《特集》戦前・戦中の教会を再考する①

信仰生活

国策に取り込まれていった教会

戦前・戦中のキリスト教会の動向を探る上で、当時のキリスト者の置かれた状況がよく表れた3つの事件を紹介。その後、「戦前・戦中の教会を再考する②」で、星出卓也牧師に当時の教会と国家の関係について語っていただく。

星出牧師による「戦前・戦中の教会を再考する②」はコチラ

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内村鑑三不敬事件

 1891年、第一高等中学校の嘱託教員であった内村鑑三が、教育勅語の奉読式において、天皇の直筆とされる署名に対して最敬礼を行わなかったことが不敬とされ、教職を負われた事件。正確には、内村は敬礼を行わなかったのではなく、最敬礼をしなかっただけであったが、同僚や生徒によって非難され、やがて社会問題へと発展した。

美濃ミッション事件

 美濃ミッションの歴史は1918年、宣教師セディ・リー・ワイドナーが岐阜県大垣市で始めた開拓伝道に由来する。美濃ミッションは大垣市を拠点に教勢を拡大し、県外にまで伝道を展開した。
 1929年9月、大垣市中小学校が神社参拝に出掛けた際、生徒である美濃ミッションの教会員子弟数名が「神社は偶像である」としてこれを拒否。翌年三月、この件が地元紙で報じられたのを皮切りに、批判報道が全国的に拡大した。
 1933年、大垣東小学校の生徒だった美濃ミッションの子弟が、伊勢神宮参拝旅行への参加を拒否。学校側は、「国民として国祖・皇祖・祖先は敬うが、…信仰の対象としては参拝しない」と述べる母親と生徒を学校に呼び出し、参拝しなければ停学・退校・放校するという〝教育指導〟を繰り返し行った。
 地元紙である美濃大正新聞は、「嗚呼! 伊勢参拝を拒む非国民的母親 例の美濃ミッションから」と題して事態を糾弾。するとすぐさま、誤報や中傷を交えた報道が再び全国紙に掲載された。
 この後、当初は一信徒を対象にしていた批判が、やがて教育界、政界まで巻き込んだ美濃ミッション排撃運動へと発展していく。特に大垣市では地元民による苛烈な排撃運動が行われ、PTAによるポスターや「美濃ミッション排撃の歌」、排撃市民大会、路傍伝道の暴力的妨害など次々とエスカレート。排撃一色となった市内は、異常とも言える状態だった。
 ワイドナー自身にも命の危険が迫る中、彼女を最も苦しめたのは、信仰を同じくする者からの批判だった。地元の日本基督教会大垣教会は、「我々日本主義キリスト信者にとって迷惑千万」「神社に低頭して敬意を払うのはキリスト教信仰に何ら差し支えない」と批判。また、数名の教職者が美濃ミッションを離れ、ワイドナーは「葬式よりもつらい」と語っている。
 このような中でも、美濃ミッションの牧師たちは信仰を曲げなかった。ワイドナーは、美濃ミッションの名が全国的に知られたことを受け、「主を賛美しましょう。我らにはこのような広告を出すお金はありませんから」と語ったという。また、「全国基督信徒に告ぐ」と題した文書を全国各地の教会、キリスト教関連団体などに発送。信教の自由の危機として、全国の信者に、支援ではなく一致・協力を求めた。ワイドナーに共感し、祈りを共にするキリスト者は少数存在したが、国家政策に傾く教界全体の流れの中で、既に一致は困難だった。
 1939年、美濃ミッションは、改めて宮城遥拝・天皇崇拝に断固反対する立場を明確にする。1942年には牧師数人が投獄され、解散を命じられたが、妥協することなく信仰は守り通した。

セディ・リー・ワイドナー(左)と内村鑑三

ホーリネス弾圧事件

 1942、43年の2度、全国のホーリネス系教職者が治安維持法違反の嫌疑で一斉検挙された。逮捕者は、日本基督教団第六部、第九部(ホーリネス系)に属する教職者が122人、教団外が12人の、計134人に上った。
 ホーリネスが当局に文字通り〝狙い撃ち〟されたのは、「再臨のキリストがすべての国民を裁く」という教えが、「万世一系の天皇を神とする国体観念を妨げる」とされたことが大きな要因とされている。しかし、この教理は他の多くの福音派教会も同じくするところであり、ホーリネスは日本のキリスト教界に対する〝見せしめ〟にされたと考えられる。
 この事態に対して日本基督教団は、「彼らの熱狂的信仰は…手の下しようもないくらい気違いじみているため、これを…処断してくださったことは、教団にとり幸いであった」などと述べて検挙を歓迎。やがて、文部省の要請に応じ、教会設立許可取り消しと牧師の辞任を要求し、教団6部と9部の教会を解散に至らせた(戦後約40年たった1984年、日本基督教団は当時の誤りを認め、関係者とその家族に対して公式に謝罪している)。

【参考文献】『日本宣教と天皇制』櫻井圀郎、石黒イサク、上中栄共著(いのちのことば社) 『日本キリスト教宣教史』中村敏著(いのちのことば社)ほか
「百万人の福音」2018年5月号より】

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