ハートフル・クリスマス・ストーリー
ロザリン・H・フィンチ
赤いミトン
クリスマスが近づいて、私は母にお小遣いをしつこくせがんでいました。「買ってきたプレゼントより、手作りのプレゼントのほうがずっと心がこもっているのよ」と言う母に向かって当てつけるように、私は言いました。
「五年生の他の子たちなんか、みんなクリスマスのプレゼントを買うんだもん。どうして私たち、いつも貧乏でなくちゃいけないの?」
私は、ぶつくさと不平を言いました。
「人にプレゼントをあげることと貧しいこととは関係ないのよ。何をあげるかではなくて、どういう心であげるかが大切なの」
母はそう言いましたが、私は認めようとはしませんでした。
その年のクリスマスの週は、オハイオ州では季節はずれの暖かさで、一カ月かかって積もった雪が溶け出して、汚い水たまりがぬかるみになっていました。けれども、それは私にとって好都合でした。というのも、ひとつのアイデアがひらめいたからなのです。
土曜日の朝早く、私は出かけるために、五歳の弟のディッキーに洋服をしっかりと着込ませました。ディッキーは、この近所でただ一人だけ手押し車を持っていたのです。私は、張り切ってマッキーノーコート(厚地のラシャで作った半コート)を着込み、大急ぎでブーツに足を突っ込むと、手袋をはめました。手押し車に入っていたディッキーのがらくたを全部取り出してからっぽにし、そこにディッキーを乗せて、いざ出発です。
裏庭を通って、わが家の土地の一番遠いところまで続いているとうもろこし畑の刈り株を抜けると、私たちが進んで行く道のりがはるかかなたに見えました。私は急ぎ足で、ディッキーを乗せた手押し車を引っ張って駆け出しました。
手押し車の車輪は、ちょうど刈り株の列の間を通れる大きさでしたが、雪が溶けかかったぬかるみの中をディッキーを引っ張って行くのは大変でした。私は、自分の計画にすっかり夢中になって興奮していたのですが、それがどれほど困難なことか、ほとんど気がついていませんでした。
やっとのことで、とうもろこし畑と隣合わせになっている汽車の線路までたどり着くと、自分の計画をディッキーに打ち明けました。
「ディッキー、線路のそばに落ちている石炭のかたまりを全部見つけて、手押し車に積み込むのよ。それから、ガソリンスタンドへ行って、それを売るの。同じクラスの女の子のいとこなんかは、いつもそうしてるって言ってたわ。雪がほとんど溶けてるからラッキーよ。そうでなければ、石炭が見つからないでしょう」
「お金にするの?」
ディッキーは目を見開きました。
「僕にも、分けてくれる?」
「もちろんよ。二人で分けるの」
そう約束しました。
「わあい、すごいや!」
ディッキーは急いで手押し車から降りると、一生懸命になって石炭を拾おうとしました。
「どうして、石炭がここに落ちてるの?」
弟は身をかがめて、「黒い宝石」のかたまりから雪を手で払いのけながらたずねました。
「汽車から落ちてくるのよ」
私は、できるだけ早く石炭のかたまりを拾っては、手押し車に投げ入れながら、喜びをおさえきれずにいました。石炭がこんなにたくさん落ちているとは夢にも思わなかったからです。
あっという間に、手押し車には小さな黒い山が積み上がり、私たちはガソリンスタンドへと向かいました。
私が手押し車を引っ張り、ディッキーが後ろから押しました。ガソリンスタンドに続く道路にたどり着くまでに、ディッキーは寒さの中でへとへとになって、めそめそと泣いていました。
すると、教会でよく見かける年配の女の人が、張り出し玄関のぬかるみを掃いているところに通りかかりました。スコットおばさんです。
「どうしたの、あなたたち?」
スコットおばさんは、声をかけてくれました。
「何でもありません。ただ弟が寒いって泣いてるんです」
「家の中へ入って、ストーブのそばへ来ない? 温かいココアをごちそうするわよ」
ディッキーは大喜びで、おばさんの家に向かって駆け出しました。私も少しだけでも暖まってココアを飲みたかったのですが、断りました。石炭を売ってお金をもらうことのほうが気がかりだったからです。私はすぐに戻るからと言って、ディッキーをそこへ残して出かけました。
風が強く吹き付けて、私は一人でずっしりと重い手押し車を引いて、残りの道をとぼとぼと歩いて行きました。寒さで感覚のなくなった足で、あちらこちらへとよろめきながら歩き続けました。手は凍えてかじかんでいました。
