《特集》親との関係を見つめる 「子から親へ」「親から子へ」

信仰生活

《特集》親との関係を見つめる

「子から親へ」「親から子へ」それぞれの思い

地球上で最も近しい人間関係、親子。近いからこそ、わかることもあれば、近すぎるからこそ、見えないことも…。不思議な導きで同じ牧師の道を歩むこととなった陣内さん親子に、それぞれ、お互いへの思いを聞いてみた。
ふだん、面と向かって話すことのない胸の内をことばにし、見えてきたものは…。

陣内厚生さん(父)
1938年生まれ。日本基督教団牧師で、日本連合基督教共励会会長。1962年に東京神学大学を卒業後、東京都・高井戸教会に伝道師として赴任し、以後、山口県・宇部緑橋教会や東京都・三軒茶屋教会などで、48年にわたり牧会。3男1女の父。義父も牧師だったため、長男の大蔵さんは三代目の牧師となる。

陣内大蔵さん(子)
1965年生まれ。日本基督教団東美教会牧師。シンガーソングライター。関西学院大学神学部在学中の1988年にデビューし、「空よ」「心の扉」など数々のヒット曲をリリース。学びは中座するが、後に再開。2007年に日本聖書神学校を卒業し教団の教師に就任。著書に『僕んちは教会だった』(日本キリスト教団出版局)。

子から親へ(大蔵さんから)

  1. 似ていてうれしいと感じる部分
    「似ている!」と、よく言われますが、「うれしいか?」と聞かれると、微妙です。似ていて落ち込むところはいくつか言えるんですが…(笑)。
  2. 尊敬するなあ、と思うこと
    何を言われても、誤解されても、不本意な扱いを受けても(心にはいろいろたまっていたでしょうが)、長年、粛々と牧会にいそしんできたこと。
    5年前から、寝たきりの母を在宅介護で丁寧に面倒見る姿も尊敬しています。初めこそ、困惑や不満を口にしていましたが、父自身が変わってきました。仕える今の姿の根底に「信仰」があるのだな、と感じています。
  3. 苦労をかけたなと思うこと
    これはもう、枚挙にいとまがないと言うか…(笑)。粗雑で野卑だった10代後半、自分のために父が学校に呼び出されたりしたのを皮切りに、大学生活の一時中断や、音楽業界という不安定な世界で右往左往している時、随分と精神的な苦労や心配をかけてきたと思います。今もどこかで冷や冷やしているかもしれませんが…。
  4. 昔と変わったな、と思うこと
    ややキリスト教教条主義的というか、昔は、父が子どもの言い分に蓋をするために用意している「答え」が重石に感じました。今の父は、多様性に対する包容力が倍増したように思う。
  5. 感謝していること
    「祈りとともに生きる」道を与えてくれたこと。反発していた頃は、「反面教師になってくれてありがとう」「乗り越えたいと思う存在でいてくれて感謝」などと、かなり皮肉めいた発言をしていましたが、自分が牧師になり、子を持つ親になった今は、父の存在自体が感謝です。
  6. 親子であることを実感した思い出深いエピソード
    礼拝説教や牧会での力不足を感じ、鈍痛にも似た無力感に襲われた日曜の夕方、演芸バラエティ番組「笑点」を見て、脱力感あふれる笑いに「フフフ」と引き込まれている自分に気づきました。かつて同じようにして笑う父を、こんなくだらない番組のどこが面白いんだと、軽蔑の目で見ていたのですが…。自分に愕然とし、妙に照れくさくなりました。後日、報告すると、「そうだろ、そういう何とも言えない落ち込みはうまく言い表せないよな。そんな時は、あのどうでもいい感じの笑いがいいんだよな〜」と父。その何とも言えない共感に笑い合いました。
  7. これだけは言っておきたいと思うこと
    「いろいろとお騒がせし、心配や迷惑をかけたり、手を煩わせたりと、申し訳ないことばかりでございましたね」。面と向かっては、なかなか言えませんので(笑)。
  8. 父へのお願い
    昔から仕事で徹夜しがちなので、「夜更かし禁止」を。また、母が寝たきりのこともあり、何かあるときは小さなことでも相談してほしい。一人で抱え込まないでほしい。
  9. 今、親のために祈っていること
    介護にいそしむ父の、心と体が支えられるように。母も、これ以上の苦痛や悲しみ、恐怖や孤独を感じることがないように。そして、父と母の関係が神様によって豊かに祝されるように。
  10. 親のことを考えるとき、思い出す聖書のことば
    「わたしは敵対させるために来たからである。人をその父に、娘を母に、嫁をしゅうとめに。こうして、自分の家族の者が敵となる」(マタイ10章35、36節/新共同訳)
    思春期を過ぎてから、親とは随分やり合ってきました。何かと反発し、揚げ足を取っては困らせ…。4人兄弟の長男ですが、兄弟とも言い合うので、あまり好かれていない兄かも(笑)。
    でも、和を乱すのを恐れて問題を曖昧にし、言いたいことも我慢してやり過ごすだけでは対話も生まれない。イエスの言う本当の平和は、そこにはないように思う。先の聖句は、そういう意味で、真理だと思います。
    それぞれの考えや立場の違いを一度テーブルに出すことで見えてくるものがある。その上でお互いを大切にし合うことこそが大事。バツの悪い瞬間はあるけれども、良くも悪くも、家族はそう簡単に壊れないし、それでこそ強まるきずなや信頼があると感じます。
  11. 「親を敬うと、あなたは幸せになる」(エペソ6章3節)のみことばから感じること
    さまざまな問題を抱え、親を尊敬したくてもできないという、切ない事例を多く見ています。方程式のように、親を敬いなさいと誰にでも強いるのは、そうできない状況の人に二重の苦しみを与える可能性があるのでは?
    僕も、親を敬えるようになるにはプロセスが必要でした。一人ひとりに、その季節があるのでしょう。多分それは、今の自分に与えられている恵みに気づき、感謝して受け入れる時。それができてこそ、良くも悪くも今の現実に大きく関わってきた親を慈しみ、敬えるのではないでしょうか。
    そう考えると、親を敬える状態とは、すなわち「立ち帰って、静かに、安らかに信頼している」(イザヤ30章15節参照)状況。それを“幸せ”と聖書は呼んでいるのではないか。現時点ではそういうふうに感じています。

