《試し読み》『上手に怒る人になる』

信仰生活

「第十章 怒ったときに自分に投げかけたい質問」より

青葉台カウンセリングルーム代表
臨床心理士
 小渕朝子

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変えられるか、変えられないか?

もう一つの問いは、「その状況は変えられるか。それとも、変えられないか」という質問です。

例えば、「電車を待つために並んでいたが乗るときに横入りされた」、「職場の人が自分に挨拶をしない」など、イラッとした瞬間、一呼吸おいて、「この状況は、変えられるか?」と考えます。

「変えられる」と思えば、相手に注意する、してほしいことを伝える、など行動に移してみましょう(ただし、やみくもに怒りをぶちまけることはしないでください!)。

でも、「変えられない」と思ったなら、受け入れる。こういう人もいるさ、こういう日もあるさ、とあきらめて受け入れてみるのです。そしてあきらめたなら、イライラを引きずらないようにすることが大切です。

私は以前、子どもに頼まれて買い物に行ったとき、店の前に予想以上に長い行列ができていて、イライラしたことがありました。けれども、それはその日に買う必要があるものだったので、並ぶしかありません。

そのとき私は、この状況は変えられるか、変えられないか、と自分に尋ね、「変えられない」と判断しました(こういう場合、「変えられる」と判断して、買うのはまた別の日にする、別のお店に行くなどしてもいいと思います)。

そして「変えられない」と判断したのだから、イライラしながら待つのはやめようと決め、持っていた本を読んだりスマホを見たりして気分を変えると、穏やかな気持ちで待つことができました。

赤の他人のことなら、その人に関する状況を「変えられない」とあきらめて現状を受け入れることは、それほど難しくないかもしません。けれども、家族や子どもとなると、「変えられる」もしくは「変えなければならない」と意気込んでしまい、「変えられない」という選択肢を取りにくくなる場合があるかもしれません。

そういうときは子どもの行動を「変えられること」と「変えられないこと」に細かく分けてみましょう。「変えられる」と思うことについては、何をどのように、いつまでに、変えられると思うのか、具体的にイメージしてみるのです。

以前、三歳の娘が遊びから帰りたくないといって泣くとイライラする、というお母さんがアンガーマネジメントのセミナーに来ました。子どもの行動を「変えられるか、変えられないか」と考えてもらったところ、彼女はこのように決めたのです。

「ぐずぐずしてなかなか帰ろうとしない」という行動は「変えられる」。けれど、「泣く」という行動(感情)は「変えられない」と。

ですから、母親としての彼女が集中すべきことは、「子どもが泣かないようにする」ことや「泣かないで、と叱る」ことではなくて、泣くほど帰りたくない気持ちに寄り添いつつ、少しでも子どもが帰りやすいように工夫をするということだ、とわかったのです。そう答えたお母さんはとてもスッキリした顔をしているように見えました。(『上手に怒る人になる―子育てが楽になるアンガーマネジメント』より一部抜粋)

ニーバーの祈り

神よ
変えることのできるものについて
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを
識別する知恵を与えたまえ。

ラインホルド・ニーバー(大木英夫訳)