アレオパゴスとは?
アレオパゴス…
([ギリシャ語]Areios pagos) 「アレス神の丘」という意味.アテネのアクロポリスの北西にあり,今はほとんど谷が埋もれて狭い坂となってアクロポリスに続いている.高さ113メートルの裸の丘.また,アレオパゴスの評議会の名でもある.軍神アレスがこのアレスの丘で審判を受けたという伝説からそう呼ばれるようになった.この法廷あるいは評議会は,アテネ市の長老たちによって構成され,初期には政治上,宗教上の事件に関しては最高の権威を持っていたが,ペリクレスの時代にはほとんど刑事事件の法廷となっていた.しかしローマ時代には再び宗教や教育道徳の監督にも当たるようになった.議会はアテネの市場(アゴラ)にあるストア・バシレイオス(王室柱廊)で開かれた.おそらくパウロがアレオパゴスに連れて行かれる前にいたのはこの広場であったと思われる(使17:17,19).パウロが立ったのは「アレスの丘」の真ん中(22節)ではなく,議会の真ん中だと思われる.アレオパゴスは,アテネの最も重要な制度であり,古代の権力には及ぶべくもなかったが,やはり偉大な名声を保持し,道徳と宗教に関して特別の裁判権を有していた.したがって外国の神々の説教者(使17:18)がその判決に服すのは当然であったと言えよう.
パウロのアレオパゴス演説(使17:22‐31)は正しい神知識についての演説であった.彼は「知られない神に」と刻まれた祭壇を糸口として,聴衆に彼らが知らないと告白している神を知らせにきたと語った.パウロの演説のことばや引用はギリシヤ的であるが,強調点は徹底して聖書的である.最後にパウロが聴衆に悔い改めを呼びかけ,死者の復活の事実を語ると,評議会はパウロをまじめに考慮するに値しない者として退去させてしまった.しかし,アレオパゴスの裁判官デオヌシオ,ダマリスという女と,その他の人々はパウロの語ることを信じ,信仰に入った(使17:34).
(出典:油井義昭『新聖書辞典 新装版』いのちのことば社, 2014)