《特集》依存症 信仰はどのような助けになるか?

信仰生活

依存症がひそかな社会問題となりつつある昨今。ミュージシャンで俳優のピエール瀧さんが覚醒剤使用の疑いで逮捕されたことも記憶に新しい。薬物に限らず、アルコール、ギャンブル、スマホ…、依存症を引き起こしうる原因はあふれている。ひとたび依存症になれば、そこからの回復は非常に困難だ。そんな状況に対し、信仰はどのような助けになり得るのか!? キリスト教信仰に基づき、依存症からの回復を支援している「ティーンチャレンジ」の取り組みを紹介する。

〝更生〟施設が地域の希望になりつつあるワケ

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ティーンチャレンジ 〝更生〟の三本柱

起床は午前3時。ディボーションと朝食を済ませ、車で25キロほど離れた畑へと向かう。空が白み始める午前5時頃、刃物を扱う手元が見えるようになると、作業開始。ひたすらキャベツを刈り込み、昼までにたった4人で2トン、約1000玉もの収穫を上げる。

「日差しが強くなると、暑くて仕事になりませんから。夏のキャベツの収穫は午前中が勝負です」。そう話すのは、ティーンチャレンジ・インターナショナル・ジャパンのディレクターを務める木崎智之(きさき・ともゆき)さん。ティーンチャレンジとは、聖書を中心としたプログラムによって依存症等からの回復を支援する更生団体である。数年前からはプログラムに農業を取り入れ、聖書、規則正しい共同生活、農業を柱に、依存症からの回復と、その後の受け皿を兼ねた働きを模索している。

ティーンチャレンジってどんな団体?

1958年にアメリカで始まったティーンチャレンジの働きは各国へと広がり、日本では2005年に木崎さんが設立。2007年には沖縄に全寮制の更生センターがつくられ、2013年には岡山市の山中にもセンターが開設された。

依存症からの回復と聞けば、「アルコホーリクス・アノニマス」のような自助グループ(※他に、ギャンブル依存のための「ギャンブラーズ・アノニマス」、薬物依存のための「ナルコティクス・アノニマス」といった自助グループがある)がイメージとして浮かぶ。同じ問題を共有する者どうしが、教材を基に学び、互いに励まし合って回復を目指すという取り組みだ。

 

しかしティーンチャレンジのプログラムは、グループでの励まし合いやカウンセリングといった方法は一切とっていない。回復を希望する人は「生徒」としてセンターに入所し、スタッフとの1年間の共同生活と聖書の学びを通して、考え方や生活習慣を変えていくのだ。その間、禁酒禁煙であることはもちろん、インターネットや携帯電話も手離し、ひたすら〝聖書漬け〟の毎日を過ごす。

「私たちは自助グループというより、伝道と弟子訓練の団体です。最終目的は、依存をやめることではなく、イエス様を信じて弟子になること。依存症の問題は人間の罪が根本的な原因です。そのため私たちは、『イエス様を信じて生まれ変われば、新しい人生を歩むことができる。新しい生き方を聖書から学びましょう』と提案しています。ここのやり方に驚く生徒もいます。けれど、聖書の学びを3か月も続けると、クリスチャンでない生徒も神様と出会い、自然と信仰をもつに至ります」

農業プログラムに挑戦!

近年は、更生プログラムに農業が加わった。岡山センターでは開設当初から、地元の農家の収穫手伝いや草刈りなどのアルバイト、時にはボランティアに取り組んできたが、「外に出て体を動かし、汗を流すという活動が、生徒にいい影響を与えていると感じるようになりました」と木崎さんは振り返る。

また、2017年秋に1年間のプログラムを修了して卒業した神谷叡人(かみや・あきと、2019年現在はスタッフ)さんが、「センターに残って農業を続けたい」と申し出たことも、一つのきっかけだった。木崎さんは「『自分たちの畑をもつといい』と勧めてくれた知り合いの農家さんもおられ、それなら本当に自分たちで農業ができるのか、昨年から畑を借りて試してみたんです。すると、四苦八苦しながらもできそうだということがわかったので、今年からは本格的に農業に取り組んでいます。ティーンチャレンジの運営費捻出と、依存症から回復した生徒たちの受け皿・将来の選択肢の一つになればとも期待しています」と話す。

その後、少しずつ畑を増やしていき、現在はセンター付近の畑と、北へ約25キロ行った加賀郡吉備中央町にある畑、合計で1.2ヘクタールを地域の農家から借り受ける。その広大な地を、木崎さんと神谷さん、この春・夏にプログラムを終えたばかりの宮川祐紀(みやがわ・ゆうき)さんと野口博匡(のぐち・ひろまさ)さんの4人(2018年7月当時)で耕すというのだから驚きだ。木崎さんは言う。「今は4人ですが、岡山センターの生徒は平均5、6人で、時期によって人数がまちまちという不安定さはあります。ですが、私たちに農業指導をしてくださっている農家さんが、徹底的に効率を追求した農業で、2人で3ヘクタールまで耕作できると実証されています。その方法をそのまま教えてくださっているので、私たちにも可能だと思っています。それに、事業として成り立つには3ヘクタールぐらいは必要ですから」

