「最高の贈りものをあげよう」。
謎めいた「サンタ」の誘いで小児病棟で手伝いをする少年モーは、紙袋をかぶった奇妙な少女に出会う。「サンタ」がモーに贈ろうとしたもの、そして「ペーパーバッグ(紙袋)クリスマス」の意味するものとは?
……クリスマス・ページェントの最後の歌のひとつは、東方の三博士の歌、「われらはきたりぬ」だった。やせほそった四番目の博士、マドゥーがほっそりした頭に、金色と紫色のかんむりをちょっとななめにかぶって、顔中で明るくにこやかに笑い、低くて重々しい声で歌いながら舞台に出てきたとき、ぼくは思わず吹きだしてしまった。この歌は三人の博士の歌だ。四人の博士の歌ではない。だからウィンブルさんは、最初マドゥーを博士にくわえることに強く反対したのだろう。歌の終わりに、博士はヨセフとマリアと生まれたばかりの赤ちゃんイエスさまの前でおじぎをして、贈りものをさしだす。博士たちの中でいちばん背の高い革の小袋を持った博士がまずあいさつをした。「わたしが持ってきたのは、イエスさまにふさわしい贈りもの、黄金です」
次に二番目の博士が前に進みでて、一礼した。「わたしも君主、イエスさまにふさわしいものを持ってきました。東方のわたしの国の乳香です」そういって二番目の博士はうしろに下がって、三番目の博士がまぶねに近づけるようにした。
「わたしはわが国でもっとも高価な贈りものである没薬を持って、はるか遠い国から救い主に会いにまいりました」この博士に扮したのは女の子で、ちょっと目立つけど、変だとは思わなかった。
次はマドゥーが前に進みでて、贈りものをさしだす番だ。でもなぜかマドゥーはまったくなんにもしない。木の箱を持ったまま、身動きもしないで、まぶねの中に横になっている赤ちゃんをじっと見つめている。そこで三番目の博士がマドゥーを二、三歩うしろへ下がらせて、マドゥーのあばら骨をこづいた。するとマドゥーはちょっとびくっとして、われに返った。でもまぶねに近づいてはいかないで、くるっと向きを変えて、観客のほうを向いた。
「ぼくも東方から来ました」マドゥーはいった。
ぼくはマドゥーがあんなにゆっくり話すのを、それまで一度も聞いたことがなかった。一語一語をはっきりと、しかも考えながらしゃべる。
「ぼくはインドで生まれました。みなさんの宗教のことはあまり知りません。この赤ちゃんが救い主かどうか、ぼくにはわかりません。でも本で読んだかぎりでは、この赤ちゃんはたしかに偉大な預言者です。多くの人びとからまさに神の子としてうやまわれるでしょう」
マドゥーが話しているとき、観客席はまるで水を打ったようにしんと静まりかえった。エンジェルたちがみんな集まっているぼくのところから、ウィンブルさんが座席で前かがみになって、真っ赤になった顔を両手でおおうのが見えた。
「ぼくは聖書を読んで知りました。まぶねの中で生まれたこの赤ちゃんが大きくなっとき、どんなことをし、どんなことを教えるか。たしかにこの赤ちゃんは生まれたときから偉大な人物になると決まっていて、世界でいちばんすばらしい贈りものを受けるのにふさわしい赤ちゃんです。でも」そこでマドゥーはちょっと口をつぐんで、数秒間、その言葉を空中にただよわせていた。「ぼくにはこの赤ちゃんにさしあげられるような贈りものがありません」
そういってマドゥーがなにも入っていない箱を開けると、部屋中のだれもがいっせいにはっと息をのんだ。するとマドゥーはまた話しはじめた。
「いつの日か、この赤ちゃんは自分についてくる人々に、こんなことをいうでしょう。わたしを愛するなら、わたしの戒めを守りなさいと。それではなにを守れといわれたのでしょう?〔わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合うこと、これがわたしの戒めです〕といわれました。もしこの赤ちゃんがほんとうに神さまの子どもなら、神さまの子どもが必要とするこの世の贈りものはありません。神さまは、黄金も、お金も望まれません。神さまが望まれるのは、ぼくらがほかの人たちを愛することです。だからそれが、神の子にささげるぼくの贈りものです。ぼくはこれまで以上にどんな人も愛するように心がけます。姿、形がどうであろうと、どんな人も」そういって、マドゥーはちょっと左を向き、きちんとカトリーナの顔を見て、ほほえんだ。それからまた話を続けた。「ぼくらはみんなちがっています。でもちがっているのはほんの少しです。共通点がたくさんあります。ぼくはちがいには目をつぶり、共通点に目を向けるようにしようと思います」
マドゥーの目じりから涙が一滴ぽろっとこぼれて、頬をつたった。マドゥーはまたくるっと向きを変えて赤ちゃんのほうを向き、まぶねの足もとにきちんとひざまずいて、からっぽの箱を置いた。
「これはちっぽけな贈りものだということはわかっています。でもぼくがイエス・キリストにささげられるのはこれしかありません」……(『ペーパーバッグクリスマス 最高の贈りもの』より一部抜粋)
ケヴィン・アラン・ミルン 著、宮木陽子 訳
ひとりの女性として、自分の人生を生きているだろうか。母として、妻として、娘として、女性として「こうあるべきだ」との周囲のプレッシャーに押しつぶされる前に、そして、神から与えられた本来の素晴らしい自分を回復させるために必要な「やめるべきこと」を考える。