ようやくたどり着いたガソリンスタンドで、店のおじさんがこう言うのを聞いたときには、私の心は完全に打ちのめされました。
「天気が良くなってきたって知らなかったのかい? うちは石炭はもう買わないんだよ。まだたくさんあるからね」
手押し車のハンドルをつかんで歩き出そうすると、あまりにがっかりして涙が川のように頬をつたって流れ落ちました。どんなふうにして、スコットおばさんの家へとたどり着いたか思い出すことすらできません。
「さあ、ディッキー、お家へ帰らなくちゃ……」
何とかそう言うと、私はがっくりと地面に目を落としました。
「まあ、いったいどうしたっていうの?」
スコットおばさんは、私を家の中へ優しく招き入れると、涙のしみが付いた顔をエプロンでふいてくれました。
「キッチンのストーブのそばへ来て、ココアをお飲みなさい」
ディッキーは、私の洋服のそでを引っ張って聞きました。
「もらえたの、お金? ねえ、もらえたの?」
興奮して早口でべちゃくちゃとしゃべると、自分のお金をもらおうとして私のほうに手を差し出しています。
最低です。私はみじめな気持ちでいっぱいになって、とうとう大声を上げて泣き出してしまいました。
「お金はもらえなかったの。ガソリンスタンドのおじさんは、石炭を買ってくれなかったんだもん」
ディッキーは、私のことを慰めるように、だまったまま私のひざに抱きつきました。
涙をふこうとして頭を上げると、スコットおばさんが湯気の立ち上ったココアのカップを私のほうに差し出してくれました。
「それは、残念だったわね。あなたたちが二人でどんなに一生懸命、石炭を拾ったかをディッキーが話してくれていたところなのよ」
私はうなずきました。
「学校のクラスで、クリスマスのプレゼントを交換するためにお金がいるから、それを当てにしていたの」
スコットおばさんは、信じられないというように頭を横に振って舌打ちをすると、私に同情してくれました。すると、心配そうだったおばさんの顔がぱっと明るくなりました。おばさんは、食器棚のところへ急いで行くと、棚のてっぺんに手を伸ばして古びた黄色のティーポットを下ろしました。ティーポットのふたを開けると、一ドル紙幣や十セントや五セントの白銅貨をどさっと出しました。
「これじゃあ、あなたの石炭を買うのに足りないかしら?」
そうたずねながら、テーブルの上に広げました。
(お金だ!)
私は目を見開くと、一ドル紙幣のしわを伸ばしているおばさんの手をじっと見ました。その手は赤くなってざらざらしているようでした。私は目を上げると、おばさんのエプロンには継ぎ当てがしてあって、キッチンにかかっていたカーテンは色があせて、窓には新聞紙がテープで張ってあるのに気がつきました。
私の心は、ずっしりと沈み込みました。
(おばさんは、石炭のためにこのお金を手放すことなんてほんとうはできやしないんだわ)
ふと目を上げると、カウンターの上に赤いミトンの手袋が積み上げてありました。私は、興味津々でそれを見つめました。
「教会の伝道団体で使ってもらうために編んだのよ。はめてごらんなさいな」
はめてみると私の手には大きすぎたのですが、そうは言いませんでした。
「すてきだわ」
ほんとうに心からそう思ったのです。
「誰だってこんな手袋なら欲しいに違いないわ」
私はテーブルの上のお金をじっと見ると、ここで何と言うべきなのかがとたんにわかったのです。
「スコットおばさん、おばさんが編んだミトンの手袋と石炭を交換してくれませんか」
「そんなにこの手袋が気に入ったの?」
私はうなずきました。
「それは、すてきなことだわ」
おばさんは、喜びで顔を輝かせると肩にセーターを引っかけました。ストーブのそばから離れると寒かったからです。
こうして、その年のクリスマスには、母が作った「手作りのプレゼント」の中から一つを、クラスでプレゼント交換をすることにして、スコットおばさんが編んだ暖かくて気持ちの良い手袋は、自分のために取っておきました。おばさんのプレゼントはその冬の間じゅう、私の手を暖めてくれたのです。
それよりももっと大切なことは、おばさんと石炭を交換したことを思い浮かべると、心が何だかぽかぽかと温かくなってきたことでした。母の言ったことは、正しかったのです。プレゼントは、どういう心であげるかが大切なのです。
スコットおばさんと私は、すばらしい取り引きをしたのでした。(『クリスマスハートフルストーリー~ちいさな10の奇跡』より一部抜粋)