《ハートフル・クリスマス・ストーリー》おかえり、 ビッグ・ジョン

証し・メッセージ

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ハートフル・クリスマス・ストーリー

 ブレンダ・ヤング

おかえり、ビッグ・ジョン

クリスマス・プレゼントが開けられて、床には包み紙が散乱し、孫たちは新しい人形やプラスチック製のブロックや電気仕掛けのおもちゃで楽しそうに遊んでいます。義姉は、クリスマス・ツリーの後ろ側にこっそりと入ると、靴箱くらいの大きさの美しい金色の包装紙に包まれたプレゼントを取り出しました。

「孫の誰かへの何か特別なプレゼントかしら?」

私は、そう思いました。

「メリー・クリスマス」

義姉はそう言うと、私にプレゼントを差し出しました。

私は包み紙を引きはがし、ゆっくりと箱のふたを開けました。そこにはくたっとしたぬいぐるみのピエロが一体、私のほうをじっと見ています。

そのぬいぐるみは、ビッグ・ジョンでした。チェックのカバーオールはところどころ擦り切れて、私が覚えていた頃にはなかったしみも増えていました。最後にビッグ・ジョンを見てから二十年以上もの歳月が経っていたのですから無理もありません。ピエロの人形をぎゅっと強く抱きしめると、思い出が走馬灯のように次から次へと浮かんできて、私の感情はすっかりあの頃へと引き戻されていきました。

それは、一九八三年の夏のことでした。息子のジェイソンはたったの五歳でした。数カ月の間、私は深い悲しみに打ちひしがれ、我を忘れて茫然としていました。いったいどのようにして、まだこんなに幼い息子に、その残された命が短いのだということを知らせたらよいのでしょう。私自身が息子を見送る心の準備さえできていないのに、どのようにしてこの世を旅立つ準備をしてあげたらよいのでしょうか。

ジェイソンは難治性の白血病にかかっていました。それまでの二年間、病院への入退院をくり返しながら、血液や骨髄の検査を受けたり、数カ月にもわたる化学療法を受けたりしていました。発病当初から、ジェイソンがこの悪性のがんに打ち勝つ可能性は極めて低いとドクターに告げられていましたが、私はその事実を受け入れることができませんでした。

私は神様に向かって祈りを捧げ、奇跡が起こることを願い求めていました。ジェイソンがいなくなってしまった将来のことなど、考えないようにしていました。もちろん、そのことについてジェイソンと話しませんでしたし、二人の姉たちにも話しませんでした。夫とでさえ、ほとんど話題にしませんでした。

けれども、その年の夏のことでした。七月になってジェイソンがまた入院することになったとき、ドクターが私を呼びました。

「できる限りのことをしてきましたが、残念ながらこれ以上手の尽くしようがありません。残された日々は自宅で家族と過ごされたほうが、ジェイソン君のために良いのではないでしょうか」

ドクターと一緒にジェイソンの病室へ向かいながら、私はたった今聞かされた言葉の意味を、心の中で何とか消化しようとしていました。

病室で、ドクターがジェイソンの手を取ってたずねました。

「ジェイソン君、お家へ帰るっていうのはどうだろう? もう病院へ来て、注射をしたりお薬を飲んだりしなくてもいいんだよ」

「うん、僕、それがいい」

ジェイソンの声は明るく無邪気で、ドクターの言葉を素直に信じている様子でした。ドクターに言われたことの意味がほんとうにわかっていたのでしょうか。その瞳の奥に悲嘆の影がないのかどうかと、私はジェイソンの表情をうかがいました。

私はジェイソンのそばにあったぬいぐるみのピエロを見ました。ピエロの名前はビッグ・ジョンといい、これまでいつもジェイソンと一緒でした。私の母が、ジェイソンが初めて白血病だと診断を受けたときに買ってくれたものでした。ビッグ・ジョンは目と鼻と口がフェルトでできている手作りのぬいぐるみで、いつもにっこりとほほえんでいました。名前は、コロラド州に住んでいる

大好きなおじさんの名前にちなんで、ジェイソンが付けました。

ビッグ・ジョンは、病院の外来でもジェイソンと一緒でしたし、入院中はいつもベッドの傍らにいてくれました。点滴や検査を受けているときにも、ビッグ・ジョンは一緒でした。食事をするときにも一緒でしたし、三輪車のかごにも乗っていました。

