.その他,詩的な表現(ヨブ3:3‐10,エレミヤ20:14‐18)や,いわゆるのろいの詩篇(109篇等)も注意を引く.<復> 3.神との契約関係におけるのろい.<復> 聖書の中心主題である,神と人との契約関係,その約束は,祝福とのろい,いのちと死の対比で提示されている.例えば,申命28:15には,「もし,あなたが,あなたの神,主の御声に聞き従わず,私が,きょう,命じる主のすべての命令とおきてとを守り行なわないなら,次のすべてののろいがあなたに臨み,あなたはのろわれる」とあり,28:16以下では,イスラエルの民が主なる神の御声に聞き従わない場合,その身に招くのろいがいかに多様なものであるか詳述し,28:15の基本を28:45,58,59で繰り返す.主なる神の御声に従うなら祝福,従わないならのろい,と詳しく述べる意図は,主なる神の御声によく聞き従い,いのちの道を選べとの呼びかけをすることである.<復> この呼びかけは,旧約聖書の実例(民数14:22,23,28,申命1:34以下,4:21等)に基づいて,新約聖書でもなされている.すなわち,新しいイスラエルとしてのキリスト者・教会は,祝福とのろいに直面する中で,神の恵みに応答せよと呼びかけられている(参照Ⅰコリント16:22,23).神の恵み,それは,「キリストは,私たちのためにのろわれたものとなって,私たちを律法ののろいから贖い出してくださいました」(ガラテヤ3:13)とあるように,十字架の事実により現実となる,のろいからの解放である.→祝福,誓約・宣誓,約束,アナテマ.(宮村武夫)
(出典:『新キリスト教辞典』いのちのことば社, 1991)

1259頁 定価14000円+税
いのちのことば社