それにしても、農業というのは実は非常に緻密で、多岐にわたる作業。種を蒔いて苗を育て、畑を耕して肥料を撒き、苗を植え、草を刈ったり水をやったり、農薬を散布したり…。苗植えの間隔や水をやる時間、農薬の量など、細かい作業をおろそかにすると、良い作物には育たないという。それでも、4人はやり遂げた。苗から丁寧に面倒を見、中古のトラクターで畑を耕し、19,000株ものキャベツの苗を植え、育て、この夏には収穫を終えた。そして、次のキャベツの苗も育ちつつある。

畑に毎日出て、一生懸命作業をするメンバーの姿を見て、地元の人の視線も変わっていったという。「岡山センター開設当初、地元の人には『あやしい宗教団体』『依存症なんて怖い』といったマイナスイメージで見られていました。ですが最近では、外で作業をしていると周辺の農家の方々が声をかけてくれるようになった。農村なので、真面目に働いていれば評価される風土があるようです。都会へ出て行った自分たちの子どもや孫の姿を、私たちに重ねているのかもしれませんね」

また、農業を通して聖書のことばがより身近になったのも、「収穫」の一つ。「〝作物を6年間収穫したら、7年めは土地を休ませなさい〟といった記述がありますね(レビ記25章3、4節)。実際に、同じ作物を何年も作り続けていると、良い作物が取れなくなるんです。非常に理にかなった教え。農作業をやればやるほど、神様がどのように自然を造られているかがわかってきます。また、そういったことを生徒と分かち合えるのもいいですね。種蒔きのたとえ(マルコ4章他)も、実感をもって説明できるんですから。ここで過ごしていると、本当に聖書が言っていることを実感できるんです」

衰退する地域農業の希望の星に

岡山センターのある地域は、全国の他の地方と同じく、農業従事者が高齢化し、減少の一途をたどっている。その中で、若手を中心とした木崎さんたちの農業参入には、地元の農協も大きな期待を寄せている。記者がセンターを訪ねた七月上旬、たまたま来所した農協職員は、木崎さんたちが収穫したキャベツを絶賛した。

「普通は、どうしても虫食いや破裂する玉ができたりするもんです。なかなかこんなりっぱなものはできんですからね。最初、岡山に来られた時は農業が目的じゃなかったと聞いとりましたから、不安な部分もあったんですが、荒れた畑を自分たちで開墾して、今はこんだけのもんが取れるんですから。りっぱやと思います。経営としても一年めから成り立つのではと思います」

 

それも、緻密で丁寧な作業の賜物。さらに、周辺のキャベツ農家で一、二を争う収穫量を誇る木崎さんたちのために、農協が、通常は休みの火・土曜日も集荷場を開けてくれるようになった。こうした地域から認められる体験は、確実に卒業生らの自信につながっている。

「最初はこんな大がかりな農業をやるとは思っていなかった」と話す卒業生の宮川さんは、「他の農家の手伝いをしているときとは、達成感が全然違います。小さい種からいろんな段階を経て作物を育て、そのうえでの収穫はやっぱりうれしい」。また、野口さんは「たった一年でここまで来られたのは普通じゃない。『神様が僕たちを祝福してくれたんじゃないか』と木崎先生は言いましたが、本当にそうだと思います。人間にはできない変革だと、今クリスチャンになって思います」と話す。

そしてその自信は、センターと卒業生に新たなビジョンを生み出している。神谷さんは「僕はまだ力不足ですが、生きづらさを抱えている人に、こういうライフスタイルがあるんだと証しできるようになれれば。まずは生計を立てられる収入を得て、大胆に証しできるようになりたい」。宮川さんは「ここでしばらく自活力を養って、家族を安心させたい」と話す。野口さんは、「ここへ来て、生活も、農業も、聖書を読むことにも真剣にやってみようとチャレンジしたら、いろんなことが変わった。収穫を終えたら東京に戻るつもりですが、クリスチャンになって戻れるのは大きなこと。ここで一年やり抜いたことの自信と、神様が一緒にいてくださるのが励み」と話す。

 

木崎さんのビジョンも熱い。「プログラムを修了しても、すぐに会社勤めをすることが難しい卒業生も中にはいます。この辺りの空き家や耕作放棄地を借り、希望者が卒業後も残って農業ができるように環境を整えていく。そういうかたちで、地域の活性化の一つの見本になれればと思っています」。その意気込みに、農協職員の男性も、「本当に、何年かしたらこの辺りの人がびっくりするようなことになるかもしれんですよ。がんばってください」と期待を寄せている。

〈「百万人の福音」2018年9月号〉

一般社団法人ティーンチャレンジ・インターナショナル・ジャパン
〒700-0976  岡山市北区辰巳28-119-301 TEL:086-244-6080

 

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