ビッグ・ジョンはジェイソンに、単に安心感を与えてくれただけではありませんでした。ジェイソンにとっては、かけがえのない親友のような存在だったのです。ときには、力づけてさえくれるようでした。

私も、徐々にビッグ・ジョンのことが好きになっていきました。ただのおもちゃには違いありませんでしたが、このぬいぐるみのピエロは、私の心に神様に対する信仰や生きる力、そして平安を感じさせてくれたのです。

けれども、ぬいぐるみにできることには限界がありました。ビッグ・ジョンは、ジェイソンに化学療法が効いていないことや、もう病院の友達に二度と会うことはないんだと教えることはできませんし、残された命が短くなっていることを告げることもできません。

ドクターが部屋を出て行くと、私は退院の準備のために持ち物をまとめ始めました。私は家までの六十マイル(約百キロ)の道のりを、まるで息子の身に起こっている現実を先に引き延ばすかのようにして、ゆっくりと運転して家路につきました。けれども、途中私たちのお気に入りの公園を通り過ぎると、そこで遊んだことを思い出さずにはいられませんでした。

「ママ、どうして、葉っぱの色が変わるの?」

落ち葉でおおわれた秋の小道を散歩しているときに、ジェイソンがたずねたことがありました。

「神様が、そうなさっているのよ。春には、まるで生まれたてのように緑色をしているでしょう。葉っぱは、夏の間じゅう生き生きとしていてね、秋が来るとね、枯れて死んじゃう前にきれいな色に変わるのよ」

「僕のお友達のライアンだって、死んじゃった」

「そうね、ジェイソン。悲しかったわね」

「ライアンも、僕みたいな病気だったんだ」

「そうだったわね」

「ママ、僕も死んじゃうの?」

さあ、とうとうこの質問が投げかけられてきました。

(神様、何て答えたらいいのでしょうか)

そう祈りましたが、何の答えも見つけることができませんでした。

「どう思う?」

やっとのことで、私はそう言いました。

「いつかはね。でもそんなのずっと先のことだよ。ママやパパがいなくなってからのことだよ」

私は、ジェイソンの手をぎゅっと握りしめました。

「あのね、パパやママはたとえどんなことが起こっても、いつもあなたと一緒よ」

「うん、わかってる」

ジェイソンの目は、葉っぱの上をうじゃうじゃとはっている毛虫を見ています。私には、ジェイソンが私の言ったことを理解できているのかどうかわかりませんでした。

その後、ジェイソンは死について話したことはありませんでした。

ジェイソンが退院し、七月も終わろうとしていた日のことでした。私は毎晩、ジェイソンとビッグ・ジョンをベッドに寝かしつけるとそれぞれの頬におやすみのキスをしました。

「大好きよ」

私は、声が詰まりそうになるのをこらえて言いました。

ジェイソンは私にほほえみ返して、「ママ、大好きだよ」と、いつものように言ってくれました。

一晩だけでも、ジェイソンをおいて部屋を出て行くのはつらいことでした。しっかりと抱きしめていたかったのです。ジェイソンがビッグ・ジョンを抱きしめていたように、わが子を決して手放したくなかったのです。

ジェイソンを病院から連れて帰った二週間後に、義姉から電話がかかってきました。彼女の息子のマイキーを連れていくから、ジェイソンと一緒に遊ばせてやってくれないかというのです。義姉たちは、車で二時間のデイトンという町に住んでいました。私たちは、この二人の子たちが一緒に遊ぶのはこれで最後だとわかっていました。

