《旅する教会》バングラデシュ編①:なんか色々と満ちている街、ダッカ

社会・国際

旅する教会 ーアジアの教会を訪ねて:バングラデシュ編①

鈴木光(すずき・ひかり):1980年、横須賀生まれ東京育ち。アメリカの神学校を卒業後、2006年に日本キリスト教団勝田教会に伝道師として赴任。2010年より主任牧師。妻と娘1人。著書に『「バカな平和主義者」と独りよがりな正義の味方』(2016年、いのちのことば社)、『伝道のステップ1、2、3』(2018年、日本基督教団出版局)。趣味は読書(マンガ)とゲーム、映画、ネット。

 これはアジアの教会のリーダーたちが、互いの国の教会やリーダーを訪ね歩いて学んでいく共同体型の研修〝PALD(Pan Asia Leadership Development)〟の様子を記した旅エッセイである。僕と旅の仲間たちの道中を、どうぞお楽しみください。(毎週火・金曜日更新!)

バングラデシュ旅の位置関係

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なんか色々と満ちている街、ダッカ

バングラデシュに降り立つ

 2018年秋、某日。
 午後、バングラデシュのシャージャラル国際空港に到着した。
 無事に入管を経て外に出ると、タクシーの客引きらしき人々がスキがあれば声をかけようと、こっちをまるで獲物を見るような目でじっと見ている。誰かが迎えに来てくれる手はずになっていたので、いかにも「お迎えの人はどこかな~」という雰囲気でキョロキョロしながら足早に歩く。
 が、残念ながらそれらしい人物はいない。仕方がないので、空港のWifi(電波弱め)を頼りにエリソン(今回のホスト国・バングラデシュからの研修参加者)に連絡を試みるが、なかなかつながらない。

 少し困ったと思っていたが、幸いにしてほどなく大柄な男性が僕の方に寄って来て「おお、君がスズキだね」と言って迎えてくれた。マレーシアの集会で見た記憶のある顔なので、大丈夫そうだと判断してついていく。車に乗り込んで空港からダッカ市街へ向かった。(※マレーシアの集会やこの旅のはじまりについてはこちら

 迎えに来てくれた男性はピーターと名乗る。後でわかったが、国際伝道団体「アジアン・アクセス」のバングラデシュ代表(National Director)であり、BSFB(Bible Students Fellowship of Bangladesh、IFESに加盟している日本で言えばKGK的な学生ミニストリーの団体)の代表者の方だった。偉い人とは知らずに気安く道すがら色々と話を聞いたが、とても気さくに大きな声でなんでも応えてくれた。感じのいい人だ。

クラクションの応酬と貧富が顕著な町並み

 車で移動を始めると、まず何といっても気になるのが交通ルールだ。
 というか、交通ルールがなさそうということだろうか。
 いや、もちろんルールがあるのだと思う。でも、自分が乗っている車の運転手さんも含めて、やたらとクラクションを鳴らしながら、みんな実に気ままに動きながら運転している(ように見える)。後日、実はこのクラクションはお互いの安全のために意思疎通をしている車同士のコミュニケーションであることに気づくのだが、最初はとにかくハチャメチャだなと思った。
 信号も(首都ダッカ市街ですら)ほとんど無くて、みんな思い思いに割り込み、すり抜け、移動している。しかも、市街に入ると車だけではないのだ。リキシャ(名前は日本の人力車に由来)と呼ばれる自転車で引くタクシーとか、徒歩の人たちがその中に入り乱れて動いている。これでよく事故が起きないねと聞いたが、「いや起きるよ」とのこと。
 でしょうね。
 とはいえ、僕が乗っている間は少なくとも皆「阿吽の呼吸」でうまいこと動いている。本当に車の移動は乗って見ているだけでも楽しかった。

