《震災から10年》コロナ禍の3.11 あの被災者はいま
未曾有の大災害、東日本大震災から10年が経った。今なお、復興が進まぬ地域もあり、原発の問題は解決されぬまま、再稼働の動きもある。3・11は何を明らかにし、私たちはそこから何を学んだのだろう。そして今また、コロナ禍という困難な時代を生きる私たちに、何を語りかけているのだろう。現地の「今」に耳を傾けるとともに、私たちが進むべき道を探りたい。(本稿は「百万人の福音」2021年3号に掲載されました)
「としまや月浜の湯」女将・渡辺十九夜さん
茨城県北茨城市にある旅館「としまや月浜の湯」。あまり知られていないが、東日本大震災で津波に遭い大きな被害を出した地域に建つ。修復には莫大な資金が必要だったが、その年の終わり、祈りの中で奇跡的に営業は再開(「百万人の福音」2016年3月号既報)。しかしこのコロナ禍で、また旅館は危機に瀕している。
3.11で受けた甚大な被害
2011年3月、渡辺十九夜(わたなべ・とくよ)さんは60歳を目前に控え、そろそろ後継者にバトンタッチしていこうと思っていた矢先だった。
「高校生の時に信仰をもち、『神様がいてくださるのだから大丈夫。自分さえ頑張ればなんでもできる』と夢中で働いてきました。しかし、あの大震災。自分がどう頑張ってもどうしようもない現実がありました」
「としまや月浜の湯」は、明治初期に旅籠屋を営むところから始まった温泉・海辺宿で、渡辺さんは5代目女将。震災により、十数年前に建て替えたばかりでまだ多額のローンが残る旅館を津波が襲った。
「津波は一階の天井まできて、館内や玄関などは車や流出物が散乱。ことば無く、ああ、神様…と立ちすくむしかありませんでした」
修復にかかる費用は5億という見積もり。建て替えのローンも合わせれば6億の借金を抱えることになる。
もう無理だ、と渡辺さんは思った。しかし、ここで廃業したとしても借金は残る。従業員たちの生活もある。退くも進むも道がないような状況で、進むしかなかった。毎日津波にのみ込まれる夢、ローンが払えないで逃げ回る夢を見た。そして「神様助けてください!」と祈る中で、奇跡が起こる。
「まずは、大勢の方々が祈ってくださり、宣教団体を通じてのべ1400人の方が復興ボランティアに来てくださった。半分以上はノルウェーや韓国など外国の方々でした。本当にありがたかった。そして修復にかかる費用は違う業者へ依頼すると1億下がり、かけていた保険からの支払い、国からの補助金で、建物の修復分ぴったり与えられたのです。もちろん、これまでのローンもあり、さらに、保険のきかない備品、運営資金とさらに億単位の借り入れをしなくてはならなかったのですが、それでも大きな助けであり、神様が起こしてくださった奇跡、前へ進めというメッセージだと思いました」
震災の年の10月、営業再開することができた。
津波がとしまや前の大北川の堤防を超える瞬間
コロナ禍で再び試練が
震災から10年たち、今旅館は再びコロナ禍という試練の中にある。そもそも震災後、客が戻ってくるには時間がかかった。社長である夫と自分の給料は半分以下、休みもなく、庭の手入れや浴衣の丹前の洗濯も自ら率先して行うなど、努力を重ね、経常利益がようやくプラスに転じた矢先の出来事だった。
「あの時は60歳前ですけど、もう70歳前です。正直、体は以前よりつらいし、思うように動かない。実は2019年の台風被害も相当なものでした。もう耐えられない、そう思ったりもするのですが、最近不思議と神様は同じメッセージをさまざまな書物を通じて語ってこられるのです」
実は渡辺さんは、無類の読書好き。部屋も廊下も本棚で埋め尽くされており、歴史書や小説など女将としての教養のための本もあるが、その多くが聖書日課や注解書などの信仰書だ。朝起きて血圧を測りながら、またはトイレの中で、旅館の仕事を終えた少しの時間など、1日の中で何度も読書に勤しむ。
「時間はね、作るものだと思うんです。もうルーティンになっています。本を読む時間は本当に楽しくて仕方ないんです。血圧測りながらのちょっとした時間は1日ごとに区切られた聖書日課がぴったり。このコロナ禍で今、複数の本から『この世には患難がある、試練があるのだ。だから祈り続けなさい。勤勉と努力と忍耐で立ち向かいなさい』と語りかけられています」
渡辺さんは、読書日記をつけている。これまで読んだ本のタイトル、何年に何冊読んだかも一目瞭然だ。
「実はあの震災の年はそれまでよりも多くの信仰書を読みました。不思議と苦しいときこそ、困ったときこそ読んでいる。だからこそ、耐えられたんだと思うんです。人には愚痴を言わないと決めていましたが、神様には祈りの中でなんでもお話ししていました。そして、みことばを通して神様は語ってくださった。これがあったから、私はこの試練を乗り越えられましたし、信仰がなければとっくに諦めていました」
最後に渡辺さんにビジョンを聞いた。
「自分がいつの日か天国へ行った時に、神様に『よくやった。忠実な僕』と言っていただけるよう、一日一日を悔いなく歩みたい。そしてなかなかできないけれど、神様からの光を反射するように輝き、人々がその輝きを見て神を知ることができるように…、そう願っています」
被災という試練の中に咲く一輪の花は、光に照らされ、美しく輝いていた。
〈「百万人の福音」2021年3月号〉