地域にしっくりとなじむ 雰囲気あるたたずまい
巣鴨聖泉キリスト教会(東京都豊島区巣鴨)
とげぬき地蔵に詣でる高齢者が集い「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる巣鴨。その町にある教会は、ビルの立ち並ぶ町の中で、植栽を多く取り入れた外観が、風景の中にホッとした空間となっている。教会付属の小屋で机や椅子を作ってしまうユニークな牧師が、出迎えてくれた。

東京都豊島区巣鴨は、山手線の巣鴨駅付近から北西へと広がる風情ある下町である。特に、旧中山道に沿って発展した巣鴨地蔵通り 商店街は、通称「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる名所だ。名物の塩大福に行列をつくったり、ファーストフード店でくつろいだりするおばあちゃんたちの姿が多く見られ、温かさを感じる地域である。
商店街から巣鴨駅を挟んだ反対側に、大和郷と呼ばれる一帯がある。かつて、三菱財閥の創業者である岩崎家が購入、整備・分譲した地域で、今日も伝統ある閑静な住宅街として知られている。その一角に建つ巣鴨聖泉キリスト教会は、コンクリート打ちっ放しの会堂に木造のレトロな工房が隣接し、前庭に花と緑があふれる。
散歩中にふと迷い込んだカフェのようだ。

「空間としては、軽井沢の雰囲気を目指しています。思わず入り込んでしまうような、雰囲気のあるたたずまいが理想です」と話すのは、小嶋崇さん。両親の彬夫さん、寛子さん夫妻が1965年に開拓した教会を引き継ぎ、2005年から主任牧師を務めている。
現会堂は2001年の献堂で、設計士のコンセプトがうかがい知れる、統一感のある造りだ。付近の多くの住宅が高い塀で敷地を囲うようにしているのに対し、公共スペースを意識して開放的にし、入り口から玄関までのアプローチを長くとった。「訪れた人が、礼拝へと気持ちを切り替えることができるよう意識しました」と小嶋さん。日常から非日常への転換。地域の景観にしっくりなじみ、かつ、来る者を優しく、静かに歓迎するこだわりの会堂だ。
礼拝堂は、5.6メートルもの高さのある吹き抜けを備えた開放感あふれるスペース。壁はコンクリートにもかかわらず、開口部を縁取る古材や木製の椅子、温かみのある床材や扉などが不思議な調和をつくりだしている。調度品のうち、講壇や聖餐卓、壁際の照明、本棚などは、ほとんど小嶋さんの作。神学生時代、アメリカ留学中に身の回りの必要に迫られて自己流で木工を始め、経験は25、6年になるという。
小嶋さんの木工は、地域との関わりにも一役買っている。2016年からは、会堂に隣接する木工房「活水」を週に一度開放し、地域の人が自由にお茶を飲んだり、常設の図書を手に取ったりできるティールームにしている。仕事の昼休みを利用して訪れたり、ふらりと入ってきて人生の悩みを話す人もいるという。

地域に開かれた教会であることを、小嶋さんは常に試行錯誤する。「特に西洋の教会は、地域共同体の中心的な役割を長く果たしてきました。それが、今の教会は地域に埋もれてしまっています」。留学時代、教会のパンフレットづくりについて考えたことがあった。教会だけを紹介するのではなく、地域を俯瞰するイラストマップに教会を配置して、地域全体とともに紹介するというアイデアだ。手にした人に、「地域の中にある教会」を印象づけることができる。「巣鴨でパンフレットを作るならグルメ情報をピックアップしたい」と、小嶋さんは笑顔で話す。
町歩きスポットとしてにぎわう巣鴨。思わず興味を引かれる同教会のたたずまいは、地域の他の観光名所にも決して引けをとらない。
(取材:藤野多恵)<「百万人の福音」2017年1月号より>