 さて、市街に近づいてきて最初に目立ったのは、町の至るところに貼りまくられているポスターだ。人の顔がたくさん映っているので、商品の宣伝でないことはわかる。なんだろうと思って尋ねてみると、もうすぐ選挙があるので、その候補者や政党のものだそうだ。
 実はこの選挙はバングラデシュのクリスチャンたちには特に重要なものだった。別の機会にエリソンと話していて選挙の話題になった時に、現在の政権は宗教色が強くなくてよいのだが、よりイスラム主義が強い政権になるとクリスチャンの立場がさらに苦しくなるかもと心配していた。だから、祈ってほしいとも。
 そんなことがあったので、後日、日本で選挙結果を知ることになり、エリソンの願っていた形の結果になっていて、僕も短く感謝の祈りをしたことを覚えている。実際に行っていなければ、おそらくバングラデシュの選挙結果に興味をもつことはなかっただろうなと思う。

 その後、ダッカの市街を抜けて、少し郊外にある町の宿舎に向かった。
 道すがら、トタン屋根がのせてあるだけの掘っ立て小屋のような建物がぎっしりと建てられている所があり、ピーターから「ここら辺は貧しい人たちのエリアで、あの辺に並んでいる家具は貧しい人向けの家具屋さんなんだ」とか(実際、けっこうな数の家具が外に並んでいる空間があった)、「この辺の小屋はこの前の水害で建物を失くした人たちが避難してきた集落だね」とか説明を受けた。
 そうかと思うと、また少し行ったところでは、野原に立派な道が通り、唐突に15階建て以上の立派なマンションみたいな建物が並んでいる所もあった。こちらは「政府が建てているものだね、多分完成したら政府関係者が住むんじゃないかな」とのこと。
 その立派な建物の脇には、先ほどと同じような掘っ立て小屋が、やはりいくつかポツポツと点在している。なかなか対照的な建物が並んでいる光景で、ある意味では急速な成長をしようとしている姿の象徴なのかもしれないと思った。

大きな建物と、手前に小さな家屋の住まい

建設途上のクリスチャンセンター

 宿舎となるのは、ピーターさん自身がミニストリーとしてファンドレイズ(資金集め)をして建てられている「生ける水センター」という、クリスチャンセンターの建物だ。ピーターさんはここで、牧師やリーダーたちの研修施設(今回、我々が利用しているのはまさにこれ)、そして病院も併設したセンターを造る計画を進めている。
 「建てられている」とか「進めている」というのは文字通りの意味で、建物の建設も現在進行形なのだ。実はこの施設に限らず、街中でよく建物の屋上に鉄筋がビョンビョン飛び出している所がある。最初に見た時は「廃墟になって上から崩れてきているのかな」と思っていたが、実態はむしろ逆で今後の建設で使う鉄筋部分なのだという。
 つまり、今後も建設は続いていくんだけど、資金ができるたびに少しずつ続きをやるので、途中までできているところは使いながら、また残りの工事も続けていくというスタイルなのだ。
 ちなみに言うと、建設途中どころか、土台というか土地をブロックで囲んであるだけ、というところもよく目にしたが、これは自分の土地を資金がまだだからと放っておくと、勝手に人が住んだりしちゃうから予防のために枠だけ作っておいているのだそうだ。

鉄筋がビョンビョン出てる使われながら建設中の建物

一見放置されているようでも、実は建設途上なのだ

 で、建築の途中といっても、寝泊まりさせてもらう部屋も食事場所も既に十分できていて、かなり快適過ごさせてもらった。僕は日本での仕事の都合で、皆より少し遅れて到着したのだけど、「お腹が減っているだろう」といって、早速センターの食堂(専門の料理人さんがいる)で遅い昼食をいただいた。いわゆるカレーベースのジャガイモのスープと、小さいナンみたいなやつ、そして魚の煮込み(もちろんこれもカレー風味)を食べた。今後、わざわざ書かないが、基本的にはカレー文化圏なので、味のベースは全部カレーである。ちなみに僕はエスニックな料理大好きなので、いつも非常に楽しくいただいています。むしろ、ただでさえ太っているのに、毎回さらに太って帰ることに。
恐ろしい。

基本カレーベースな現地料理

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