《じっくり解説》ヤコブとは?

ヤコブとは?

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ヤコブ…

⒈([ヘブル語]yaʽaqōb) イサクとリベカの子で,ふたごの弟の方.彼は心ならずも2人の妻を持つことになったが(レアとラケル),12人の息子が与えられた.ヤコブは後にイスラエルと呼ばれるようになった(創32:28/29,35:10,49:2).彼の12人の息子は,イスラエルの12部族の祖となった(創49:28,出1:1以下,Ⅰ歴2:1).
ヤコブは誕生の時,兄エサウのかかとをつかんでいたところから「かかと」と同じ語根からきているヤコブという名前がつけられた(創25:26).この同じ語根が,「だます」という意味をも持っていたところから,ヤコブが兄や父をだました時,そのような名前の意味が説明されている(創27:36,ホセ12:3/12:4).ヤコブの母リベカは,長い間子どもがなく,祈りの答えとして,彼と兄エサウが生まれた(創25:2).この2人は全く違った性格の持ち主で,エサウは「巧みな猟師,野の人」となったのに対して,ヤコブは「穏やかな人となり,天幕に住んでいた」(創25:27).エサウがお人好しであったのに対して,ヤコブはずる賢く,抜け目のない性格であった.彼は兄の弱みにつけ込んで長子の特権を得(創25:29‐34),父を欺いて,祝福を得た(創27:1‐40).このことからわかるように,エサウは霊的なものの価値についてうとかったのに対し,ヤコブは霊的なものにさとかったのである.しかし,2度も兄をだましたために,兄エサウの怒りを買い,母リベカの兄ラバンのいる実家のある所(パダン・アラムの地のハラン)へ旅立たなければならなくなった(創27:41‐28:5).途中ベテル(ルズ)で野宿した時,天にまで届くはしごの夢を見,そのはしごを神の使いたちが上り下りしていたところから,神が共にいて保護しておられることを確信した(創28:10‐22).彼は母の故郷ハランへ行き,おじラバンのもとで20年働き(創31:38),おじの娘レアとラケルの2人を妻とし,ベニヤミンを除く11人の子どもをその地で得た(創29:21‐30:24).その間にヤコブは多くの富を作り,故郷カナンに帰ってきた.途中マハナイムで神の使いたちに会い(創32:1‐2),ヤボクの渡しでは,夜明けまで神と争い,もものつがいを打たれ,神から祝福を受け,その名をイスラエルと変えられた.いわゆるペヌエル(「神の御顔」という意味)の経験をしたのである(創32:22‐32/32:23‐33).こうして全く変えられたヤコブは,出迎えにきた兄エサウと会い,シェケムに住んだ(創33章).そこでは,彼の娘ディナがヒビ人シェケムに汚されたので,彼の子シメオンとレビが策略を巡らし,町の男たちを殺してしまった.そのため,ヤコブたちはベテルに移らなければならなくなった(創34:1‐35:15).そこからエフラテ(ベツレヘム)へ行く途中で,ラケルは最後の子ベニヤミンを産んだが,彼女は難産のために死んでしまった(創35:16‐21).その後,ヤコブが11番目の子ヨセフを溺愛したためにヨセフは兄たちのねたみを買い,エジプトへ売られてしまった.やがて全世界に及ぶききんが起こり,ヤコブの子どもたちは食糧を求めてエジプトへ行った.やがてはヤコブも家族と共にエジプトへ移り,エジプト近郊のゴシェンの地に住み,そこで生涯を終えたのである(創46:1‐49:33).
老年のヤコブは不動の信仰を持っていた(ヘブ11:21).彼の生涯は人間の赤裸々な姿を示しており,また同時に,そのような罪深い者の上にも神の恵みが豊かに臨んでいることを示している.
ユダヤ人はみなヤコブの子孫であるため,聖書ではユダヤ人のことを「イスラエルの子ら」(申32:8)と呼んでいる.預言書では「ヤコブ」と「イスラエル」をどちらも使っている.また詩的表現としては,これを並行して使っている箇所もある(申33:10,イザ43:1,22,44:1).
イスラエルの3大族長の一人として,アブラハム,イサクと並んで,その名が出ており,「アブラハム,イサク,ヤコブの神」という言い方がなされている(出3:6,マコ12:26,使3:13.参照申29:13/29:12,Ⅱ列13:23).また,イスラエルは,「ヤコブの家」とも言われている(出19:3,イザ2:5‐6,8:17,アモ3:13,9:8,ミカ2:7,ルカ1:33).
⒉([ギリシャ語]Iakōb) イエスの母マリヤの夫ヨセフの父で,マタイの福音書が記しているイエスの系図の中にマタンの子として出てくる(マタ1:15‐16).しかし,この箇所以外,聖書の中での言及はない.