親から子へ(厚生さんから)

  1. 似ていてうれしいと感じる部分
    信仰の価値観を共有できていること。どちらかと言うと客観的に物事を見ようとする傾向や、リベラルなバランス感覚をもてるところが似ていると思う。
  2. 尊敬するなあと思ったこと
    ものおじせず、大勢の人を相手に攻め込んでいけるような度胸は、親にはない羨ましい点かも。
  3. 苦労をかけたなと思うこと
    牧師の子どもということで、小・中学生の頃、周囲からバカにされたり、いじめられたりして、少しかわいそうな思いをさせてしまった。経済的には、息子の大学生時代、学資が乏しく、苦労をかけたと思う。
  4. 昔と変わったな、と思うこと
    息子が伝道者となり、親と共通の話題で話し合えるようになった。
  5. 感謝していること
    息子が親の生き方を継承し、伝道者の道を歩むようになったこと。親の欠点や脇の甘いところを、よく知っていながら、責めるのはほどほどにし、受け流してくれること。
  6. 親子であることを実感した思い出深いエピソード
    高校時代、空手をやっていた息子は、ある時、同級生を失神させてしまった。私は校長室に呼び出され、その同級生の家に菓子折を持って行くやらで大変だった。息子の不祥事の始末をつけるのは、やはり親であることを実感させられた。また、息子が歌手活動に専念していた頃は、自分も息子の1ファンに。いつの間にか、応援する立場になっていたのも、「バカ」つきの親の、なせるわざだったと思う。
  7. これだけは言っておきたいと思うこと
    かつて尊敬する先輩牧師に「君たちは真の意味で“一流の牧師”になれ」と言われて宣教に赴いた。このことばを息子にも伝えたい。
  8. 息子へのお願い
    親が牧師として失敗したこと、不出来だったこと、未完成に終わったことなどを、息子と話し合ってみたい。
  9. 今、子どものために祈っていること
    預かった教会と教会員たちを大切に守れるように。音楽を通じて、日本の伝道のために貢献すること。そして、家族を愛し、特に自分の子どもたちを信仰へ導くこと。
  10. 子育ての中で励まされた聖書のことば
    「聞け、イスラエルよ。我らの神、主は唯一の主である。あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。今日わたしが命じるこれらの言葉を心に留め、子供たちに繰り返し教え、…語り聞かせなさい。…しるしとして自分の手に結び、覚えとして額に付け、…家の戸口の柱にも門にも書き記しなさい」(申命6章4〜9節/新共同訳)
    この聖句は子育ての過程で常に脳裏から消えなかった。良きサマリヤ人の話や、マタイ二15章31〜46節の、最も小さい者たちの必要に応えるたとえ話なども家族で好んで話題にした。
  11. 「親を敬うと、あなたは幸せになるのみことばから感じること
    親が子を育てることの中には、生命の尊厳や、超越者との出会いと信頼、愛することの喜び、将来への希望などを同時に伝達していくことが含まれているのではないだろうか。目先の利得を超えた、はるかに大きな賜物を親は子に与えようとする。神は聖書を通し、自らの存在をして「信じ、従え」と親に命じているが、その親を子が敬うことが、究極の幸せにつながるということを意味していると思う。

〈「百万人の福音」2017年5月号〉

百万人の福音をもっと読む