《じっくり解説》アブラハムとは?

アブラハムとは?

アブラハム…

([ヘブル語]’abrāhām,[ギリシャ語]Abraam) 別名アブラムという呼び方は,創11:26‐17:5,Ⅰ歴1:27,ネヘ9:7に出てくるのみで,ほかは,アブラハムである.前19世紀のアッカド文書中に,族長たちの名と呼応するアブラハム,イサク,ヤコブ,ヨセフという名が出てくるが,その中のアブラハムに相当する語は,「アバアムラマ」「アバラマ」「アバアムラアム」等と読まれる.ウガリット文書(前14―13世紀)の中では「アブルム」「アビラミ」という語が見られる.
アブラムという意味については,アブは「父」を意味し,ラムはアッカド語の「愛する」か,西方セム語の「高い」という意味で,「父は愛する」「彼は父を愛した」または「彼は父のゆえに高められる」「高められた父」という意味になる.創17:5では,アブラハムとは「多くの国民の父」という意味とされているが,アラビヤ語で「多くの」を意味するルハムと同種の語と,アブとの結合によるものであろう.
アブラハムの生涯についての主資料は,創11:26‐25:10に記されている.テラの子であるアブラハムはノアの子セムの系図で10番目になる(創11:10‐26).アブラハムにはナホルとハランという兄弟があった.彼の妻はサラ(別名サライ)で異母妹であった(創11:29,20:12).アブラハム一家は,カナンの地目指して生まれ故郷であるカルデヤ人のウルを出発した(創11:28,31,15:7,ヨシ24:2‐3,ネヘ9:7,使7:2,4,ヘブ11:8).ハラン滞在中再び神の召しを受けたアブラハムは75歳の時,妻とおいのロトを伴いカナンに向かった(創12:1‐5).シェケムに滞在中,さらに神の約束を与えられ,主のために祭壇を築き,旅を続けてベテルとアイの間に来た.そこにも祭壇を築き,主の御名によって祈った後,南へ向かった(創12:6‐9).そしてききんのためにエジプトに下った時,妻サラを妹と偽って身を守ろうとしたが,露見し,再びネゲブに帰った(創12:10‐20).その後,先に祭壇を築いたベテルとアイの間に天幕を張ったが,牧草地のことで争いが起こり,アブラハムはおいロトに優先権を与えて別れることにした(創13:1‐13).ロトと別れたアブラハムに神から土地所有の約束が与えられ,アブラハムはヘブロンに移ってマムレの樫の木のそばに住み,祭壇を築いた(創13:14‐18).次の14章では,アブラハムは「ヘブル人」と呼ばれている(創14:13)が,それは「川を渡る」「場所から場所へ渡り歩く」という意味である.彼は,東方からの4人の王に略奪されたソドムとゴモラの財産およびおいロトとその財産を,自分のしもべ318人を召集して奪い返した.そして,シャレムの祭司であり王であるメルキゼデクの祝福を受け,十分の一をささげた.その後再びアブラハムは神からの約束を受け,それを契約締結という儀式で具体的に確認した(創15章.参照エレ34:18).
カナンの地に入って10年がたったが,サラには子が生まれないため,彼女は女奴隷ハガルを第2夫人として提供し,アブラハムが86歳の時,イシュマエルが生まれた(創16章).その後の13年間は事もなく過ぎ,99歳のアブラハムは,神から決定的な約束を与えられる.すなわち,アブラハムとサラとの間に約束の子が生まれるということ,アブラム,サライという名がアブラハム,サラと変わること,神とアブラハムとの間の契約のしるし,繁栄のしるしとして,割礼が制定されたことである(創17章).マムレの樫の木のそばで3人の使者がアブラハムを訪れ,アブラハムのもてなしを受けた後,約束の子イサクの誕生を確約して去る(創18:1‐16).同時に,ソドム,ゴモラを滅ぼす計画がアブラハムに示され,アブラハムは町の中の正しい者たちのためにとりなしをする(創18:17‐33).アブラハムのとりなしによって,おいのロト一家だけが滅びの中から救出されるが,ロトの妻は振り向いたために塩の柱となってしまった(創19章).ネゲブに移ったアブラハムは,ゲラルの王アビメレクに対しても妻を妹と偽った(創20章).約束の時がきて90歳のサラと100歳のアブラハムにイサクが与えられる(創21:1‐5)が,イシュマエルとの間を心配したサラの願いで,アブラハムはハガルとイシュマエルを送り出した(創21:9‐21).
アブラハムの生涯の最大事件は,イサクをモリヤの山で主にささげたことである(創22:1‐19).ユダヤ教では,これはアブラハムへの最後の試練であり,第10番目のテストであったと考えられ,「アケダー」と呼ばれている.この信仰の試練を経て,アブラハムは,ついに約束を確かなものとする.妻サラの死を契機として,ヘブロンに墓所を購入し(創23章),イサクの嫁をアラム・ナハライムの地に求め(創24章),イサクの結婚後,再婚して多くの子をもうけたが,彼らには贈り物を与えて東方の国に移らせ,全財産をイサクに与えた.アブラハムは175歳で死に,イサクとイシュマエルの手によって,マクペラの洞穴に妻と共に葬られた(創25:1‐10).アブラハムの先祖が異教の神々に仕えていたという言及は,ヨシ24:2に出てくるほかにイザ29:22にもほのめかされている.アブラハムは「神のしもべ」(創26:24,詩105:6,42),「神の友」(Ⅱ歴20:7,イザ41:8,ヤコ2:23)と呼ばれた.彼は寄留者として,平和を愛した者として,旅人をもてなした者として,友を愛してとりなしをした者として,その他数々の美徳の持ち主として旧新約聖書およびコーランにも記されているが,最も大切な点は「彼は主を信じた.主はそれを彼の義と認められた」(創15:6)ということにある(ロマ4章,ガラ3章,ヤコ2章).
アブラハム時代の生活を理解する聖書外の資料としては,ヌジ文書(前15―14世紀),マリ文書(前18世紀)がある.(富井悠夫)

(出典:富井悠夫『新聖書辞典 新装版』いのちのことば社, 2014)

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