⒊([ギリシャ語]Iakōbos) ⑴十二使徒の一人で,ゼベダイの子(マタ4:21,10:2,マコ1:19,3:17),使徒ヨハネの兄弟(マタ17:1,マコ5:37,使12:2).主の最初の弟子の一人で(マコ1:29),主が最も信頼していた弟子の一人(マコ9:2,13:3,14:33,ルカ8:51,9:28).出生地や若い頃については記録がないのでよくわからない.以前は漁師で,ガリラヤ湖で魚をとっていた(ルカ5:10).彼の家には雇い人がおり(マコ1:20),兄弟ヨハネは大祭司と知り合いで,エルサレムに自分の家を持っていたらしいことから(ヨハ18:16,19:27),彼の家はかなり裕福であったと思われる.マタ27:55‐56やマコ15:40,16:1,ヨハ19:25などから,彼の母はサロメと言い,イエスの母マリヤと姉妹であったと推測される.もしそうであったとすると,このヤコブはイエスのいとこに当たり,やはりダビデの家系に属することになる.彼の名は,共観福音書(マタイ,マルコ,ルカ)にだけ現れ,ヨハネの福音書には「ゼベダイの子たち」という言い方で言及されている(ヨハ21:2).このことは,ヨハネの福音書を書いたヨハネが,彼の兄弟であったことを裏づける一つの証拠となる.ヤコブとヨハネはいつも一緒に名が記されていて,普通ヤコブの方が先に記される(マタ10:2,17:1,マコ1:19,29,ルカ5:10,6:14,9:54等).おそらくヤコブが兄であったのであろう.彼ら兄弟は,性格が激しく,サマリヤのある村でイエスの一行が歓迎を受けなかった時,怒りのあまりその村を焼き払うために天から火を呼び求めることを提案し,イエスに叱責され(ルカ9:52‐55),「ボアネルゲ」(「雷の子」という意味)という名まで頂戴している(マコ3:17).この2人はまた野心家で,その母も彼らが御国で上座につけられるようイエスに懇願し,叱責されている(マタ20:20‐28,マコ10:35‐45).ヤコブは,イエスの十字架上の死後,ガリラヤ(ヨハ21:2)や,エルサレム(使1:12‐13)にいた.彼は紀元44年に,ヘロデ・アグリッパによって殺された(使12:2).十二使徒の中の最初の殉教者であった.
⑵十二使徒の一人で,アルパヨの子(マタ10:3,マコ3:18,ルカ6:15,使1:13).彼についてはあまり知られていない.しかし,おそらくマタ27:56,マコ16:1,ルカ24:10のヤコブと同一人物であると思われる.そうであるとすれば,彼は「小ヤコブ」と呼ばれた人物であろう(マコ15:40).もう一人の使徒ヤコブを「大ヤコブ」とか「年長者ヤコブ」と呼んだのに対して,「小ヤコブ」とか「年少者ヤコブ」と呼んだと思われる.彼の母はマリヤと呼ばれた婦人で,イエスと行動を共にした婦人たちの一人であった(マコ15:40‐41).そうすると,彼の兄弟はヨセということになる.レビと呼ばれたマタイは,マコ2:14によると,アルパヨの子と言われているので,もしもこのアルパヨがヤコブの父と同一人物であるとすると,彼にはもう一人の兄弟マタイがいたことになる.
⑶主の兄弟ヤコブ(マタ13:55,マコ6:3,ガラ1:19).彼はエルサレム教会の指導的な地位にあった(使12:17,15:13,21:18,ガラ2:9,12).彼の名は,福音書には2度しか出てこない.イエスが十字架上で死ぬ以前には,イエスを信じなかったが(ヨハ7:5),主の死後,復活の主の顕現に接して以来(Ⅰコリ15:7),主を信じ,弟子たちの仲間に加えられたと思われる(使1:14).彼の名前がほかの兄弟の中でいつも最初に記されているところから,彼はイエスに次いで年長者であったと思われる(マタ13:55,マコ6:3).彼は,主を信じるようになってから書いた手紙(ヤコブの手紙)で,自分のことを「主の兄弟ヤコブ」とは言わず,「主イエス・キリストのしもべヤコブ」と書いている(ヤコ1:1).彼はエルサレム教会が組織された最初から,その教会の重要な地位にあった.おそらく牧師だったのであろう.彼のことを,4世紀の教父エウセビオスは,「義人ヤコブ」と呼んでいる(『教会史』2:23).このヤコブについては,使21:18以後には何も述べられていない.おそらく殉教の死を遂げたと思われる.
⑷使徒ユダの父,もしくは兄のヤコブ(ルカ6:16,使1:13参照欄外注).ここ以外には聖書中に出てこない.
〔参考文献〕Barclay, W., The Master’s Men, 1959; Filson, F., Pioneers of the Primitive Church, 1940; Gordon, C., “The Story of Jacob and Laban in the Light of the Nuzi Tablets,” Bulletin of the American Schools of Oriental Research, 66, 1937; Holt, J. M., The Patriarchs of Israel, 1964; Hunt, I., The World of the Patriarchs, 1966; James, M., The Apocryphal New Testament, 1926; Mayor, J., The Epistle of St. James, 1913; Millard, A. R., Archaeology and the Life of Jacob, 1962; Plummer, A., The General Epistles of St. James and St. Juda, 1891; Purves, G., Christianity in the Apostolic Age, 1900; Ross, The Epistles of James and John, 1954; Smith, A., The Twelve Christ Chose, 1958; Tasker, R. V. G., The General Epistle of James, 1957.(尾山令仁)

(出典:尾山令仁『新聖書辞典 新装版』いのちのことば社, 2014)

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