マイキーがやってくる前の晩、私がいつものようにジェイソンとビッグ・ジョンにおやすみのキスをして電気を消したときのことです。

「ママ、明日マイキーが来たら、僕のビッグ・ジョンをあげるんだ」

ジェイソンがこう言ったのです。電気のスイッチの上に置かれた私の手は、凍りついたようになりました。

「どうして、そんなことをしたいの?」

「だって、僕にはもうビッグ・ジョンはいらないんだ。でも、マイキーにはいるんだよ。マイキーにはパパがいないでしょ。だから、ビッグ・ジョンがいるんだよ」

マイキーの父親は、彼が生まれる前に自動車事故で亡くなっていたのでした。

「だけど、ジェイソン、あなたにだってビッグ・ジョンがいるでしょう」

「ううん、いらないよ、ママ。僕には、もういらないんだ」

「わかったわ。それじゃあ、明日になってからにしましょうね」

私はかろうじてこの言葉をささやくと、電気を消して、自分のベッドルームに入りました。悲しくて胸が張り裂けそうでした。もし、もうすぐすべてがおしまいになるとしたなら、私にはビッグ・ジョンが必要だったのです。息子の短い人生の中で、彼が最後まで大切にしていた宝物を手放したくなどありませんでした。私には、何かすがる物が必要だったのです。

ジェイソンが寝入ると、私は彼のベッドルームにそっとしのび込み、ベッドの下にピエロを隠しました。

次の朝、ジェイソンはいとこに会えることにとても興奮して、ビッグ・ジョンがなくなっていることには気づいていないようでした。子どもたちはホットウィール(アメリカの玩具メーカー・マテル社のミニカー)で夢中になって遊んでいました。やがて、マイキーが帰る時間がやってきました。

「そうだ、ママ。ビッグ・ジョンはどこ?」

ジェイソンがたずねました。

「ああ、きっと、どこかに置いてあるんじゃない? 心配しなくていいわ。あとで見つけましょう」

「だめだよ、ママ! どうしても今だよ。今、見つけて!」

私は気持ちを落ち着けると、ジェイソンの部屋に入って行き、ビッグ・ジョンを取り出しました。

ジェイソンは、いつもどんなときにも一緒にいた大切な親友に最後のお別れのハグをして、頬を押しあてました。私はそんな息子を見つめていました。

「さよなら、ビッグ・ジョン。マイキーのめんどうを見てあげてね。マイキーもきっと君をだいじにしてくれると思うよ」

ジェイソンは、ぬいぐるみのピエロをマイキーに差し出しました。マイキーは母親のほうを向いて、それから私のほうを見ると、最後にジェイソンを見てすっかり困惑している様子でした。

「いいんだよ。君にあげるんだから」

ジェイソンは、マイキーの腕の中にビッグ・ジョンを置いてあげました。

ジェイソンは疲れているようでした。けれども、その顔はまるで長くて困難だったレースを走り抜いたかのように輝いていました。マイキーがビッグ・ジョンをしっかりと抱えているのを見ると、これでいいのだというようにうなずいています。

そのときです。私は、神様がジェイソンをその愛の御腕で抱きかかえておられるのを感じ取りました。その不思議で確かな実感は、想像もできないくらい深く私の心に慰めを与えてくれたのです。私は、これから先に待っていることのために準備する必要などなかったのです。神様が私のことを導いてくださっていることがわかったからです。

一週間後、ジェイソンは愛する家族に囲まれて平安のうちに息を引き取りました。

私は、それから数カ月の日々を深い悲しみにくれて過ごしました。神様に祈りを捧げ、心に慰めを与えてくれる聖書の言葉を探し求めました。あるときには、ジェイソンのベッドルームに入って何時間も過ごし、もう一度、この腕に抱きしめることができるならと願いました。けれども、私の心の痛みが激しくなり、喪失感が深くしのびよって、どうしてこれから前に向かって進んでいくことができるだろうと胸を締めつけるような思いにかられるときは、いつも思い出すのです。神様の愛に包まれたようなあの慰めに満ちた一瞬を。

「もう、マイキーにはビッグ・ジョンはいらなくなったのよ。もしかすると、今度はあなたが必要なんじゃないかと思ったの」

義姉がそう言うと、私は手に取ったぬいぐるみのピエロに目をやりました。

「おかえりなさい」

私はそう言うと、特別な場所を見つけて、そこにピエロを置きました。亡きジェイソンの思い出にしがみつくのではなく、彼がその短い生涯の最後に教えてくれたことを忘れずに生きていくために。それは、自らは変えることのできない現実を受け入れることが、心に平安を生む最大の秘訣であって、大切なものを手放すことによって、慰めを受けることができるということなのです。(『クリスマスハートフルストーリー~ちいさな10の奇跡』より一部抜粋)

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