旅する教会 ーアジアの教会を訪ねて:バングラデシュ編⑤
鈴木光(すずき・ひかり):1980年、横須賀生まれ東京育ち。アメリカの神学校を卒業後、2006年に日本キリスト教団勝田教会に伝道師として赴任。2010年より主任牧師。妻と娘1人。著書に『「バカな平和主義者」と独りよがりな正義の味方』(2016年、いのちのことば社)、『伝道のステップ1、2、3』(2018年、日本基督教団出版局)。趣味は読書(マンガ)とゲーム、映画、ネット。
これはアジアの教会のリーダーたちが、互いの国の教会やリーダーを訪ね歩いて学んでいく共同体型の研修〝PALD(Pan Asia Leadership Development)〟の様子を記した旅エッセイである。僕と旅の仲間たちの道中を、どうぞお楽しみください。(毎週火・金曜日更新! この旅のはじまりについてはこちら)
霊的Blindness
人、車でギュウギュウのダッカ市街
Dhaka Assembly of God教会を後にして、しばらくダッカ市街を観光する。モスクを見学させてもらったり、ブリゴンガ川の河港(今でも交通の要衝だそうな)を見て回ったりした。
その中でも最も目を引いたのは、やはり人の多さだと思う。僕は東京出身で新宿や渋谷が生活圏だったから、人混みにはかなり慣れている方だと自負していたが、そんなレベルではなかった。特に人だけじゃなくて、どこにいっても空間という空間に人と、車と、リキシャと、ちょっと動物(おもに犬)がギュウギュウに詰まっている感じなのだ。
先にも書いたが、車はしょっちゅうクラクションを鳴らしている(第1回)。日本だとクラクションはあまり鳴らすとケンカになってしまうが、ここでは「後ろから俺が来てるぜ、ひかれるなよ、気をつけろよ」という意味で使われているのが徐々にわかってきた。
また、これだけ密集していると僕の感覚ではストレスがひどいので、すぐにケンカになりそうだと思うが、怒っている人は見かけなかった。ということはこれが日常なんだなと思い、とても面白かった。
ちなみに、ドリーさん(アジアン・アクセス・インターナショナルのスタッフで高澤健先生の奥さん)も同じように思ったらしく、車内で「怒っている人を一人も見ていない(すごい)」とピーター(国際伝道団体「アジアン・アクセス」のバングラデシュ代表)に言った瞬間に、めっちゃ怒り狂ってる人に車の窓を叩かれて「これが一人目だ」と言ったそうな。まあ、確かにどの国でも何かに怒っている人はいるのだ。
ともあれ、とにかく人が多い。
福島にみんなが来た時(PALDの最初の研修国は日本で福島で開催した)は、基本みんな車に乗っていて街中で人が歩いていないので、「こんなに人がいなくてどうやって伝道するの?」と思われたのだが、僕は逆に「こんなに人が多くて混沌としていてどうやって伝道したらいいのかな?」と思った。
オレンジ髭のおじさんたち
他に気になっていたのは、オレンジ色の髭を伸ばしたおじさんをよく見かけること。ほんとにオレンジ色なので自然になるわけはなく、絶対染めているんだろうなというのはわかるのだが、ファッション的にやっているのか何なのか興味をもっていた。そこでバングラデシュからの参加者・エリソンに聞いてみると、あれはイスラムの教えで髪などを染めるのにヘンナ(という植物由来の染料)を使って染めると良いというのがあるので、やっているそうだ。
でも、エリソンは「とはいっても話しを聞いてみると教えを良く学んでやっているというよりは、伝統を受け継ぐためのイスラム教信仰で、見た目優先の人もけっこういる」とのこと。それは「霊的Blindness」、つまり霊的に目が開かれていない状況だとも言っていた。
信仰は中身というより伝統の引継ぎになってしまっているというのは、どこか日本でも思い当たるところがある。僕は正直言うと「オレンジ髭はなかなかパンクで格好いいな」と思っていたので少し反省した。僕も霊的Blindnessだ。