《特集》千葉台風被害ーボランティア体験

社会・国際

あなたもできるボランティア! 初心者体験記

2019年秋の連続した台風上陸から二か月後、被害を受けた千葉県で支援を展開するオペレーション・ブレッシング・ジャパンの活動にボランティアとして参加。現地で見たものは、いまだに物理的被害の回復途上にある人々の姿と、表だって見えてこない潜在的な課題の複雑さだった—。

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立て続けに台風に襲われた千葉県・館山市へ

 2019年秋、立て続けに本州に上陸した台風や豪雨が、東北、関東、中部地方の各地に甚大な被害をもたらした。中でも9月の台風15号以降連続して被害を受けた千葉県では、大規模停電や断水、家屋損壊などが広範囲にわたって発生。それから2か月が過ぎた11月現在、地元以外のニュースではほとんど報じられなくなったものの、多くの人々がいまだ復興の途上にある。

地域の被災跡。ブルーシートが痛々しい

 「特に屋根がやられると被害が長期化します。高齢の方は自力でブルーシートを貼ることもできないから我々が支援に入るんですが、何度貼っても剥がれてしまう。『雨が降るたび、水が漏るんじゃないかと不安で寝られない』と言いますよ。精神的にも相当な負担でしょう」。県南端の館山市で、発災直後から災害緊急支援を行ってきたキリスト教国際NGO「オペレーション・ブレッシング・ジャパン」(OBJ)の弓削惠則マネージャーは言う。
 現地がどのような状況にあり、特に必要とされている支援は何か。少しでも具体的に知ることができればと、OBJの活動にボランティアとして参加させていただいた。

いざ、作業開始!

 実はボランティア体験は初めて。「どのような装備が必要か」「デリカシーのある振る舞いができるか」など、参加前からいろいろと不安は尽きない。
 当日、館山駅前で弓削さんと合流。支援先のお宅で、この日の作業メンバー全員と顔を合わせた。OBJスタッフは、弓削さんとコーディネーターの伊東博さん。ボランティアは、記者のほかに東京キリスト教大学の学生さん4名、そしてどこかで会ったことのある気がする若者が3名。なんと、2019年に「百万人の福音」で連載していた木崎智之氏(依存症者の更生と社会復帰を支援する「ティーンチャレンジ・ジャパン」の日常を描いた「土と聖書で生き直し」)に派遣され、ボランティアとしてティーンチャレンジ(TC)のメンバーが来ていたのだった。既視感は連載の写真でだったのか。黙々と一生懸命作業する彼らのようすに、こちらまで何となくうれしくなる。

 ちなみにボランティアの装備は、汚れても構わない服、軍手、長靴、防塵用マスクなどを自前で。水や弁当、健康保険証、手拭いなども持参するとよいそうだ。うっかりマスクを忘れてきた記者に、準備万端の学生さんが1つ分けてくれた。優しい。
 この日の作業内容は、支援先のお宅の倉庫の片づけ。木片、鉄くず、紙類…あらゆる種類の物が倉庫内にあふれており、そのほとんどが廃棄物だという。早速作業を開始。と思いきや、支援要請のあった別のお宅の下見に回るという伊東さんに同行させていただけることになり、分別作業に奮闘するTCメンバーと学生さんたちを残して早々に戦線離脱。何となく後ろめたい気持ちに…。

市民宅に併設する倉庫の片づけ。廃棄物分別し、細かくするなどして処理しやすくする

支援要請宅を回っての被害確認へ出発

 支援を要する被災市民は、市の社会福祉協議会(社協)に電話などで依頼する。その要請が社協からボランティア団体に振り分けられるのだが、具体的支援に入る前に、まずは被害の程度を目で確認するのだという。同じ館山市でも、地域や家屋の築年数によって被害程度はさまざま。「日頃からメンテナンスをされているお宅は被害が少ないですね。海沿いのお宅は潮風などで木が腐ったりして、そこに台風が来て屋根ごと飛んでしまったりと、被害が大きくなります。屋根を直そうとすると柱や壁板が潮風ですでにボロボロというケースもあり、そうなると立て替えが必要になってくる。被害程度を実際に見てみないと、簡単だと思っていたら実際はそうじゃなかったということもよくあります」と伊東さんは話す。

 この日確認に回ったお宅は3軒で、別荘と思われる1軒めは留守。2軒め、3軒めのお宅は被害は比較的軽かったが、それゆえに緊急度が低く見積もられ、修理や支援を依頼してもなかなか順番が回ってこないのだという。「一方で、業者を装って修理を請け負おうとする輩がしょっちゅう来ますよ」と、2軒めに住む男性が話してくれた。

 伊東さんは言う。「破損した家屋が多すぎて、特に屋根の修理は職人が限られているので長期間待たされることが多い。被害が軽度だったお宅は、実際には困っていても『自分のところはまだましなほうだから』と、口に出すことも遠慮しちゃうんですよね」。物資の配布、泥出し、瓦礫撤去といった直接的な災害支援だけでなく、そうした心理的負担や複雑な課題を抱えた人々へのアプローチが、非常に大切でかつ不足しているのだという。
 災害時には、自分1人では解決困難な問題を抱えた人々の存在が、いわゆる「災害弱者」として浮き彫りになる。実は、この日片づけ支援に入ったお宅もそれに近いという。記者は、台風で受けた物理的被害の後片づけをさせていただくのだと単純に考えていたが、それだけではなかった。伊東さんによれば、「あのお宅は台風で被害を受けられたのですが、災害前からも物がたくさんありました。平時はシャッターが閉じていてわからないけど、災害が発生したことによってボランティアや支援の人が訪ね、その方が抱えている課題が明らかになった。中には、問題があることを周囲に知られたくないと支援を拒絶する人もいます。あのお宅は僕たちの支援を求めてくださったわけですが、本来的には心の内側に関わる支援が必要で、片づけだけをやっても元に戻ってしまうことがある。その、内面の支援をどうすればよいのかが課題です」という。

支援要請のあったお宅で破損部分をチェック

かつてなかった支援のあり方へ

 こうした「災害弱者」への適切なアプローチに関して、OBJでは今、一つのアイデアを模索している。それは一人のボランティアと活動を共にしたことで生まれた案だという。
 2018年、西日本豪雨の被災地・岡山県真備町で、OBJメンバーはボランティアとして現地に来ていた武山世里子さんと出会う。「武山さんは、京都の障害者福祉施設『からしだね館』(2018年に「百万人の福音」で関連の「福祉と福音」を連載)でソーシャルワーカーをされている方で、『被災した方々のために自分にできることはないか』と、とにかく熱い思いをもっておられました」と弓削さんは振り返る。

 翌2019年秋、武山さんは千葉での支援活動にも参加し、長野に被害状況の視察に行くというOBJにも同行した。両被災地で一行が見たものは、経済的に困窮し、配偶者の介護をしながら被災後の後片づけをする高齢者など、多くの「災害弱者」の存在だったという。弓削さんは言う。「武山さんはふだんから精神保健福祉士として、さまざまな困難を抱えた人たちの相談を受け、助言や援助を行っている方。被災地でも、『支援は必要ない』と言い張るお年寄りに粘り強く働きかけて病院に送ったり、詐欺のはがきが来てパニックになられたお年寄りに、成年後見人をつけるよう勧めて不安を除いたり。今、その方に何が必要かを判断して、適切な援助につなげていくという支援のあり方を見せていただきました」

 いわゆる「災害弱者」と呼ばれる人々は、同時に「情報弱者」でもあると弓削さんは話す。災害時だけでなく平時から、自分が今抱えている課題について必要な援助の情報を得ることができていないのだという。「同時に、特に独居のお年寄りなどは誰からも見守られていない可能性がある。そこで、支援する側が行政、地域サークル、ボランティア団体、病院などと相互にネットワークを作り、必要な援助につなげて誰かがその方を見ている、そういう仕組みづくりをしていきたいと思っています。それには、まずはその方自身が何を望んでおられるのかを丁寧にヒアリングする。でなければ本当の意味で生活再建を果たすことはできませんから。そういう支援のあり方を、災害時に緊急支援団体とソーシャルワーカーが協力することで構築していければと考えているんです。これは、今までになかった災害支援のかたちです」
 そのためには人手、人材が不可欠で、クリスチャンにはその可能性があると弓削さん。「いろんな立場や考え方の人が、一つの理念のもとに協力することができる。それはクリスチャンの強みで、行政にはできませんから。そのためにはまず、今各地に立てられている教会が外へ出て行って、人々のために砕かれていく必要があると感じています」

この日のボランティア作業終了!

 夕方、倉庫が片づき(記者も午後は作業に加わった。念のため…)、この日の支援は終了した。家主の女性は、「嫌な顔ひとつしないで楽しんで作業をしてくれて…」ととても喜んでくださった。この日のボランティアメンバーは皆キリスト教の関係者だったが、確かに、廃棄物とはいえ物を丁寧に扱い、作業自体を楽しむようすが印象的だった。弓削さんが話してくれた「クリスチャンの強み」が一瞬頭をよぎる。
 市の処理場に廃棄物を運んだ後、市内で最も被害が大きかった最南端の布良地区を見せていただいた。高台から見下ろす家々の屋根はブルーシートで青く染まり、ほとんどの家屋が台風によって何かしら被害を受けたという。完全な生活再建にはほど遠く、おそらく「災害弱者」と呼ばれる方々も少なくないだろう。被災地外に住んでいれば、こうした光景を想像することすら難しい。ボランティア参加前はわからなかったが、現地に行くことで初めて見えてくるものがあると改めて感じた。「とにかく現場を見てほしい」。それが、「何か自分にできることはあるか」と迷っている人々への、OBJの願いでもある。

市内でも最も被害の大きかった布良地区

 オペレーション・ブレッシング・ジャパン(OP)の働きについてはコチラ

【「百万人の福音」2020年2月号より】

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